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24.そして……
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「けほっ、こほっ」
何度もむせて、肺に思いっきり空気を吸い込む。そういえば、呼吸はこうやってするのだったなと思い出す。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
「そうか」
全身ずぶ濡れだ。四つん這いという貴族の令嬢らしからぬ格好で、私は何とか答える。
顔を上げると、白い神官服のフードを取ったダルムの柔らかな表情が目に映る。彼の目は、優しく私を真っ直ぐに見つめていた。
「ダルム?」
「ああ」
「私が見える?」
「当然だ」
ダルムの手が伸びて、私の頬に触れる。
目が熱くなり、顔がくしゃりと歪む。
「ダルム、私」
「ああ」
「悪しき精霊が」
「ああ」
次々と零れ落ちる涙。泣きじゃくる私をダルムは抱きしめる。
「大丈夫だ。もう異端の魂も、悪しき精霊も払った。よく頑張ったな」
ダルムの腕の中で、私は幼子のように泣いた。
落ち着いた私はダルムに支えられながら神殿の中を歩く。
「モモリーヌ様とツモンデレン様はあちらに」
途中、ウキナム様の指示で二手に分かれることになった。
「どうして? 私もお姉様と一緒に行くわ」
「モモリーヌ嬢」
「だっておかしいわ。お姉様の婚約者はツモンデレン様よ? 王子殿下だからって、婚約者のいる女性を連れていくなんて」
彼女の言っていることは理に適っているけれど、ウキナム様は義妹の言葉を受け入れなかった。
有無を言わさず神官とツモンデレン様に指示を出して義妹を連れていく。
騒ぐ義妹を背に私は神殿の中を進み、一室に入る。
部屋の中には私とダルムの他に、ウキナム様がいる。ウキナム様は椅子に座らずダルムの後ろに控えていた。
「助けるのが遅くなってすまない、ディー」
「いいえ。助けてくれてありがとう、ダルム」
もしかしたら一生あのままなのではないかと思ってさえいた。
公爵家の人間とは、私よりも悪しき精霊のほうが上手くいっていた。私は必要ないのではないかとさえ考えたこともある。
でも、ダルムは気付いてくれた。それだけでなく、私を救う方法まで見つけてくれたのだ。
「ダルムはジブリエール様の祝福を頂いたのね」
そういうと、彼は苦しそうな表情で小さく微笑んだ。沈黙が走る。
「ディー、今更だと思う。でも一つ確認させてほしい」
「なあに?」
「俺と共に歩んでくれないか? 幸せにするとは約束できない。本来なら王家に生まれるはずのない存在だ。俺が王となることを認められない者は大勢いる。きっと喜びよりも苦難の方が多いだろう」
王位継承権争いを防ごうと、誰とも結婚しないと言っていたダルム。けれど私を助けるために、ジブリエール様の祝福を頂いてしまった。
もしもカフシアナン殿下が精霊様の祝福を頂けなければ、ダルムが次の王太子に選ばれる。
カフシアナン殿下が祝福を頂いても、彼はこれから継承権争いに参戦しなければならないのだ。
「だけど」
ダルムが私の目をじっと見つめる。逃げたくなるほど真剣な眼差し。だけど私も真っ直ぐに見つめ返す。
「愛してしまったんだ。いつからなのか分からない。初めて会ったときかもしれないし、何度も会っている内に芽生えていったのかもしれない。手の届かない所でディーが苦しんでいるのは耐えられない。俺の手で君を守りたい」
「ダルム」
お母様を喪ったとき、私を泣かせてくれた少年。
王都に来た私を白い部屋から連れ出して、美味しいものを食べさせてくれて、話を聞いてくれて、知識を与えてくれた王子様。
そして、誰も気づいてくれなかった私の異常に気付き、助けてくれた大切な人。
答えは決まっている。
「私も、あなたのことを愛しているわ。苦難なんて平気よ。あなたと一緒にいたい」
