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第1章 パーティー結成編
36、難しすぎる錬金
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昨日はさすがに疲れていたので、夕食を食べてから錬金せずにひたすら休んで、今朝はたっぷりと寝たことで朝早くに目が覚めた。
部屋の窓を開けると爽やかな風が吹き込んできて、晴れやかな気持ちになる。なんだか成功しそうな予感がする。いや、絶対に成功させよう。
素材はたくさんあるから何度も失敗はできる。どの程度の量の素材を入れる必要があるのか、どの処理してから入れた方がいいのか。その辺はレシピに細かく書いていないのが普通なので、今までの経験を総動員させなければいけない。
俺にできるのかって少し不安になるけど……自分を信じよう。工房長だって俺には才能があると言っていた。それに今まで何年間も必死に頑張ってきたんだ。
「まずは朝食だな」
顔を洗ったり着替えたりと準備を済ませてから宿の一階に向かうと、まだ早い時間なのにすでにフィーネが席に着いていた。
「フィーネ、早くない?」
「今日から錬金すると思ったら目が覚めちゃって。意外と緊張してるのかも。私は何もしないのにね」
「そっか。……俺もちょっと緊張してるから分かる。でも最悪は数日にわたって錬金し続けることになるから、今から緊張してたら身が保たないぞ」
その言葉にフィーネは驚いたのか瞳を見開き、しかし一度の錬金にかかる所要時間を思い出したのか、段々と納得の表情になって頷いた。
「回復薬であんなに大変なんだもんね。凄いものを錬金しようと思ったら、それは時間がかかるよね」
「ああ、手探りになるから何度もやり直すと思う」
「……エリク、サポートするからなんでも言ってね」
拳を握りしめてやる気十分なフィーネの様子に、俺は苦笑しつつ頷いた。
「ありがと」
それから美味しい朝食を食べて、さっそく部屋に戻って錬金をすることにした。ちなみにラトは疲れたのかまだ寝ているようで、俺の部屋にクッションごと運ばれてきた。
すぴすぴと小さな寝息を立てているラトに癒されてから、テーブルに並べた錬金道具に視線を移す。
今回作るのは睡氷病の治癒に特化させた回復薬だから、手順としては回復薬を作る手順に素材が三つ追加される感じだ。
魔石はできる限り質がいいものを使うために、素材採取の途中で倒した魔物を変質させて、質のいい魔石をたくさん確保してある。
「まずは魔力水からだな」
フィーネと顔を見合わせ頷き合ってから、必要な道具を手に取った。
それから数時間。俺はひたすら錬金を続けた。しかし数回の錬金で作り出せたのは、いずれも失敗した時に出来上がる黒水だ。
「あぁ……疲れた」
これは予想以上に難しいかもしれない。魔力水を作って回復薬に必須の素材、ヒーリング草と光草を入れるところまでは成功するのだ。
しかし他の三つの素材を入れているうちに、すぐ黒水になってしまう。
まず入れたのは熱草だ。最初は熱草を明らかに入れすぎたようで、投入してすぐに失敗となった。次は少量からだんだんと増やしていったけど、上手く素材が魔力水に溶けないうちに失敗となってしまった。
その二回の失敗でレシピに乗っている熱草を細かく刻む、の部分にもう少し工夫が必要なのだろうと思い、次はすり潰すようにしてみたけどダメだった。
「難しいね……」
「これは気が遠くなるな。次はどうするか……」
何かレシピには書かれていない工程が必要なのかもしれない。例えば熱草だから火に炙るとかはどうだろう。次はそれをやってみるか……
今回は俺のスキルで変質させた素材を使っていて、さらには素材の保存にもかなり気を使った。だから素材の質が低くて失敗してるってことはないはずなんだ。
やっぱり問題があるとすれば、その素材をどうやって処理したかの部分だろう。
「エリク、お昼ご飯を食べてから続きにする? 何か買ってこようか?」
「……頼んでもいい? ちょっとだけ寝て休憩したい」
「もちろんいいよ。じゃあその辺の屋台で買ってくるね」
「ありがとう」
それから少し休憩して昼食を食べ、またすぐに錬金を再開した。しかし初日で成功させることはできず、熱草を炙ってから細かく刻んで、さらにじっくりと煎ることで錬金が失敗しないことに気付いたところで、気絶するように眠りについた。
ぐっすりと眠って次の日も、とにかく何度も何度も失敗して黒水を作り出しながら頑張った。しかし二日目も成功には至らず、錬金漬けの日々は三日目に突入した。
「あぁ! また失敗した!」
熱草とサフラルの花を入れるところまではなんとか成功するようになったのに、どうしてもクルの実を入れると失敗してしまう。
「クルの実の処理方法が違うのかな」
「そういうことだと思う。……なんとなくだけど、熱するのがダメな気がするんだよな」
「でも錬金って魔力水を熱しながらするんだよね?」
「それが基本だけど……もしかしたらそこが違うのかも。例えばサフラルの花が解けたところで火から下ろして、完全に冷えてからクルの実を入れるとか」
それで溶けるとは思えないけど、今回の錬金は常識に縛られてたらダメな気がする。クルの実は熱した魔力水に入れた瞬間に、品質が落ちて失敗してる感じなのだ。
「氷水をもらってくる?」
「お願いしてもいい?」
「もちろん。ちょっと待っててね」
フィーネが部屋から出て行ったのを見送って、俺はベッドに思いっきりダイブした。正解が分からない手探りの錬金が、ここまで大変だとは思わなかった。
『エリク、大丈夫?』
「ラト~」
顔の隣に来て頬を優しく撫でてくれるラトを抱きしめると、そのふわふわな毛並みに癒される。
