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第1章 パーティー結成編
33、クルの実と村
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野営は無事に終わって次の日の朝。俺たちは日が昇り始めた頃に湖に向かって出発した。今夜も野営になるのは避けたいので、日が沈む前には採取を終えて湖の近くにある村まで行くのが目標だ。
「このペースならなんとか行けるかな」
「多分行けると思うけど、結構疲れるな」
かなり体力が付いてきているとはいえ、このペースで森の中を歩くのは大変だ。フィーネは見た目はとても可愛い女の子なのに、予想以上に体力がある。
「でも宿のベッドで寝られることを考えれば頑張れるよ」
「確かにな……ベッドにダイブしてぐっすりと寝たい」
「ふふっ、やっぱり寝袋は寝心地悪いよね」
「眠れないことはなかったけど、全身が痛いよ」
「そういえば、湖の近くにある村って大きい村なんだっけ?」
フィーネのその言葉を受けて、疲れからあまり働かない頭を動かして調べた情報を思い返す。
「えっと……確か果樹を育ててる村だったはず。たまに新鮮な果物を求めて旅行者も訪れるってあったかな」
「じゃあ閉鎖的な村ではないってことだね。それなら宿もありそうで安心かな」
「確かにせっかく村に着いたのに、宿がなかったら絶望だな」
俺の中に宿がないっていう考えがなかった。でもよく考えたら、旅行者が来ない村なんてたくさんあるよな。そんな村で宿を開いてたって意味がないだろう。
「たまにあるんだよね。でもそういう村は大抵、村長さんの家とかで部屋を貸してもらえるよ」
「へぇ~そうなのか。それも楽しそうだ」
「うん。その村の伝統食が出てくることもあるんだ」
それは興味を惹かれる話だな。これからいろんな国を巡る過程で宿がない村に泊まることもあるだろうし、その時を楽しみにしていよう。
それからも楽しく話をしながら足を動かしていると、日が沈み始める前には湖に辿り着くことができた。
湖のほとりには、目当てのリュースの木をいくつも発見することができる。
『うわぁ、綺麗だね!』
『確かにこれは良い』
「思ってた何倍も綺麗な湖だな」
「本当だね……凄い透明度。これを見るためだけにここまで来る価値があるかも」
近くにある村には、この湖を見にくる人も宿泊するのかもしれないな。これは立地が良くないとはいえ、観光地になっても不思議じゃない。
「さっそく採取をしてみようか」
「そうだな。上手くクルの実になってくれたらいいけど」
皆で一本のリュースの木に近づいて、手が届く範囲の実にそっと片手を伸ばした。すると真っ赤な色が印象的なリュースの実が、キラキラと光を発しながら真っ白な果実へと姿を変えていく。
「これは当たりかも」
思わず上擦った声が出てしまった。真っ白な色の実はかなり特徴的だから、細部を確認するまでもなくほぼクルの実で確定なのだ。
しかし一応しっかりと確認するために採取をして、クルの実の特徴と照らし合わせた。
「……確定だな」
「やったね!」
『これで全部揃ったよね!』
『エリクのスキルはやはり凄いな』
俺の言葉に皆が喜んでくれて、自然と頬が緩んでしまう。後はこれをしっかりと保存して持ち帰るだけだ。クルの実の保存には氷が必要だから、本格的な採取は明日かな。
「また明日ここに来よう」
「そうだね。今日はもう村に行こう。万が一村に氷がなかったら街まで行かないとだし、急ごうか」
湖を後にして村がある方向に向かうと、十分ほどで村の入口らしき門を視界に収めることができた。
村を囲っている木の柵や門が立派なので、思っているよりも大きくて栄えている村なのかもしれない。
「門番さんもいるんだね」
「普通はいないのか?」
「うん。村によっては木の柵と門もないよ。それがあるだけで大きな村だと思う。それかお金がある村ね」
木の柵もなかったら魔物が村の中に入ってくるってことだよな……村での暮らしってのんびりとしたイメージがあったけど、俺の想像より過酷なのかもしれないな。
