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後日談 マイヤール辺境伯家の婿入り事情
①
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デュラン王国の北に位置する国境の地マイヤール。国防の要となるこの領地を治めるマイヤール辺境伯は、ときに国王にすら意見することが許される絶大な権力を与えられている。しかしながら、現マイヤール辺境伯であるコランタン・マイヤール――コレットの父には息子がいない。そのため、特例で次期マイヤール辺境伯を継ぐことが決定付けられたコレットには、昔から引っ切り無しに縁談が寄せられていた。
色恋沙汰とは程遠い、七年にも及ぶ陰謀と策略に塗れた求婚と言う名の醜い覇権争い。だが、その争いにもようやく終結の兆しが見られている。
この夏の終わり、マイヤール辺境伯は正式にコレットとセルジュの婚約を認め、セルジュを未来の娘婿として屋敷に迎え入れたのだ。
この婚約はコレットにとってもこれ以上ないほど幸運なものだった。なにせコレットは七年前、婚約を解消されるよりも以前から、ずっとセルジュのことを想い続けてきたのだから。
とはいえ、王太子の護衛騎士を務めるだけでなく、グランセル公爵邸の一件から革命軍鎮圧への功績を評価され、勲章授与も囁かれていたセルジュだ。すぐに護衛騎士を辞任するわけにもいかず、仕事の引き継ぎやら新しい護衛騎士の選抜やらで、婿入りの準備には優に一ヶ月以上の時間を要した。
婚約者という肩書きこそあるものの、なかなかふたりで会うことも叶わないまま時は過ぎ、セルジュがマイヤール邸で暮らすようになってからさらに二ヶ月が経過した今となっても、コレットとセルジュの関係に進展は見られなかった。
というのも、コレットの父であるマイヤール卿は、自分の目が届く範囲では絶対にセルジュがコレットに近付くことを許さないのだ。
理由はわかっている。父は未だ、あの日セルジュが無理矢理にコレットを己の性欲の捌け口として利用したのだと思い込んでいるのだ。コレットがいくらセルジュの無実を訴えても、無知だった自分の軽率な行動を説明しても、父は頑として聞き入れない。
結局、セルジュは父にコレット禁止令を課せられて、以来、ひとつ屋根の下で暮らしているというのに、コレットに指一本触れることすらしていなかった。
マイヤール辺境伯夫妻が知人の晩餐会に呼ばれ、屋敷を留守にしたのは、ちょうどそんな時分のことだった。
色恋沙汰とは程遠い、七年にも及ぶ陰謀と策略に塗れた求婚と言う名の醜い覇権争い。だが、その争いにもようやく終結の兆しが見られている。
この夏の終わり、マイヤール辺境伯は正式にコレットとセルジュの婚約を認め、セルジュを未来の娘婿として屋敷に迎え入れたのだ。
この婚約はコレットにとってもこれ以上ないほど幸運なものだった。なにせコレットは七年前、婚約を解消されるよりも以前から、ずっとセルジュのことを想い続けてきたのだから。
とはいえ、王太子の護衛騎士を務めるだけでなく、グランセル公爵邸の一件から革命軍鎮圧への功績を評価され、勲章授与も囁かれていたセルジュだ。すぐに護衛騎士を辞任するわけにもいかず、仕事の引き継ぎやら新しい護衛騎士の選抜やらで、婿入りの準備には優に一ヶ月以上の時間を要した。
婚約者という肩書きこそあるものの、なかなかふたりで会うことも叶わないまま時は過ぎ、セルジュがマイヤール邸で暮らすようになってからさらに二ヶ月が経過した今となっても、コレットとセルジュの関係に進展は見られなかった。
というのも、コレットの父であるマイヤール卿は、自分の目が届く範囲では絶対にセルジュがコレットに近付くことを許さないのだ。
理由はわかっている。父は未だ、あの日セルジュが無理矢理にコレットを己の性欲の捌け口として利用したのだと思い込んでいるのだ。コレットがいくらセルジュの無実を訴えても、無知だった自分の軽率な行動を説明しても、父は頑として聞き入れない。
結局、セルジュは父にコレット禁止令を課せられて、以来、ひとつ屋根の下で暮らしているというのに、コレットに指一本触れることすらしていなかった。
マイヤール辺境伯夫妻が知人の晩餐会に呼ばれ、屋敷を留守にしたのは、ちょうどそんな時分のことだった。
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