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第十二話・私が思っていたホワイトデーとちがう

恋愛にかける熱量がすごい

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 バレンタインは誠慈君に、とんでもない醜態を見せてしまった。誰も問題のある人と、わざわざ関わりたくはない。私の面倒な部分を知ったことで、誠慈君に疎まれないか密かに心配だった。

 しかし誠慈君は変わらないどころか

「あのさ、今度の日曜日に萌乃の家に、お邪魔させてもらっていいかな?」

 3月に入って少し経った頃。珍しく休日に私の家に来たいと言って来た。

 しかも誠慈君は続けて

「それと図々しいんだけど、萌乃の家の台所を貸してもらえないか、お母さんに聞いて欲しいんだ」

 彼氏に手料理を振る舞う彼女の話はよく聞くが、うちは誠慈君が何か作ってくれるらしい。

 こんな風に言うと文句があるみたいだが、誠慈君が遊びに来てくれることも何か作ってくれることも、とても嬉しい。

 早速その日の夕飯の席で、お母さんに誠慈君の要望を伝えると

「今度の日曜日って……」

 カレンダーに目を向けたお母さんは、何かに気付いたように「ああ」と言って

「いいわよ。台所も材料も好きに使って」

 と快諾したばかりか

「誠慈君がうちに来るなら、私たちは邪魔にならないように、どこかに出かけていようかしらね」

 お母さんに話を振られたお父さんは「え~?」と不満そうな声をあげて

「せっかくの休みなんだから、うちでゆっくりしたいよ~」

 と子どもみたいに駄々をこねた。私の怠惰なところや甘やかしてくれる人には無限に甘えてしまうところって、お父さん譲りなのかな。

 父の振舞いから、自分のルーツに想いを馳せる私をよそに

「お父さん、ちょっと」

 お母さんに何か耳打ちされた父は、なぜか「ぐぅぅ」と唸って

「そういうことなら出かけるか」

 インドアテレビっ子のお父さんには珍しく外出に応じた。


 約束の日。理解がありすぎる両親が自ら不在にしてくれた家に、誠慈君がやって来た。食材や食器、調理器具など大荷物でやって来た誠慈君に、私は目を丸くして

「何を作るの?」
「できるまで内緒」

 誠慈君が料理する姿を見てみたかったが

「ゴメン。緊張するから部屋で待っていて」

 台所から締め出された私は、仕方なく自室で待機した。


 それから1時間くらいして、誠慈君に呼ばれてリビングに来た。リビングのローテーブルには、艶々の苺と生クリームをたっぷり添えたお店みたいなフワフワパンケーキが置いてあった。とてもご家庭では真似できない完成度のパンケーキを目撃した私は

「えっ? これ誠慈君が作ったの?」

 私の驚きように、誠慈君は照れたように「うん」と微笑みながら

「今日はホワイトデーだから、萌乃に美味しいものを食べさせてあげたくて」

 お母さんがカレンダーを見て「ああ」と言っていたのはコレだったのか。

 私はバレンタインに、誠慈君にチョコパンケーキをご馳走してもらった。だからもうお返しはもらったつもりで、ホワイトデーは全く意識していなかった。でも考えてみれば尽くしたがりの誠慈君が、ホワイトデーをスルーするはずがない。

 ちなみに買うのではなく、わざわざ作ってくれたのは

「この間は、たまに外出したせいで変な人に絡まれて、嫌な想いをさせちゃったから」

 バレンタインに菜穂ちゃんと遭遇したことを、誠慈君は自分のせいだと気に病んでいたらしい。それに加えて

「それに萌乃はもともと外出が苦手だし。俺がお店くらい美味しいものを作れるようになれば、あんまり連れ回さずに済むなって。あれから練習したんだ」

 もろもろの理由から「下手に連れ出せないな」と思ったとして「じゃあ、自分がプロ並みに作れるようになろう」って発想がすごい。これまで調理実習以外で、料理をしたことは無いらしいのに。時間や労力もさることながら練習のための材料費を合わせたら、お店でご馳走するよりもかかっているんじゃないかな?

 今更ながら、とんでもなく膨大な愛情を注がれている。行為もさることながら、問題があっても私に変われと促すのではなく、いつも自分が合わせてくれる誠慈君の優しさに感動して

「こんなに立派なパンケーキを、自分で作れるなんてすごい。誠慈君は本当にすごいね」

 相変わらず本当の気持ちはうまく言葉にできず、取りあえずパンケーキの感想だけ伝える。それでも誠慈君は嬉しそうに笑って

「味も美味しいといいんだけど。食べてみて」

 3段重ねのパンケーキをフォークとナイフで切り分けて、メイプルシロップと生クリームをつけて食べる。見た目からして綺麗だったけど、味もすごく美味しくて
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