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第2章 王都編

57、ロックスパイダー

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 皆で手分けして星屑石を採取すること一時間、三つの袋が満杯になったところで採取を終わりにすることにした。

 ずっと地面を見ていたので固まった体をぐいっと伸ばすと、腰の痛みに思わず呻き声が漏れる。

「うぅ……」
「ふふっ、エリク、お年寄りみたいだよ」
「夢中になりすぎた……」

 痛みに耐えながら何気なく辺りを見回すと、ふと視界の端に見たことがない植物が映った。今までは下をじっと見てたから気づかなかったな……あの植物、なんだろう。似たような植物も思いつかない。

「フィーネ、あの植物見たことある?」
「あっ! それさっき向こうにも生えてたよ。一本だけ取ってみたんだけど、これ」

 フィーネが目の前に差し出してくれた植物をしっかりと見てみると、なんだか不思議な模様をしていた。例えるなら……輝く星がたくさん見える夜空、みたいな感じだ。

「一つ、俺が触ってみてもいいかな。そこに生えてるやつを」
「そうだね。変質するか試してみようか」

 不毛な大地に生えてるものだからかなり希少だった場合、もしかしたら変質しないかもしれない。そんな期待をしながら触れてみると……予想通り、不思議な植物は変質せずにそのままだ。

「おおっ、凄く希少なものってことだな」
「そういうことだね。……デュラ爺に聞いてみようか。もしかしたら知ってるかも」
「そうだな。デュラ爺!」

 少し遠くにいるデュラ爺に手を振って呼ぶと、デュラ爺は大きな体で意外にも素早く俺たちの下に来てくれた。
 デュラ爺は見た目から受ける印象よりも移動速度が早くて、たまに驚いてしまう。

『どうしたんじゃ?』
「この植物を知ってる?」
『む? それは……生命草じゃな。わしも詳しいことは知らんが、確かそのまま食べるだけでいろんな不調が治るんだったはずじゃ』
「おおっ、凄いな」

 不調が治るってことは、ヒール草に似た効果のある植物ってことだよな。それなら錬金をしてみるのも面白いかもしれない。回復薬を作るレシピでヒール草を生命草に変えてみたら、何かできあがるかも。

「生命草も採取していこう」
「そうだね。向こうにもあったから採ってくるよ」
「ありがとう」

 それから皆で手分けして生命草も採取して、十本の生命草を手に入れたところで採取は終わりにすることにした。

「そろそろ帰るか」
『そうじゃな』
『また森で魔物を倒そう』
「エリク! その先に大きめの段差があるから気をつけてねー」

 フィーネの注意に片手をあげて返事をして、足元を確認しようと視線を下に向けたちょうどその時。

 突然、地面が揺れた。

「うわっ、ちょっ……!」

 なんだこれ、地震!?

 そう思ったけど、フィーネたちの場所は揺れてないように見える。俺のところだけ局地的な地震? そんなことある?

 頭の中でそんなことを考えながら、立っていられなくてその場にしゃがみ込むと……俺が座っている岩から、足みたいなものがたくさん生えてきた。

「うわっ! なんだよこれ!」

 あまりの気持ち悪さに叫ぶと、その脚はカサカサと動いて地面も動く。

『エリク! ロックスパイダーじゃ!』

 ロックスパイダーってことは、魔物ってことか。そういえば冒険者ギルドの受付で、荒野に擬態する魔物がいるかもって言ってたな……!

 俺はなんとかロックスパイダーの背中の上で体勢を整えて、腰に差してある剣を抜いた。鍛錬は続けてるけど、リルンとデュラ爺が強すぎて実戦では全く使われない剣だ。

「はっ!」

 いつもやっているようにロックスパイダーの背中に向けて剣を振り下ろしてみると……予想通り、硬い岩に阻まれて剣は全く通らなかった。

『ロックスパイダーは足の付け根を狙うんじゃ。上から差し込むようにすると良いぞ!』
『我もそちらに行くから、少しだけ一人で耐えていてくれ』

 デュラ爺とリルンのそんな言葉が聞こえた直後、またロックスパイダーが激しく動き始めた。

 足の付け根って……ここかっ!

 振り落とされないためにも剣をどこかに固定したくて、見つけた関節に向けて上から思いっきり剣を突き刺した。するとロックスパイダーは悲痛な叫び声をあげて、その場にガクッと倒れ込む。

「よしっ! ……って、うわっ」

 喜んだのも束の間、ロックスパイダーが暴れ始めて剣を掴んでいた手は簡単に解け、俺は宙に投げ出された。このままだと地面に思いっきり激突する。
 そう思って体を小さく縮こめようとしたその瞬間、俺の体はふわふわな毛並みによってふわっと持ち上げられた。

『大丈夫か?』

 助けてくれたのは、リルンだ。

「リルン……めっっちゃ助かった!」

 感謝の気持ちを込めて背中に体を預けると、リルンは照れたのかぶっきらぼうな声を出して地面に降り立った。

『早く降りろ。我はあいつを倒してくる』
「分かった。本当にありがとな」

 それからは一瞬だった。身軽になったリルンは次々とロックスパイダーの足を切り落としていき、デュラ爺も的確に足の付け根にダメージを与えていく。
 ロックスパイダーが倒れるまで、ほんの数分ほどだった。
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