「こんにちは!」
「おうっ、元気な嬢ちゃんだな」
フィーネが笑顔で声をかけると、門番の男性は嬉しそうに槍を持っていない方の手を上げた。
「冒険者か?」
「はい。素材採取で近くまで来ていて。この村って宿はありますか?」
「もちろんあるぞ。部屋数もかなりあるから満室ってことはないはずだ。今日はそんなに観光客もいないしな」
「それなら良かったです」
「場所はしばらく道なりに進んで、左側に赤い玄関ドアの家がある場所を右折するんだ。それでしばらく進んだら左側にある」
男性は村の中を指差しながら丁寧に教えてくれた。門番っていうよりも、観光客への案内係って感じなんだろう。
「ありがとうございます。もう一つ聞きたいんですけど、この村って氷はありますか?」
「もちろんある。宿でも買えるはずだ」
「そうなんですね! じゃあ行ってみます」
男性に笑顔で見送られた俺たちは村の中に入り、たまにすれ違う村人に挨拶をしながら宿を目指した。
「あっ、ここかな」
「宿屋って書いてあるな」
「凄く大きいね」
三階建てで横にも広そうな宿に驚きつつドアを開けると、中には忙しそうに働く一人の女性がいた。入ってすぐのところが食堂になってるみたいで、今は夕食の準備中らしい。
「いらっしゃいませ! 新しいお客さんかな?」
「はい。今夜って泊まれますか? 二部屋借りたいんですけど。あっ、従魔もいます」
「もちろん泊まれるよ。そっちの大きい従魔は外の小屋になるけどいいかい?」
「それは大丈夫です」
フィーネが頷いたのを確認してから、女性はカウンターの中に入って宿帳のようなものを取り出した。
「これに名前を書いてくれるかい? 料金はそこに書いてある通りだよ。夕食は……二人分ぐらいなら何とかなるから出せるかな」
「本当ですか? ありがとうございます」
料金は村に一軒しかない宿屋にしてはかなり良心的な値段だった。特に問題はないので二人の名前を書いて、一泊の宿泊料を支払う。
「ありがとね。部屋は三階だよ。鍵はこの二つで、夕食は一時間後ぐらいかな。お風呂は他の宿泊客と譲り合って入ってね」
「分かりました」
女性がまた夕食の準備に戻ったところで、俺たちは夕食まで部屋で休もうと三階に上がった。
「このペースならなんとか行けるかな」
「多分行けると思うけど、結構疲れるな」
かなり体力が付いてきているとはいえ、このペースで森の中を歩くのは大変だ。フィーネは見た目はとても可愛い女の子なのに、予想以上に体力がある。
「でも宿のベッドで寝られることを考えれば頑張れるよ」
「確かにな……ベッドにダイブしてぐっすりと寝たい」
「ふふっ、やっぱり寝袋は寝心地悪いよね」
「眠れないことはなかったけど、全身が痛いよ」
「そういえば、湖の近くにある村って大きい村なんだっけ?」
フィーネのその言葉を受けて、疲れからあまり働かない頭を動かして調べた情報を思い返す。
「えっと……確か果樹を育ててる村だったはず。たまに新鮮な果物を求めて旅行者も訪れるってあったかな」
「じゃあ閉鎖的な村ではないってことだね。それなら宿もありそうで安心かな」
「確かにせっかく村に着いたのに、宿がなかったら絶望だな」
俺の中に宿がないっていう考えがなかった。でもよく考えたら、旅行者が来ない村なんてたくさんあるよな。そんな村で宿を開いてたって意味がないだろう。
「たまにあるんだよね。でもそういう村は大抵、村長さんの家とかで部屋を貸してもらえるよ」
「へぇ~そうなのか。それも楽しそうだ」
「うん。その村の伝統食が出てくることもあるんだ」
それは興味を惹かれる話だな。これからいろんな国を巡る過程で宿がない村に泊まることもあるだろうし、その時を楽しみにしていよう。
それからも楽しく話をしながら足を動かしていると、日が沈み始める前には湖に辿り着くことができた。
湖のほとりには、目当てのリュースの木をいくつも発見することができる。
『うわぁ、綺麗だね!』
『確かにこれは良い』
「思ってた何倍も綺麗な湖だな」
「本当だね……凄い透明度。これを見るためだけにここまで来る価値があるかも」
