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1巻

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『何も分からないのか? 何かあるだろう。名前は?』

 う~ん。名前、そのまま蓮でいいのかな?
 蓮って名前はお父さんとお母さんからの大切な贈り物だから、そのまま名乗りたいんだけど。でも、さっきの透明な画面には何も書いてなかったし。もしかすると、この体には別の名前があるのかも。
 またまた黙っていたら、またまたトラさんのため息が。


 僕はブスッとしてトラさんを見ます。そうしたら僕の顔を見た小鳥が、顔をふくらませてブスッとした顔に。それで一緒にトラさんを見てくれたんだ。
 小鳥は僕の味方。ありがとう!! 分からないものは分からないんだよ!

『お前達、会ったばかりなのだろう。なぜそんなに息が合っているのだ? まぁ、我はお前がどうしてここにいるのか、なんとなく分かっているが。この感覚……』
「わかりゅ?」

 どうしてここにいるか教えてほしい!

『お前は元々いた世界から、ここへ連れてこられたのだ』

 それからトラさんが説明してくれたところによると、僕はある人達の手によって、地球からこの世界に送られてきたみたい。
 とっても昔に、僕と同じような人が、やっぱりトラさんの前に現れて、その時に状況が似ているんだって。だからたぶんそうじゃないかって、それがトラさんの考え。
 詳しい話については、その僕をここに連れてきた人達に、会いに行かないといけないの。それか連絡が来るかも? って。
 でも、分からないことだらけで困るんだけど。それに勝手に連れてきたんだったら、まずはそれを謝りに来ないといけないんじゃない? そもそも、こんな森みたいな場所に、一人で置いていくなんて。しかも体は二歳か三歳になっているのに。
 そんなことを悶々もんもんと考えている時でした。
 いきなりトラさんの体が光り始めたから、僕も小鳥もビックリしちゃった。
 でもトラさんは慌てていなくて、大丈夫みたい。それにしても何で光っているの?

『――おい、まさか我に任せるつもりじゃないだろうな?』

 上を見て話を始めるトラさん。
 誰と話しているの?
 今度はトラさんが見ている方を一緒に見る僕達。

「ぴゅい? ぴゅいい?」
「ねぇ。だりぇちょ、おはなちかにゃ?」

 言葉は分からなくても、小鳥の言っていることなんとなく分かります。
 あれ? そういえば……僕、何で普通にトラさんとお話ししているの? おかしなことばかりで、色々気にならなくなってきた?
 もっと明るく光り始めたトラさんを、目を細くして見守ります。

『我は前回ので充分だ。今度は別の奴に任せればいいだろう。大体こんな小さな子供の世話なんぞ……この前はもう少し大きかったから……っておい!! 待て!!』

 そして光が消えると――

『はあぁぁぁ~、なぜ最初に接触してきたのが我なのだ』

 今までで一番大きなため息をつくトラさん。
 それからお腹を出してだらぁと寝転びました。さっきまでのりんとした姿じゃなくて、完璧かんぺきにやる気のない顔です。

「どちたの?」
『お前のおりをしてくれと頼まれた』

 どういうこと?
 それからもトラさんは色々ブツブツ言いながらゴロゴロしていたんだけど、小鳥が飛んでいって、トラさんの鼻の頭を思い切りつつきました。
 僕が何回もどうしたのって聞いているのに、ずっとブツブツ言っていたからしかりに行ってくれたみたい。ありがとね。

『分かった、分かった。今話す』

 ようやくお座りの格好に戻ったトラさん。小鳥も僕の手のひらに戻ってきます。
 トラさんによると、僕をここに連れてきた人が、トラさんに僕のことを守ってほしいって、お願いしてきたみたいです。
 誰も見えなかったのに? 確かにトラさんは話をしていたけど。
 そう疑問に思っていたのが伝わったのか、感覚で話していたって教えてくれました。
 う~ん。僕をここに連れてきた人、本当に一度、僕のところに来て説明してくれないかな? 何で先にトラさんとお話ししたの?
 それに今のお話を聞いて、トラさんがブツブツ言うのも分かるよ。
 僕を全然知らないトラさんに面倒を見ろって。普通だったら連れてきた人が責任を持って、何かするべきじゃない?

