上 下
85 / 89
第3章 黒山編

85、説明と休息

しおりを挟む
 リグルさんの躊躇いながらの質問に、アルフさんは嫌な記憶を思い出したのか僅かに顔を顰めながらも、深呼吸をすると静かな声で語った。

「――ここには、流れ着いたんだ。信じられない規模のサンダーフィッシュの群れに襲われて、運良くここにいる数人だけが生き残り、身一つで流れ着いた。しかし船を失い食料なども全て流され、途方に暮れていた」

 サンダーフィッシュの群れ……!

 アルフさんたちも、俺たちと同じ群れに襲われたってことか。あのサンダーフィッシュの群れ、あらかた討伐しておいて良かったな。
 あの群れによってまた被害が出る可能性は、現状では低いだろう。

「……こんなことは聞きたくないんだが、リグルたちはこの島に、私たちを捜索するために寄ったのか?」

 アルフさんは辛い現実も受け入れると覚悟しているような、強い瞳でそう聞いた。

 確かに海で遭難した人を探すのに、小さな島に上陸して森の中まで捜索するなんて普通はあり得ない。俺たちも遭難者だと考える方が自然だろう。

「いえ、実は嵐に遭遇して、船がダメになり……」

 リグルさんのその答えに、アルフさんは視線を下げて「ふぅ」と息を吐いた。その瞳には落胆の色が滲んでいるが、それを表に出さないよう必死に耐えているようだ。

「そうか。では、リグルたちも流れ着いたのだな」
「……そのようなものです。ただエリクさんとフィーネさんの話では、大陸に帰る手段はあると」
「っ!? そ、それは本当か!?」

 続いたリグルさんの言葉を聞いたアルフさんは、ガバッと勢いよく顔を上げて叫んだ。さらに他のアルフさんの船員の人たちも、突然現れた希望に瞳を見開いている。

「お、俺たち帰れるのか?」
「本当か……?」
「た、多分。ですよねエリクさん、フィーネさん」

 リグルさんからの問いかけには、フィーネが笑顔で答えた。

「はい。帰ることはできるので安心してください。ただそのためには私の従魔たちの協力が不可欠で……この子たちは特殊個体で特別な力を持ってるんです。それを見ても、他言無用を守っていただけますか?」

 その問いかけに、アルフさんたちは悩むことなくすぐに頷く。

「もちろんだ。恩人の不利益になるようなことをするはずがない」
「俺もだ。絶対に秘密にする」
「言うわけがない」
「ありがとうございます。ではもう少し休んでから、この島を出ることにしましょう。ただ大陸へ戻るためには準備が必要なので、それまで……アルフさんたちは寝ていてください。体力がないと難しいですから」

 死にそうな目にあった植物船を思い出したのだろうフィーネは、妙に力の籠った口調で寝ているようにと伝えた。しかしアルフさんたちは躊躇いを見せる。

 知らない小島で、しかも野外で眠りにつくなんて抵抗があるのは当然だろう。休息が大切だと分かっていても、眠りにつけない時はある。

 でも本当に、万全の体調に近づいてないと厳しい可能性があるからな……そうだ、あれを作ってもらえばいいんじゃないか?

 俺は頭の中に一つの案が思い浮かび、すぐデュラ爺に声を掛けた。

「デュラ爺、前に使ってくれたみたいなベッドを植物で作れないか? ハンモックみたいなやつ」

 咄嗟の思いつきだったが、デュラ爺は鷹揚に頷いてくれる。

『もちろん作れるぞ。少し待っておれ』

 それから立ち上がって周囲の植物の様子を確認したデュラ爺は、すぐに植物魔法を発動させた。いくつもの植物が意思を持ったように動き始め、複雑に絡み合っていく。

 そしてすぐに、屋根付きのハンモックが複数つくらた、
アルフさんたちは驚きに目を丸くしながらも、寝心地が良さそうなハンモックに引き寄せられていく。

「凄いな……特殊個体はこんなこともできるのか。これを使っていいのか?」
「どうぞ、使ってください」

 フィーネが笑顔で勧めると、アルフさんはやっと休むことを決意したのか、ハンモックに横になった。そしてリグルさんに対して出発前に起こしてくれと伝えると――すぐ眠りに落ちてしまう。

 他の船員たちもアルフさんに続き皆が横になり、夢の世界に向かった。気力で起きていただけで、体は限界だったのだろう。
 半日ぐらいは寝てもらったほうがいいかもしれないな。

「リグルさんたちも休んでいてください。私たちは準備を進めますね」

 フィーネが笑顔で声をかけると、リグルさんたちは少しだけ申し訳なさそうな表情をしつつも、素直に頷いた。

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」
「はい。私たちも近くにいるので安心してください」

 そうして俺たち以外の皆が眠りについたり、寝ていなくとも本格的な休憩に入ったところで、俺たちはその場から少しだけ離れた。

 ここからは植物船造りだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:17,718pt お気に入り:263

夫の愛人が訪ねてきました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:77,929pt お気に入り:657

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:3,899

おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,906pt お気に入り:3,851

【R18】はにかみ赤ずきんは意地悪狼にトロトロにとかされる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:161

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

BL / 連載中 24h.ポイント:875pt お気に入り:301

不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:3,855

処理中です...