人の心、クズ知らず。

木樫

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第八話 ショーゴと粉雪。

18(side翔瑚)※

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(あ、中……ぁ、入っ、た……)


 粘度の高いチューブのローションを追加で塗りこんだ屹立が欲しがりな穴の表面をすべり、焦らしながら再度深く挿入された。

 プチュ、と結合部から溢れる。
 狭いが柔軟な直腸をみっちりと埋めるモノに気を取られていると、咲がクリップを指で広げて俺の乳頭に近づけた。

 怖い。でも期待してる。

 咲、俺は痛いことなんか好きじゃなかったはずなんだぞ。でもお前が好きだから我慢する。したい。

 そうすればもっと、お前に愛してると言ってもらえる気がするんだ。


「さぁて、痛いかね。俺は痛くねぇからわかんねぇけど、乳首ちぎれたらいいなぁ」

「っ……咲、好きだ、愛してる……好きにしてくれていい、ぞ……痛くしてくれ……俺のこと、愛しているなら痛くされたい……」

「ありゃ、なんだそれ。愛してるなら痛くするの? それ、どういうことかわかんね。教えて、ショーゴ。ほら」

「い゛ッ……!」


 冷たい金属がバチンッと先端を挟んだ。
 激痛だ。濁点混じりの悲鳴をあげて縮こまる。噛みつかれたように痛い。

 ジクジクと血管を脈動させるたびに痺れる痛みが快感を煽るが、慣れるまで少しかかりそうだ。だから。


「ショーゴは痛いの大好き。これはマジ。おまえはドマゾ。なのに泣き虫だもんでイジめてあげっといっつも嫌だ嫌だってメソメソ泣いてさぁ」

「ゔぁ、ッ、ッ……!?」


 待ってくれると思ったのに、咲は筋肉を強ばらせて硬直する俺をいにも介さず、もう片方にもバチンッとクリップを着けた。

 息つく間もなく敏感な皮膚を押しつぶされ喉が仰け反る。
 さすがに予想外で、手を離しそうになったので膝裏に爪を立ててキツく握りこむ。だって話しながら、なんでもないように。


「咲、ちょッ、待……ッ」

「なのに恋人同士になったらイイの?」

「い゛ひッ……!」


 なんでもないように壊そうとするから。

 俺の両乳首を繋ぐチェーンが言葉と共に引かれ、ブチッ! とクリップが弾ける激痛に目を見開いて背筋を仰け反らせた。


「むつかしいニャー。彼ピには痛めつけられても気持ちよくて、それ以外はしくしく」

「ン゛ッ…! ぐッ…ッ……!」

「優しくしてって言われるから俺なりに優しくしたのに、わかんね。別に普段も痛めつけてるわけじゃねーから謎いよ。勝手に泣かれて勝手に感じてる。悦がらせたくてイジメるってむつかしい。なぁ、合ってる?」


 ──い……っ痛すぎる……っ!

 じんわりと滲んでいた涙が見る間に目尻に雫を作り、ボロボロとあふれていく。

 あまりの激痛にギチギチッ、と中を締め上げて緩められない。根元をギュウギュウ絞められて咲だって痛いはずなのに本人はケロリとしている。

 ビクビクビクッ……! と痙攣する俺の胸に再度クリップが着けられる。


「い、ひぃ、ひ……っ」

「いーい、今から引っ張っちゃうぜ? すげえいてーよ、はは」

「ゔぁッッ……!」


 ぷっくりと腫れた乳頭を押しつぶされ痛みが脳まで走り抜けたかと思うと、今度は笑って軽く宣言されながらバチンッ! とクリップを引き抜かれた。

 くるとわかってやられると我慢できる。
 だけどそのぶん乳首に神経を集中させてしまい過敏になる。

 それでも咲はみたび俺の胸にクリップを着け、チェーンを鳴らした。

 じくんじくんと脈動する胸元。
 激しい瘙痒感。痛い。痒い。元の状態より一回りプクリと腫れた乳首から、目が離せない。

 いっそ思い切り掻いてほしいと思うけれど、それをするとのたうつほど痛いだろう。

 咲がチョン、とチェーンをつつく。


「ふっ……や、…ダメだ……っ」


 震え上がって、無意識に強ばった筋肉が中の怒張を絞った。


「さ、さき……やめて……もうち、ちぎらないでくれ、たのむ……こ、こわれる……」

「え、壊れねーよ。乳首フル勃起してんじゃん。クリップの型ついるし女のアソコみたいになってるけど、ちぎったりしてねーでしょ。ヘーキヘーキ」

「ひっ……! だめだ、さわったらだめ……っも、もうゆるしてくれ……っ」

「ん、ん、ん……? もしかして、痛すぎるのはダメなの? お前がねだったのに。むつかしーね、ショーゴのルール」

「っ!」

「俺はただお前の気持ちいいセックスをしてやろうって思っただけなのに、加減わっかんねぇわ……めんどくさいな」

「いやっ、で、でも咲がしたいなら、していいっ……だ、だからセックスは、やめないでくれ、我慢できる、咲、俺は、俺を……」


 サァァ、と血の気が引いてフルフルと首を横に振る。
 ため息を吐いて独り言のように舌を出す咲を見る目が怯えた。

 まさか俺に飽きたのか?
 そうだったらどうしよう。捨てられるくらいなら本当にちぎれたって我慢する。嫌だ、咲、やっと俺を好きになってくれただろう?


「バカだなぁ、ショーゴ」

「さ、さき」

「別に怒らない。ワガママ言ってもいい」


 ──そう思ったのに。

 あの気まぐれで破滅主義で気遣いの崩壊した咲が、矛盾しためんどうごとを言う俺を許して、甘やかすなんて。

 それは俺が、好きだから?
 俺と一緒に、いたいから?

 俺を愛しているから、これまでじゃ考えられない要望でも、眉ひとつ動かさずに当然のように受け入れてくれるのか。


「恋人だから、特別だから……恋人は、最優先するべきだろ? マトモなアイだ。唯一無二の、オマエが、ショーゴだけがトクベツ」


 恋人というものは、凄い。
 途端に俺は幸福で瞳を潤ませる。

 咲は「お前はいいこ」と俺の頬を両手で掴み、目を合わせながら呑み込ませるだけで止めていた律動を開始した。


「んっ…咲、恥ずかしい…あっ…あっ…」

「ショーゴの目が見てぇの。バカで、かわいい。お前、かわいいよ」

「っう……あぁ……あ、ぁっ……あん……」


 薄く笑ってそんなことを言われると、やめてくれと言えなくなる。

 胸の痛みをスパイスに感じる顔を観察されながら抱かれる行為が、俺の体を悦楽で焼き原型を失いそうなくらい熱くした。




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