ダルムが嬉しそうに笑った。彼の温かな心がそのまま現れた、とても優しい笑顔。
「必ず護ってみせる」
「信じているわ、ダルム」
椅子から立ち上がったダルムは私の前に跪き、私の掌に口付けを落とした。
「ウキナム」
「後の処理はお任せを。お二人はこのまま離宮にお戻りください」
「ああ。頼む」
ダルムにエスコートされて神殿を出た私は、王城へと向かった。ダルムと共にお茶会をした庭を通り抜け、ダルムのお母様であるマリディール様が住んでおられる離宮に向かう。
「ようやく会えたわね、ケセディアーナさん」
「お初にお目に掛かれて光栄です、マリディール殿下」
「あら? 会うのは初めてではないのよ? 何度目かしら?」
「申し訳ありません。大変失礼をしました」
ダルムと同じ黒い髪のマリディール様。女性に対して失礼かもしれないけれど、綺麗というより格好いいという言葉が似合う気がした。
悪戯っぽく笑うマリディール様を、ダルムが睨む。
「母上、ディーで遊ぶのは止めて頂きたい」
「ごめんなさい。気にしないでちょうだい、ケセディアーナさん。あなたと最後に会ったのは、エレディアーナ様の葬儀の日。あなたが覚えていないのは仕方ないわ」
はっと私は顔を上げる。
あの日、ダルムが神殿にいたのだ。マリディール様がいても不思議ではない。
「それより前は、まだ喋ることもできない赤ん坊だったもの」
「そんなに幼い頃に?」
「ええ、そうよ。私は王家に迎え入れられる前は、エレディアーナ様にお仕えしていたの」
「お母様に?」
驚いた私の体を、ふわりと柔らかなものが包み込む。
「お母様を護ってさしあげられなくてごめんなさい。あなたを救い出すことも、遅くなってしまってごめんなさい」
優しく頭を撫でてくれる手は、お母様を思い出させて自然と涙が溢れた。
マリディール様の対面にダルムと並んで腰かけると、二人がこれからのことを話してくれた。
悪しき精霊が完全に封印された今、私はアンバーの封印を守る役目から解放された。もうボボイル公爵家に留まる必要はなくなったのだ。
元々父は私に継がせるつもりなど無かったようだけれども。
だから王家に嫁ぐことも許される。
心配していたツモンデレン様との婚約は、白紙に戻されるという。
元々ツモンデレン様にはアイジューン様という想い合う女性がいて、ボボイル公爵家が横槍を入れなければ婚約する予定だったという。
初めてデイツ家を訪れたときに門の向こうに見えた、あの少女だろう。私が望んだことではないとはいえ、巻き込んでしまって申し訳なく思う。
「そうだ、これを渡しておこう」
「何かしら?」
ダルムが差し出した包みを開いて、私は目を見張った。涙が視界を歪ませる。
「ザドキール! 無事だったの? でもどうして?」
包みから出てきたのは、捨てられたはずの人形ザドキールだった。
「ボボイル公爵家の状況を探っていたウキナムが気付いて回収してくれた。ディーのネックレスはその人形の中に入っていた、ザドキール様が宿る石だ」
私の身を心配しているダルムのために、ウキナム様が様子を見に来てくださっていたらしい。その時に、捨てられたザドキールに気付いてダルムの下へ届けてくれたそうだ。
「ありがとう、ダルム。ありがとうございます、ウキナム様」
私は胸元で揺れる緑色の石を握りしめながら、ザドキールを抱きしめる。
誰にも認識されることなく、何も触れることができず、叫んでも誰の耳にも届かない。気が狂いそうなほどの孤独。
自分の体が私の意思を無視して勝手に動く恐怖。
「ダルム。ずっとそばにいて。私を見失わないで」
「ああ。二度と手放さない」
弱った私の心ごと、ダルムは抱きしめてくれた。
※
ケセディアーナ様の証言から、タラレバン・ボボイルとその父親ダツキルがボボイル公爵家を手に入れようと企み、先代公爵の御子息と妻、子息の命を奪ったこと、そしてケセディアーナ様ととエレディアーナ様を監禁していたことが明るみになる。
