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第1章 人間の街へ
第2話 旅立ち、いざ人間の街へ
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翌朝、わたしは、シルフィードかあさんに抱っこされて、森の外までやってきた。
わたしが育った精霊の森は、木の葉も綺麗な緑で、色とりどりの花が咲いていてとても綺麗だ。
今日はじめて、わたしは知りました。外の森ってこんなに汚れているって。
特に、精霊の森のすぐ外側にある瘴気の森は、空気に薄黒い靄がかかって見えた。
わたしは、シルフィードかあさんが張ってくれた風の壁に守られてたから平気だったけど、普通の生き物は瘴気の森の空気の中では生きられないんだって。
今いるのは、瘴気の森を抜けてすぐの場所で、木が疎らに生えている。
わたしの周りには、六人のおかあさんが勢ぞろいしている。
見送りに来てくれたのだけど……
ウンディーネかあさんが、わたしにしがみついて放してくれない。
「いっちゃやー」と子供のように駄々をこねるウンデーネかあさんを他のかあさんが宥めている。
「ティターニアお嬢様、魔導車の用意が整いました。」
そこへ声をかけてきたのは、光の上位精霊のソールさんだ。
いつもは、優しいお姉さんという雰囲気なんだけど、今日はキリッとした雰囲気だ。
服装もゆったりとしたドレスを纏っていることが多いが、今日はスーツを着ている。
「ソールさん、そのお嬢様って言うのは止めて。いつも通りにターニャって呼んでよ。」
「そうは参りません。人に街に行ったらティターニアお嬢様は良家の子女で、私達はその供回りの者ということにします。今から慣れておきませんといざという時にボロが出ます。」
じゃあ、この先ずっと、こういう口調なんだ。なんか、嫌だな。
今回、わたしと一緒に旅をするのは、ソールさんの他、水の上位精霊のフェイさん、木の上位精霊のシュケーさん、風の上位精霊のアリエルさんの四人で、人化して貰っている。
他にも中位精霊がわらわらと付いて来ているけど、どうせ人間には見えないから気にしないことにした。
シルフィードかあさんが、ウンディーネかあさんをわたしから引き剥がしてくれたので、わたしは用意された魔導車に乗り込んだ。
魔導車がゆっくりと動き出す。
わたしは窓を開けて、「お母さん、行ってきまーす!!」と元気いっぱいに挨拶をした。
よく見ると、シルフィードかあさんに羽交い絞めにされたウンディーネかあさんが滂沱の涙を流していた。
**********
辺境の荒野をわたしたちを乗せた二台の魔導車が行く。
この魔導車って、でこぼこ道走っているのに全然揺れないの。凄いね。
二千年も前の物なんだって、本当は魔晶石というのを燃料にしていたらしい。
でも、今は運転しているソールさんが直接マナを注ぎ込んで動かしている。
魔晶石が入ってないんで、盗まれる心配がないとソールさんは言っている。
わたしが今乗っている魔導車は、前に運転席と助手席があって、後ろはソファーセットになっている。大きな窓がついていて外の風景がソファーに座ってゆったりと眺められるのがいいね。
後ろの魔導車は、応接セットじゃなくてベッドになってるんだって。
今日は、街まで着かないので後ろの魔導車のベッドに寝ることになるって。
「ねえ、フェイさん。人の街ってどのくらいで着くの?」
わたしの前に座って、話し相手になってくれているのは水の上位精霊のフェイさん、いつでも柔らかい笑顔で微笑んでいる。
今回は、わたしの侍女役なんだって。
「今、私達がいるオストマルク王国は、瘴気の森の東側に位置する国です。
この国は、瘴気の森近くを開拓するような無茶はしてないので、人里は瘴気の森から離れてます。
一番近い村でもこの魔導車で一日はかかるでしょう。
でも、最初に立ち寄るのはノイエシュタットという街で、三日くらいかかるでしょうか。」
「なんで、途中の村には寄らないの?」
せっかく人の国に来たのに魔導車に乗っているだけってのは退屈だよ!!
窓から見えるのは、ひたすら草が生えているだけの荒地なんだもん。
「一番大きな理由が、お金がないことです。
勉強で習ったかもしれませんが、人間の社会ではお金がないと行動が制限されます。
例えば、一夜の宿を借りるのにもお金がかかるのですよ。」
「悲しい理由だったんだね。
でも、お金がないんだったら、街に行っても困るんじゃないの?」
お金がなくて村に寄らないんだったら、街へ行っても、宿すら取れないという、わたし達の状況は変わらないよね。
「いえ、幸い私たちは、あの忌々しい魔導王国の遺物から、多額の金貨を回収しています。
街の両替商に行けば、お嬢様の学資など些細なものと思えるくらいの資金になるはずです。
ただ、僻地の村では魔導王国の金貨を両替できる両替商があるかどうか分からないのです。」
フェイさんによると、魔導王国の金貨ってとっても貴重なもので、今いる国の金貨の何百倍も価値のあるものなんだって。
今回魔導車に積んである金貨を全部両替できたら、国が買えちゃうかもってフェイさんは冗談を言っていた。冗談だよね?