人の命がかかってるんだから、諦めるわけにはいかないよな。俺にしかできないんだ。
そう思うとまたやる気が湧き上がってきて、絶対に成功させてやると拳を握りしめた。
部屋の窓を開けると爽やかな風が吹き込んできて、晴れやかな気持ちになる。なんだか成功しそうな予感がする。いや、絶対に成功させよう。
素材はたくさんあるから何度も失敗はできる。どの程度の量の素材を入れる必要があるのか、どの処理してから入れた方がいいのか。その辺はレシピに細かく書いていないのが普通なので、今までの経験を総動員させなければいけない。
俺にできるのかって少し不安になるけど……自分を信じよう。工房長だって俺には才能があると言っていた。それに今まで何年間も必死に頑張ってきたんだ。
「まずは朝食だな」
顔を洗ったり着替えたりと準備を済ませてから宿の一階に向かうと、まだ早い時間なのにすでにフィーネが席に着いていた。
「フィーネ、早くない?」
「今日から錬金すると思ったら目が覚めちゃって。意外と緊張してるのかも。私は何もしないのにね」
「そっか。……俺もちょっと緊張してるから分かる。でも最悪は数日にわたって錬金し続けることになるから、今から緊張してたら身が保たないぞ」
その言葉にフィーネは驚いたのか瞳を見開き、しかし一度の錬金にかかる所要時間を思い出したのか、段々と納得の表情になって頷いた。
「回復薬であんなに大変なんだもんね。凄いものを錬金しようと思ったら、それは時間がかかるよね」
「ああ、手探りになるから何度もやり直すと思う」
「……エリク、サポートするからなんでも言ってね」
拳を握りしめてやる気十分なフィーネの様子に、俺は苦笑しつつ頷いた。
「ありがと」
それから美味しい朝食を食べて、さっそく部屋に戻って錬金をすることにした。ちなみにラトは疲れたのかまだ寝ているようで、俺の部屋にクッションごと運ばれてきた。
すぴすぴと小さな寝息を立てているラトに癒されてから、テーブルに並べた錬金道具に視線を移す。
今回作るのは睡氷病の治癒に特化させた回復薬だから、手順としては回復薬を作る手順に素材が三つ追加される感じだ。
魔石はできる限り質がいいものを使うために、素材採取の途中で倒した魔物を変質させて、質のいい魔石をたくさん確保してある。
「まずは魔力水からだな」
フィーネと顔を見合わせ頷き合ってから、必要な道具を手に取った。
それから数時間。俺はひたすら錬金を続けた。しかし数回の錬金で作り出せたのは、いずれも失敗した時に出来上がる黒水だ。
「あぁ……疲れた」
これは予想以上に難しいかもしれない。魔力水を作って回復薬に必須の素材、ヒーリング草と光草を入れるところまでは成功するのだ。
しかし他の三つの素材を入れているうちに、すぐ黒水になってしまう。
まず入れたのは熱草だ。最初は熱草を明らかに入れすぎたようで、投入してすぐに失敗となった。次は少量からだんだんと増やしていったけど、上手く素材が魔力水に溶けないうちに失敗となってしまった。
その二回の失敗でレシピに乗っている熱草を細かく刻む、の部分にもう少し工夫が必要なのだろうと思い、次はすり潰すようにしてみたけどダメだった。
「難しいね……」
「これは気が遠くなるな。次はどうするか……」
何かレシピには書かれていない工程が必要なのかもしれない。例えば熱草だから火に炙るとかはどうだろう。次はそれをやってみるか……
今回は俺のスキルで変質させた素材を使っていて、さらには素材の保存にもかなり気を使った。だから素材の質が低くて失敗してるってことはないはずなんだ。
やっぱり問題があるとすれば、その素材をどうやって処理したかの部分だろう。
「エリク、お昼ご飯を食べてから続きにする? 何か買ってこようか?」
「……頼んでもいい? ちょっとだけ寝て休憩したい」
「もちろんいいよ。じゃあその辺の屋台で買ってくるね」
「ありがとう」
それから少し休憩して昼食を食べ、またすぐに錬金を再開した。しかし初日で成功させることはできず、熱草を炙ってから細かく刻んで、さらにじっくりと煎ることで錬金が失敗しないことに気付いたところで、気絶するように眠りについた。
ぐっすりと眠って次の日も、とにかく何度も何度も失敗して黒水を作り出しながら頑張った。しかし二日目も成功には至らず、錬金漬けの日々は三日目に突入した。
「あぁ! また失敗した!」
熱草とサフラルの花を入れるところまではなんとか成功するようになったのに、どうしてもクルの実を入れると失敗してしまう。
「クルの実の処理方法が違うのかな」
「そういうことだと思う。……なんとなくだけど、熱するのがダメな気がするんだよな」
「でも錬金って魔力水を熱しながらするんだよね?」
「それが基本だけど……もしかしたらそこが違うのかも。例えばサフラルの花が解けたところで火から下ろして、完全に冷えてからクルの実を入れるとか」
それで溶けるとは思えないけど、今回の錬金は常識に縛られてたらダメな気がする。クルの実は熱した魔力水に入れた瞬間に、品質が落ちて失敗してる感じなのだ。
「氷水をもらってくる?」
「お願いしてもいい?」
「もちろん。ちょっと待っててね」
フィーネが部屋から出て行ったのを見送って、俺はベッドに思いっきりダイブした。正解が分からない手探りの錬金が、ここまで大変だとは思わなかった。
『エリク、大丈夫?』
「ラト~」
顔の隣に来て頬を優しく撫でてくれるラトを抱きしめると、そのふわふわな毛並みに癒される。
人の命がかかってるんだから、諦めるわけにはいかないよな。俺にしかできないんだ。
そう思うとまたやる気が湧き上がってきて、絶対に成功させてやると拳を握りしめた。
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