『まぁ、我の守ってきた森でお前に死なれてもな。仕方ないからお前の面倒を見てやる』

 いいの? 嫌なら断った方がいいよ。僕はその連れてきた人になんとかしてもらうから。
 ……と言っても、どうやって連絡を取ればいいか分からないけど。

『それに、どうもお前からは不思議な力を感じるからな。前に来た者とは別の不思議な力だ。我は我の知らないことがあるのが嫌なのだ』

 何のことか分からないけど、トラさんがそう言うならいいか。でもこれからどうするんだろう?
 そう思っていると、突然トラさんが僕の洋服のえりのところをくわえて、僕はぶらぶら。小鳥はトラさんの頭の方に移動します。
 それでトラさんが、思い切りジャンプしたんだ。
 一回でそこら辺の木よりも高く跳んだトラさん。いきなりでちょっとビックリしたけど、でもすぐにそんなことは気にならなくなりました。
 いつの間にか空はオレンジ色になっていて、目の前にはとっても綺麗な夕焼けが。
 こんなに綺麗な夕焼け、見たことがなくて、僕は思わず拍手しちゃいます。
 と、今度は体がビュンと横に。木のてっぺんに着地したトラさんがまた動いて、一気に木を十本くらい跳び越えます。
 空中を走っているみたいで、それにも僕は感動してまたまた拍手。
 そんな移動をしていると、頭の上の方から小鳥の歌声が聞こえてきました。
 あまりに楽しそうに歌っているから、僕もそれに合わせて鼻歌を歌います。

呑気のんきだな。お前、少しも心配はないのか?』

 心配? 心配だけど今の僕にできることなんて、そんなにないでしょう? だったら僕はトラさんに付いていくよ。
 そうだ。僕のこと守ってくれるんでしょう? だったらどこに向かっているかは知らないけど、着いたらちゃんとお願いしなくちゃ。
 面倒かけちゃうかもしれないけど、よろしくお願いしますって。挨拶あいさつは大事だもんね。

「これからいっちょ」
『ん? ああ、そうだな。これから一緒だな……やれやれ、我もとんだお人好しだな……よし、飛ばすぞ!!』

 そうブツブツとつぶやいて、スピードを上げたトラさん。ジェットコースターみたいでとっても楽しい!
 そして着いた場所は、大きな洞窟どうくつの前でした。
 僕を下ろしたトラさんは、僕と小鳥に待っていろと言って、さっさと洞窟の中に入って行き……でもすぐに戻ってきました。

『中に入っていいぞ。とりあえず魔法で中は明るくした』

 魔法で明るく? そんな魔法もあるんだね。
 洞窟の中に入ったら、トラさんの言った通りとっても明るくて、洞窟の中じゃないみたいでした。
 そしてどんどん奥へ進んでいくと、広い場所に出ます。

『もっと奥にも行けるが、今日はここまでだ。色々準備があるからな……さて、我は外へ行って必要なものを集めてくる。お前達は外に出ず、ここで静かに待っているのだぞ』
「あい!!」
「ぴゅいぃぃぃ!!」

 そうしてトラさんがいなくなってからすぐ、小鳥が付いてきて、と言うように僕の洋服を引っ張ってきました。
 付いていったら、木の葉がまっている場所があって、そこに飛んで行ってちょこんと座る小鳥。
 そうだね。ゴワゴワの岩場に座るより、木の葉の上の方がいいよね。
 僕は小鳥の隣に座りました。うん、ふかふか。お尻痛くないよ。

「こちょりしゃん、にゃまえは?」
「ぴゅい? ぴゅいぃぃぃ!」

 う~ん、喜んでいるとか、怒っているとか、そういうのは分かったけど、流石さすがに細かい言葉までは分からないや。
 トラさんが帰ってきたら聞いてみようかな? 小鳥の名前知っているかな? というかトラさんの名前も知らないや。
 そもそも、僕の名前の問題もある。あの透明な板に書かれていることが本当なら、今の僕は名前がないってことで。
 でも、もし自分で名前を考えていいなら、僕はやっぱり蓮がいいな。お父さんとお母さんにもらった、僕の大切な名前。
 うん! 僕は蓮だよ!!


『帰ったぞ。静かに待っていたか? 色々持ってきたから、後で出そう』

 トラさんはすぐに帰ってきました。
 僕と小鳥は葉っぱの上で立ち上がって、トラさんが何をするのか見ます。

『まずは寝る場所だが、我がいつも使っている隣でいいな』

 僕達の隣まで歩いてきたトラさん。
 すると急にトラさんの頭の上でヒュルヒュルと風の音がして、うすい白色の丸ができました。
 それから丸の中に、何かが出てきてクルクル回ってるのが見えました。
 次の瞬間、ふさぁぁぁ、って風が吹いたみたいに僕達の毛が揺れて、丸の中から木の葉がヒラヒラたくさん出てきたんだ。
 それが僕達が座っていた隣の地面に積もって、木の葉の山ができました。
 その木の葉の山を、トラさんがしっぽで平らにして、もう一つの木の葉の布団になります。