タラレバンとダツキルを始めとした関係者は、それぞれに処分が下された。愛人フラワーヌと娘モモリーヌも修道院に送られることが決まった。
モモリーヌはケセディアーナ様に救済を求めて騒いでいたようだが、ケセディアーナ様の耳には届かぬように処理しておいた。
異世界の魂と仲良くしていたからと、ケセディアーナ様にした仕打ちを無かったことになどできるものか。
積極的に加担したわけではないとはいえ、ケセディアーナ様が領地の別荘に閉じ込められていた時だけでなく、王都の部屋に閉じ込められていたときにも、何もせずにのうのうと暮らしていた娘だ。
なぜケセディアーナ様が手を差し伸べなければならないのか。
神殿の鐘が鳴る。王都は町を上げての大騒ぎだ。
精霊の祝福を得た王太子と、こちらも精霊の祝福を得た王太子妃。二人の門出を国中が祝っている。
「ウキナム殿、こちらにいたのですか? そろそろ夜会会場の方に向かわないと」
「そうだな。ツモンデレンはアイジューンちゃんをエスコート?」
「もちろんです。ですがアイジューンちゃんという呼び方は止めた頂けませんか? 僕の婚約者です」
「固いことは言うなって」
一連の騒動を切っ掛けに出来た友人は優秀だった。きっと主を表から支えてくれるだろう。
「もう二度と、ウキナム殿からの演技指導はご遠慮したいです」
モノクルを指で押し上げる彼の表情が消えた。
「それは無理だな。王城は魑魅魍魎が跋扈している。殿下にお仕えするなら、腹芸は必須だ」
虚ろな眼でどこか遠くを見つめ始めた友人の肩を叩いて、俺は主の下へ向かう。
俺が選んだ主が王となり、国が益々豊かになるのは、そう遠い先の話ではないだろう。
なにせ王には神託の精霊様が、王妃には豊穣の精霊様が祝福を与えている。国は危難を避け、そして王妃が王の隣にいる限り豊作が続くのだから。
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ケセディアーナ視点はここまでです。
明日からは別の人の視点です。
何度もむせて、肺に思いっきり空気を吸い込む。そういえば、呼吸はこうやってするのだったなと思い出す。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
「そうか」
全身ずぶ濡れだ。四つん這いという貴族の令嬢らしからぬ格好で、私は何とか答える。
顔を上げると、白い神官服のフードを取ったダルムの柔らかな表情が目に映る。彼の目は、優しく私を真っ直ぐに見つめていた。
「ダルム?」
「ああ」
「私が見える?」
「当然だ」
ダルムの手が伸びて、私の頬に触れる。
目が熱くなり、顔がくしゃりと歪む。
「ダルム、私」
「ああ」
「悪しき精霊が」
「ああ」
次々と零れ落ちる涙。泣きじゃくる私をダルムは抱きしめる。
「大丈夫だ。もう異端の魂も、悪しき精霊も払った。よく頑張ったな」
ダルムの腕の中で、私は幼子のように泣いた。
落ち着いた私はダルムに支えられながら神殿の中を歩く。
「モモリーヌ様とツモンデレン様はあちらに」
途中、ウキナム様の指示で二手に分かれることになった。
「どうして? 私もお姉様と一緒に行くわ」
「モモリーヌ嬢」
「だっておかしいわ。お姉様の婚約者はツモンデレン様よ? 王子殿下だからって、婚約者のいる女性を連れていくなんて」
彼女の言っていることは理に適っているけれど、ウキナム様は義妹の言葉を受け入れなかった。
有無を言わさず神官とツモンデレン様に指示を出して義妹を連れていく。
騒ぐ義妹を背に私は神殿の中を進み、一室に入る。
部屋の中には私とダルムの他に、ウキナム様がいる。ウキナム様は椅子に座らずダルムの後ろに控えていた。
「助けるのが遅くなってすまない、ディー」
「いいえ。助けてくれてありがとう、ダルム」
もしかしたら一生あのままなのではないかと思ってさえいた。