近くにある村には、この湖を見にくる人も宿泊するのかもしれないな。これは立地が良くないとはいえ、観光地になっても不思議じゃない。
「さっそく採取をしてみようか」
「そうだな。上手くクルの実になってくれたらいいけど」
皆で一本のリュースの木に近づいて、手が届く範囲の実にそっと片手を伸ばした。すると真っ赤な色が印象的なリュースの実が、キラキラと光を発しながら真っ白な果実へと姿を変えていく。
「これは当たりかも」
思わず上擦った声が出てしまった。真っ白な色の実はかなり特徴的だから、細部を確認するまでもなくほぼクルの実で確定なのだ。
しかし一応しっかりと確認するために採取をして、クルの実の特徴と照らし合わせた。
「……確定だな」
「やったね!」
『これで全部揃ったよね!』
『エリクのスキルはやはり凄いな』
俺の言葉に皆が喜んでくれて、自然と頬が緩んでしまう。後はこれをしっかりと保存して持ち帰るだけだ。クルの実の保存には氷が必要だから、本格的な採取は明日かな。
「また明日ここに来よう」
「そうだね。今日はもう村に行こう。万が一村に氷がなかったら街まで行かないとだし、急ごうか」
湖を後にして村がある方向に向かうと、十分ほどで村の入口らしき門を視界に収めることができた。
村を囲っている木の柵や門が立派なので、思っているよりも大きくて栄えている村なのかもしれない。
「門番さんもいるんだね」
「普通はいないのか?」
「うん。村によっては木の柵と門もないよ。それがあるだけで大きな村だと思う。それかお金がある村ね」
木の柵もなかったら魔物が村の中に入ってくるってことだよな……村での暮らしってのんびりとしたイメージがあったけど、俺の想像より過酷なのかもしれないな。
「こんにちは!」
「おうっ、元気な嬢ちゃんだな」
フィーネが笑顔で声をかけると、門番の男性は嬉しそうに槍を持っていない方の手を上げた。
「冒険者か?」
「はい。素材採取で近くまで来ていて。この村って宿はありますか?」
「もちろんあるぞ。部屋数もかなりあるから満室ってことはないはずだ。今日はそんなに観光客もいないしな」
「それなら良かったです」
「場所はしばらく道なりに進んで、左側に赤い玄関ドアの家がある場所を右折するんだ。それでしばらく進んだら左側にある」
男性は村の中を指差しながら丁寧に教えてくれた。門番っていうよりも、観光客への案内係って感じなんだろう。
「ありがとうございます。もう一つ聞きたいんですけど、この村って氷はありますか?」
「もちろんある。宿でも買えるはずだ」
「そうなんですね! じゃあ行ってみます」
男性に笑顔で見送られた俺たちは村の中に入り、たまにすれ違う村人に挨拶をしながら宿を目指した。
「あっ、ここかな」
「宿屋って書いてあるな」
「凄く大きいね」
三階建てで横にも広そうな宿に驚きつつドアを開けると、中には忙しそうに働く一人の女性がいた。入ってすぐのところが食堂になってるみたいで、今は夕食の準備中らしい。
「いらっしゃいませ! 新しいお客さんかな?」
「はい。今夜って泊まれますか? 二部屋借りたいんですけど。あっ、従魔もいます」
「もちろん泊まれるよ。そっちの大きい従魔は外の小屋になるけどいいかい?」
「それは大丈夫です」
フィーネが頷いたのを確認してから、女性はカウンターの中に入って宿帳のようなものを取り出した。
「これに名前を書いてくれるかい? 料金はそこに書いてある通りだよ。夕食は……二人分ぐらいなら何とかなるから出せるかな」
「本当ですか? ありがとうございます」
料金は村に一軒しかない宿屋にしてはかなり良心的な値段だった。特に問題はないので二人の名前を書いて、一泊の宿泊料を支払う。
「ありがとね。部屋は三階だよ。鍵はこの二つで、夕食は一時間後ぐらいかな。お風呂は他の宿泊客と譲り合って入ってね」
「分かりました」
女性がまた夕食の準備に戻ったところで、俺たちは夕食まで部屋で休もうと三階に上がった。
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