『ふむ。ベッドはこれでいいな。次はご飯を食べる場所だが。こちらでいいだろう』

 そう言って、今度は反対の方に歩いて行くトラさん。それに僕達も続きます。
 小鳥は僕の頭の上に乗ったり肩に乗ったり。そしてトラさんと僕が止まると、手のひらに乗ってきました。

『ご飯を食べる時も、地面に座るだけではお尻が痛いだろう』

 そう言いながら、またトラさんの体の上に丸ができて、そこから木の葉が出てきました。今度はさっきよりも量が少なかったです。
 うん、あっちが布団なら、こっちは座布団って感じかな。
 でも今度は木の葉だけじゃありません。
 また体の上に丸ができたんだけど、今度はその中から、木の実や果物みたいなものが出てきて、その山ができたの。
 これがご飯? いっぱい持って帰ってきてくれたんだね。ありがとうトラさん!!

『あとはこちらに置くか』

 さらに隣を見るトラさん。
 今度は何を出してくれるのかワクワクして待ちます。
 そして出てきたものにビックリ。地面に置かれた時、ドスン、ドスンって凄い音がしたから。
 出てきたのは、大きなクマみたいな生き物と、イノシシみたいな生き物。それから鹿みたいな生き物に、豚人間みたいな生き物……もしかしてあれって、オークとかいうやつ?
 それからも色々生き物を出してくるトラさん。みんな地球の生き物と似ていて、でもどことなく違うんだよね。小さいウサギやリス、ネズミみたいな生き物も出てきたけど、羽が生えていたり、ツノが生えていたり、つめが長かったり……
 生き物を出し終わったのか、トラさんが次の場所へ歩いて行きます。
 そして次に出したのは、僕がすっぽり入っちゃうくらい大きな入れ物でした。それから小さな入れ物も。
 今度は体の上に水色の丸がヒュルヒュル。そこから大小それぞれの入れ物に向かって、液体が出てきます。
 小鳥は小さい入れ物の端っこに乗って、その液体で体をバシャバシャ。それからブルブル。
 僕も小さい方の入れ物に手を入れてみます。おおおっ、冷たくて気持ちいい!!

『こっちの小さい方の水はちょっとした時に使え。こっちの大きい方が飲み水用だ。いいか?』

 そうトラさんが言った瞬間でした。
 ヒュルヒュル、今度はトラさんの体を何かが包んで、それが消えたら――そこにはトラさんじゃなくて、若い背の高い男の人が立っていました。
 僕はビックリして尻餅ついちゃったよ。

「ん? いやすまんすまん。驚かせたか? 我は人間の姿に変わることができるのだ。お前にはこちらの姿で説明した方がいいと思ってな」

 そう言うと、木の実の山の方に歩いて行くトラお兄さん。
 ちょっと大きな木の実を半分に割って、中の果肉の部分を素早く食べると、そのからを持ってきました。

「これがあれば、こうして水が飲めるだろう。我が出かけている時に水が飲みたくなったら、これで飲むといい。我は洞窟を留守にすることも多いからな……まぁその辺は後で説明するが。お前がどのくらい理解できるかどうか」

 そんなことまで考えてくれたんだ。ありがとう!!

「さて、最後はトイレのことだが。こっちだ」

 僕達はもう少しだけ洞窟の奥に行きます。奥と言っても、ちょっと顔を出せば、布団のある場所が見えるところだけどね。
 そこにトラお兄さんがまた、大きな入れ物を置きました。

「外でできる時はさっさと外ですればいいし、我がいる時はすぐに浄化して綺麗にしてしまえばいいが。我がいない時はこれにしろ。後で片付ける」

 もしかしてこれ便器の代わり? この世界に便器があるか分からないけど。うん、これもありがとう!
 というかトラお兄さん、何でこんなにすんなり準備できるの?
 う~ん、聞きたいことがいっぱいだ。
 ここのこと、トラお兄さんのこと、それからさっきからトラお兄さんが出してる、ヒュルヒュルってもののこと。
 あれはたぶん魔法だと思うんだけど……ちゃんと僕、聞けるかな?
 何せ、うまく言葉が話せないんだよね。慣れてくれば、もう少し上手に話せるようになると思うんだけど。

「よし、戻るぞ。まずはご飯だ、その後話をするとしよう。お前は木の実や果物でいいな。人間も肉を食べるが、焼いたりたりする必要があるのだろう。まぁ我はそのまま食べるが……あいつはそうしていたからな」