公爵家の人間とは、私よりも悪しき精霊のほうが上手くいっていた。私は必要ないのではないかとさえ考えたこともある。
でも、ダルムは気付いてくれた。それだけでなく、私を救う方法まで見つけてくれたのだ。
「ダルムはジブリエール様の祝福を頂いたのね」
そういうと、彼は苦しそうな表情で小さく微笑んだ。沈黙が走る。
「ディー、今更だと思う。でも一つ確認させてほしい」
「なあに?」
「俺と共に歩んでくれないか? 幸せにするとは約束できない。本来なら王家に生まれるはずのない存在だ。俺が王となることを認められない者は大勢いる。きっと喜びよりも苦難の方が多いだろう」
王位継承権争いを防ごうと、誰とも結婚しないと言っていたダルム。けれど私を助けるために、ジブリエール様の祝福を頂いてしまった。
もしもカフシアナン殿下が精霊様の祝福を頂けなければ、ダルムが次の王太子に選ばれる。
カフシアナン殿下が祝福を頂いても、彼はこれから継承権争いに参戦しなければならないのだ。
「だけど」
ダルムが私の目をじっと見つめる。逃げたくなるほど真剣な眼差し。だけど私も真っ直ぐに見つめ返す。
「愛してしまったんだ。いつからなのか分からない。初めて会ったときかもしれないし、何度も会っている内に芽生えていったのかもしれない。手の届かない所でディーが苦しんでいるのは耐えられない。俺の手で君を守りたい」
「ダルム」
お母様を喪ったとき、私を泣かせてくれた少年。
王都に来た私を白い部屋から連れ出して、美味しいものを食べさせてくれて、話を聞いてくれて、知識を与えてくれた王子様。
そして、誰も気づいてくれなかった私の異常に気付き、助けてくれた大切な人。
答えは決まっている。
「私も、あなたのことを愛しているわ。苦難なんて平気よ。あなたと一緒にいたい」
ダルムが嬉しそうに笑った。彼の温かな心がそのまま現れた、とても優しい笑顔。
「必ず護ってみせる」
「信じているわ、ダルム」
椅子から立ち上がったダルムは私の前に跪き、私の掌に口付けを落とした。
「ウキナム」
「後の処理はお任せを。お二人はこのまま離宮にお戻りください」
「ああ。頼む」
ダルムにエスコートされて神殿を出た私は、王城へと向かった。ダルムと共にお茶会をした庭を通り抜け、ダルムのお母様であるマリディール様が住んでおられる離宮に向かう。
「ようやく会えたわね、ケセディアーナさん」
「お初にお目に掛かれて光栄です、マリディール殿下」
「あら? 会うのは初めてではないのよ? 何度目かしら?」
「申し訳ありません。大変失礼をしました」
ダルムと同じ黒い髪のマリディール様。女性に対して失礼かもしれないけれど、綺麗というより格好いいという言葉が似合う気がした。
悪戯っぽく笑うマリディール様を、ダルムが睨む。
「母上、ディーで遊ぶのは止めて頂きたい」
「ごめんなさい。気にしないでちょうだい、ケセディアーナさん。あなたと最後に会ったのは、エレディアーナ様の葬儀の日。あなたが覚えていないのは仕方ないわ」
はっと私は顔を上げる。
あの日、ダルムが神殿にいたのだ。マリディール様がいても不思議ではない。
「それより前は、まだ喋ることもできない赤ん坊だったもの」
「そんなに幼い頃に?」
「ええ、そうよ。私は王家に迎え入れられる前は、エレディアーナ様にお仕えしていたの」
「お母様に?」
驚いた私の体を、ふわりと柔らかなものが包み込む。
「お母様を護ってさしあげられなくてごめんなさい。あなたを救い出すことも、遅くなってしまってごめんなさい」
優しく頭を撫でてくれる手は、お母様を思い出させて自然と涙が溢れた。
マリディール様の対面にダルムと並んで腰かけると、二人がこれからのことを話してくれた。
悪しき精霊が完全に封印された今、私はアンバーの封印を守る役目から解放された。もうボボイル公爵家に留まる必要はなくなったのだ。
元々父は私に継がせるつもりなど無かったようだけれども。