村に立ち寄らない訳は、お金の問題だけじゃないんだって。
村の宿は、衛生面で難があって、かつベッドが硬くて寝心地が悪いらしい。
魔導車に備え付けたベッドの方が清潔で寝心地もいいから、魔導車に寝た方が幾分ましだって。
フェイさんがそういうのならそうなんだろう。快眠って大事だよね。
そして、フェイさんが言ってた通り、精霊の森を出て三日目のお昼過ぎ、わたしは生まれて初めて人の街に足を踏み入れた。
わたしが育った精霊の森は、木の葉も綺麗な緑で、色とりどりの花が咲いていてとても綺麗だ。
今日はじめて、わたしは知りました。外の森ってこんなに汚れているって。
特に、精霊の森のすぐ外側にある瘴気の森は、空気に薄黒い靄がかかって見えた。
わたしは、シルフィードかあさんが張ってくれた風の壁に守られてたから平気だったけど、普通の生き物は瘴気の森の空気の中では生きられないんだって。
今いるのは、瘴気の森を抜けてすぐの場所で、木が疎らに生えている。
わたしの周りには、六人のおかあさんが勢ぞろいしている。
見送りに来てくれたのだけど……
ウンディーネかあさんが、わたしにしがみついて放してくれない。
「いっちゃやー」と子供のように駄々をこねるウンデーネかあさんを他のかあさんが宥めている。
「ティターニアお嬢様、魔導車の用意が整いました。」
そこへ声をかけてきたのは、光の上位精霊のソールさんだ。
いつもは、優しいお姉さんという雰囲気なんだけど、今日はキリッとした雰囲気だ。
服装もゆったりとしたドレスを纏っていることが多いが、今日はスーツを着ている。
「ソールさん、そのお嬢様って言うのは止めて。いつも通りにターニャって呼んでよ。」
「そうは参りません。人に街に行ったらティターニアお嬢様は良家の子女で、私達はその供回りの者ということにします。今から慣れておきませんといざという時にボロが出ます。」
じゃあ、この先ずっと、こういう口調なんだ。なんか、嫌だな。
今回、わたしと一緒に旅をするのは、ソールさんの他、水の上位精霊のフェイさん、木の上位精霊のシュケーさん、風の上位精霊のアリエルさんの四人で、人化して貰っている。
他にも中位精霊がわらわらと付いて来ているけど、どうせ人間には見えないから気にしないことにした。
シルフィードかあさんが、ウンディーネかあさんをわたしから引き剥がしてくれたので、わたしは用意された魔導車に乗り込んだ。
魔導車がゆっくりと動き出す。
わたしは窓を開けて、「お母さん、行ってきまーす!!」と元気いっぱいに挨拶をした。
よく見ると、シルフィードかあさんに羽交い絞めにされたウンディーネかあさんが滂沱の涙を流していた。
**********
辺境の荒野をわたしたちを乗せた二台の魔導車が行く。
この魔導車って、でこぼこ道走っているのに全然揺れないの。凄いね。
二千年も前の物なんだって、本当は魔晶石というのを燃料にしていたらしい。
でも、今は運転しているソールさんが直接マナを注ぎ込んで動かしている。
魔晶石が入ってないんで、盗まれる心配がないとソールさんは言っている。
わたしが今乗っている魔導車は、前に運転席と助手席があって、後ろはソファーセットになっている。大きな窓がついていて外の風景がソファーに座ってゆったりと眺められるのがいいね。
後ろの魔導車は、応接セットじゃなくてベッドになってるんだって。
今日は、街まで着かないので後ろの魔導車のベッドに寝ることになるって。
「ねえ、フェイさん。人の街ってどのくらいで着くの?」
わたしの前に座って、話し相手になってくれているのは水の上位精霊のフェイさん、いつでも柔らかい笑顔で微笑んでいる。
今回は、わたしの侍女役なんだって。
「今、私達がいるオストマルク王国は、瘴気の森の東側に位置する国です。
この国は、瘴気の森近くを開拓するような無茶はしてないので、人里は瘴気の森から離れてます。
一番近い村でもこの魔導車で一日はかかるでしょう。
でも、最初に立ち寄るのはノイエシュタットという街で、三日くらいかかるでしょうか。」
「なんで、途中の村には寄らないの?」
せっかく人の国に来たのに魔導車に乗っているだけってのは退屈だよ!!
窓から見えるのは、ひたすら草が生えているだけの荒地なんだもん。
「一番大きな理由が、お金がないことです。
勉強で習ったかもしれませんが、人間の社会ではお金がないと行動が制限されます。
例えば、一夜の宿を借りるのにもお金がかかるのですよ。」
「悲しい理由だったんだね。
でも、お金がないんだったら、街に行っても困るんじゃないの?」
お金がなくて村に寄らないんだったら、街へ行っても、宿すら取れないという、わたし達の状況は変わらないよね。
「いえ、幸い私たちは、あの忌々しい魔導王国の遺物から、多額の金貨を回収しています。
街の両替商に行けば、お嬢様の学資など些細なものと思えるくらいの資金になるはずです。
ただ、僻地の村では魔導王国の金貨を両替できる両替商があるかどうか分からないのです。」
フェイさんによると、魔導王国の金貨ってとっても貴重なもので、今いる国の金貨の何百倍も価値のあるものなんだって。
今回魔導車に積んである金貨を全部両替できたら、国が買えちゃうかもってフェイさんは冗談を言っていた。冗談だよね?
村に立ち寄らない訳は、お金の問題だけじゃないんだって。
村の宿は、衛生面で難があって、かつベッドが硬くて寝心地が悪いらしい。
魔導車に備え付けたベッドの方が清潔で寝心地もいいから、魔導車に寝た方が幾分ましだって。
フェイさんがそういうのならそうなんだろう。快眠って大事だよね。
そして、フェイさんが言ってた通り、精霊の森を出て三日目のお昼過ぎ、わたしは生まれて初めて人の街に足を踏み入れた。
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