 うん、トラさんはそのままだよね、今はトラお兄さんだけど。
 僕は木の実と果物で大丈夫。トラお兄さんがしっかり用意してくれたご飯だからね。僕だけだったら、絶対ご飯なんか食べられなかったよ。
 それにしても、あいつって誰かな?
 ちょっぴり気になりつつ、僕は木の葉座布団に座ります。
 それから隣には小鳥が座って、トラお兄さんが木の実と果物の山から色々持ってきて、僕の前に置いてくれました。もし足りなかったらまた取ってくれるって。
 でも、トラお兄さんは僕の前にだけ置いたんだけど……小鳥の分は?
 そう疑問に思っていると、また向こうに歩いて行くトラお兄さん。
 それで魔獣の山から、小さなネズミと大きなイノシシ魔獣を肩にぶら下げて戻ってきます。
 と、小鳥の前にネズミを置いて、イノシシ魔獣は自分の木の葉座布団の前に置いて座りました。

「よしよし、食べるぞ!」
「ぴゅいぃぃぃ!!」

 小鳥が元気よく返事をして、ネズミを突き始めました。それでひと口食べて嬉しそうにまた鳴いて。僕はそれをぼけっと見つめます。
 小鳥、肉食だったの!? そっかぁ。僕、小鳥は木の実を食べるんだって、勝手に思い込んでいたよ。

「どうした? 食べないのか?」

 トラお兄さんに言われ、僕はハッとして木の実に手を伸ばしました。ビックリして見つめちゃってたよ。僕も早く食べなくちゃ。
 でもこの木の実、そのまま食べていいのかな? それとも皮をく? 木の実を持ったのはいいけど、食べ方が分かりません。
 僕がチラチラとトラお兄さんを見ていたら、気づいたトラお兄さんが「ああ」って言って、何個かの木の実と果物の皮を剥いてくれました。

「こっちのは、そのまま食べられるからな」

 僕は剥いてもらった木の実を口に入れます。
 美味おいしい!! 味は桃みたいで、とっても甘くて汁がじゅわわって。
 すぐに他のも食べてみます。他のもとっても美味しかったよ。りんご味やブドウ味、みかん味もあったし、かきみたいな味のものも。本当に美味しかった~。
 そして食べすぎちゃった僕は、その場にごろんと寝転がります。その隣で、小鳥もごろん。二人でお腹を出してごろんです。
 でもそんな僕達に、「手と顔を洗え」ってトラお兄さんが言ってきました。
 そう、僕はやっぱり小さいからか、今までみたいに上手に食べることができなくて、顔中ベタベタ、手もベタベタに。そしてそれは洋服も一緒です。
 小鳥もまぁね。魔獣に顔を突っ込んでいたから、血で顔中ベトベト。ついでに体もベトベト。
 そうそう、あれからネズミを二回もおかわりしたんだよ。全部で三匹。僕の手に乗るくらい小さいのに、どこにそんなに入るんだろうね。
 ともかく、手を洗わないといけないんだけど……う~ん。お腹いっぱいで動きたくない。
 僕と小鳥は二人で顔を見合わせながら、またごろごろを始めます。
 それを見て、また「手を洗ってこい」って言うトラお兄さん。二人でトラお兄さんを見て、ぶすっとした顔をします。

「本当にお前達は出会ったばかりなのか。気が合いすぎであろう。手と顔だけは洗え。体や服は我が浄化してやる。綺麗にしてやるということだ」

 綺麗に? なら手や顔も一緒にできないの?

「あいつが言っていた。子供ができた時にな。何でも自分達がやってしまうと、子供が育たないと」

 また『あいつ』。本当に誰だろう?
 でもトラお兄さんも、そのあいつって人に、色々教わったんだね。うん。何でもやってもらうのはダメ。ちゃんと自分でできることは自分で。
 僕はうなずいてよいしょって立ち上がりました。それを見てやっぱりよいしょって立ち上がる小鳥。
 小さな入れ物の方に二人並んで、僕は手をバシャバシャ。小鳥は顔を突っ込んでバシャバシャ。その後お水を替えてもらって、僕も顔をバシャバシャ。
 う~ん、上手く洗えない。これで大丈夫かな?