だから王家に嫁ぐことも許される。
心配していたツモンデレン様との婚約は、白紙に戻されるという。
元々ツモンデレン様にはアイジューン様という想い合う女性がいて、ボボイル公爵家が横槍を入れなければ婚約する予定だったという。
初めてデイツ家を訪れたときに門の向こうに見えた、あの少女だろう。私が望んだことではないとはいえ、巻き込んでしまって申し訳なく思う。
「そうだ、これを渡しておこう」
「何かしら?」
ダルムが差し出した包みを開いて、私は目を見張った。涙が視界を歪ませる。
「ザドキール! 無事だったの? でもどうして?」
包みから出てきたのは、捨てられたはずの人形ザドキールだった。
「ボボイル公爵家の状況を探っていたウキナムが気付いて回収してくれた。ディーのネックレスはその人形の中に入っていた、ザドキール様が宿る石だ」
私の身を心配しているダルムのために、ウキナム様が様子を見に来てくださっていたらしい。その時に、捨てられたザドキールに気付いてダルムの下へ届けてくれたそうだ。
「ありがとう、ダルム。ありがとうございます、ウキナム様」
私は胸元で揺れる緑色の石を握りしめながら、ザドキールを抱きしめる。
誰にも認識されることなく、何も触れることができず、叫んでも誰の耳にも届かない。気が狂いそうなほどの孤独。
自分の体が私の意思を無視して勝手に動く恐怖。
「ダルム。ずっとそばにいて。私を見失わないで」
「ああ。二度と手放さない」
弱った私の心ごと、ダルムは抱きしめてくれた。
※
ケセディアーナ様の証言から、タラレバン・ボボイルとその父親ダツキルがボボイル公爵家を手に入れようと企み、先代公爵の御子息と妻、子息の命を奪ったこと、そしてケセディアーナ様ととエレディアーナ様を監禁していたことが明るみになる。
タラレバンとダツキルを始めとした関係者は、それぞれに処分が下された。愛人フラワーヌと娘モモリーヌも修道院に送られることが決まった。
モモリーヌはケセディアーナ様に救済を求めて騒いでいたようだが、ケセディアーナ様の耳には届かぬように処理しておいた。
異世界の魂と仲良くしていたからと、ケセディアーナ様にした仕打ちを無かったことになどできるものか。
積極的に加担したわけではないとはいえ、ケセディアーナ様が領地の別荘に閉じ込められていた時だけでなく、王都の部屋に閉じ込められていたときにも、何もせずにのうのうと暮らしていた娘だ。
なぜケセディアーナ様が手を差し伸べなければならないのか。
神殿の鐘が鳴る。王都は町を上げての大騒ぎだ。
精霊の祝福を得た王太子と、こちらも精霊の祝福を得た王太子妃。二人の門出を国中が祝っている。
「ウキナム殿、こちらにいたのですか? そろそろ夜会会場の方に向かわないと」
「そうだな。ツモンデレンはアイジューンちゃんをエスコート?」
「もちろんです。ですがアイジューンちゃんという呼び方は止めた頂けませんか? 僕の婚約者です」
「固いことは言うなって」
一連の騒動を切っ掛けに出来た友人は優秀だった。きっと主を表から支えてくれるだろう。
「もう二度と、ウキナム殿からの演技指導はご遠慮したいです」
モノクルを指で押し上げる彼の表情が消えた。
「それは無理だな。王城は魑魅魍魎が跋扈している。殿下にお仕えするなら、腹芸は必須だ」
虚ろな眼でどこか遠くを見つめ始めた友人の肩を叩いて、俺は主の下へ向かう。
俺が選んだ主が王となり、国が益々豊かになるのは、そう遠い先の話ではないだろう。
なにせ王には神託の精霊様が、王妃には豊穣の精霊様が祝福を与えている。国は危難を避け、そして王妃が王の隣にいる限り豊作が続くのだから。
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ケセディアーナ視点はここまでです。
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