「よし、風で乾かそう」

 目を開けられないでいた僕の周りに、急に風が吹いて、手も顔も乾きました。

「このまま体も綺麗にするぞ」

 そうトラお兄さんが言うと、トラお兄さんの顔の前にキラキラしたものが現れて、僕達の体を包みます。そしてそれが消えると、僕の洋服と、小鳥の体のベトベトが消えていました。

「ゴロゴロしてていいぞ」

 そう言われて、僕達はすぐに木の葉ベッドに向かいました。
 木の葉ベッドでゴロゴロする僕達。トラお兄さんは戻って、またご飯を食べ始めます。トラお兄さんは元々大きなトラだから、いっぱいご飯食べないとね。
 後でご飯が終わったら、ちゃんと名前を聞かなくちゃ。それに僕の名前も伝えよう。
 そうだ、あの透明な画面、どうやったら名前のところが蓮ってなるかな……ってその前に、あの透明の画面の出し方が分からないんだけど。思い浮かべれば出る?
 僕はさっそく、透明な板を思い浮かべてみました。
 でも何の変化もありません。
 あの時はどうして出たんだろう。トラお兄さんは知っているかな? とか色々考えて、ゴロゴロしながら、トラお兄さんのご飯が終わるのを待ちます。
 だけどね……僕、眠くなってきちゃったよ。
 だって全然ご飯が終わらないんだもん。あっちの魔獣を食べ終わったらこっちの魔獣、それが終わったらまたまた別の魔獣。その間に果物も木の実も。

「ねむちゃいねぇ」
「ぴゅいぃぃぃ……」

 たぶん小鳥、今のは眠いねぇって言ったよね。
 まだまだトラお兄さんのご飯は終わりそうにないし。
 う~ん、目が勝手に閉じてきちゃう。今日はもう寝て、明日お話ししない?


 ◇ ◇ ◇


 子供と小鳥はさっさと食事を終えて、我、スノーラが用意した木の葉でゴロゴロし始めた。
 我はそのまま食事を進める。久しぶりに動いたせいか、今日はやたらとお腹が空いたな、などと思いながら。
 それにしても、これからどうするか。
 まずはもう一度、子供の名前を確認しよう。もしないようであれば我が考えてもいいし、あの子供が何か好きな名前があるのならそれでいい。
 そして我の名前を教え、小鳥には名前がないことも教えなければ。まぁ、小鳥について詳しくは、色々な確認が終わってからか。
 それが終わったら子供の能力を再度確認だ。
 我の目で見えるものもあるが、見えぬものもある。確認するにはが一番手っ取り早い。
 人間達がよく使うステータスボードだ。あれには色々とっているからな。
 ただ、回復魔法は確実に持っているだろう。小鳥を無意識とはいえ治したのだから。
 そしてが接触してきた時の口ぶりだと、おそらく契約の力も持っているはずだ。
 と、なればだ。子供にその気があれば小鳥と契約ができる。小鳥は契約する気満々だからな。
 そう。我が最初に子供を見つけた時、小鳥は子供の側にいたのだが、我の姿を見た途端、子供を助けろと慌てて飛んできた。
 小鳥の必死な様子に、どうしてこういう状況になったのか詳しい話を聞かずに、子供を助けることにしたのだ。
 この小鳥がこれほど必死なのだ。もし子供を助けたとしても、森に害をおよぼすようなことはないだろう。
 子供の様子を見れば、ただ魔力が枯渇こかつしているだけのようだった。
 そこですぐに我は自分の魔力を子供に分けてやり、小鳥と一緒に子供が目を覚ますのを待つことに。その間に小鳥に何があったのか話を聞いた。
 そして我は少なからずショックを受けた。
 まさかこの森を守る者として、小鳥の危機に気づかなかったとは。そしてこんなに小さい子供に、代わりに助けられるとは。
 どうやら小鳥は何かの罠にかかったらしい。
 いつも休憩きゅうけいしている花畑へ行ったのだが、到着した途端、見たことがない魔法陣が現れ、そこから出てきた魔力にのろいをかけられそうになったと。なんとか逃げようとしたのだが、魔力は片方の羽に当たってしまったそうだ。
 その羽は動かせなくなり、もうダメだと思った時に、突然子供が目の前に現れたそうだ。
 しかも驚くべきことに、その子供が現れた途端、呪いの力が弱まったらしい。
 それでももはや限界だと思っていたら、子供がヒールの魔法をかけてくれて、小鳥は感謝しながら目を閉じ――そして目を覚ますと、目の前にはぐったりとした子供がいたんだと。
 助けてもらった、でも今度はこの子が危ない、と慌てているところに、我が現れたらしい。
 そこで我は不思議に思った。
 確かにヒールは怪我を治すが、呪いを消したりできたか? と。
 我ならば魔法を使って呪いを消すことができるが、確か人間は、魔力を帯びている石だとか、特別な薬草だとかが必要だったはず。それについても後で確認しなければ。
 問題は他にもある。


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