人の心、クズ知らず。

木樫

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第九話 サキと夢。

04※

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 尻を揺らして中をあやすキョースケが、俺の手に胸元を突き出してか細く喘いだ。

 その突起を指先で挟む。
 クニクニと絞るように強く挟んでは緩め、暇つぶしの愛撫を繰り返す。


「う…ぁ……っふ……」

「お前、言ったじゃん。〝咲は、まず一人だけを大事にしてみ〟ってさ」

「そう……だな……んっ……あっ……」

「俺はショーゴを選んでみた」

「っ……ひ……」


 ショーゴの名前を出すと、キョースケはわずかに腿を締めつけて俺の腰を抱きしめるように挟んだ。

 なにかを言いかけて堪えたらしい。唇を噛んでふるりとまつ毛を震わせる。
 我慢している顔が一番きれいだなんて損なやつだな。


「だけど、俺じゃダメなんだって。ショーゴ。……なんでだろ」

「さき、ごめ、ん」

「なにが? いーよ」


 俺からすれば、残酷な優しさ。
 自分の手が届く範囲にある全ての傷の半分を自分の心に背負わせる。

 溶けた内部から指を引き抜き、キョースケの蜜とローションで濡れた屹立に手を添え、ほぐれた双丘の谷間へあてがった。


「は、っ……はぁ…っ……っ」


 ぐぷ、と先っぽが輪っかを通る。
 腰を徐々に落としながら呼吸を駆使して括約筋を拡げ、狭い直腸内を真っ直ぐに差し込んでいくと、すぐに根元まで収まった。

 全長を襞がねっとりと包み込む。
 勃起しているのだから気持ちいいはずなのに、どこか遠い。


「ん……く、んッ……んッ……」


 タンッタンッと弾み、自分のモノを使って快感に溺れていく男の肢体を眺める。

 腹の中に肉棒をぐっぽりと咥えこんで、粘度の高い先走りを脈動するモノから滴らせて、そんなに気持ちいいのかね。
 俺にはやっぱりわかんねーよ。


「んぁ、あッ……ぁッ……」

「みんなが当たり前にしてることを俺も真似て、まともを演じて、意外とじょーずにできてんなって、思ったのに」

「うん……そっか……は、ッん」


 俺は本当に──ショーゴをハッピーな恋人にしてやりたかったのに。

 どうしても、うまくいかない。

 経験則と世論、情報収集と応用。一般論はマストで、人が褒め称える大衆向けの物語やメディアが教科書。

 最初はうまくいってたんだ。
 いつも初めは、うまくいくんだ。

 喧嘩をしたなら仲直りでよかった。
 けれどショーゴは俺との仲が直ることなんてないと、あんなにも美しい泣き方をするくらいに痛感しているように見えた。


『さきに俺の愛し方、教える言葉が、わからないから』


 ショーゴのこれは、殺意だと錯覚するくらい、俺の呼吸を刹那止めるほどの感情が込められていた言の刃だったのだ。


「俺はずっと、うまくなにか、感情らしい感情が出てこなくてさ」


 淫靡な空気で満ちているこの狭い部屋でも俺とキョースケが白黒だからか、視界の中から色が掠れていっている気がした。

 根元まで全てが収まると恥骨の上にキョースケの尻が乗り、弾むたびに汗ばんだ肌がぺたぺたと張りつく。熱い。

 キョースケはゆるゆると腰を揺すり、大きく慎重な抽挿から慣らす。

 出入りがスムーズになれば大胆に強く締めつけ、先端を中に残して抜けないように加減し、内臓で他人の肉をぎゅうと絞る。ここまでされても俺はやる気がない。


「しいて言うなら」

「はっ……あ…っん……」

「家庭教師のショーゴセンセで暇なんか、潰さないであげればよかったな、って、思ったかもね」


 胸元の突起を育てていた手を、ドサッ、とシーツの上へ落とした。

 話を聞きつつもキョースケは止まらず一定のテンポで抜き差ししていて、むしろ話すにつれ、動きが激しくなっていく。

 反り返りを自分の気持ちいい箇所に当てながら結腸口まで突っ込んで、括約筋まで引き抜いて、ぐぽっぐぽっとエグい音が響く。

 変なキョースケ。声が濁ってんだよ。
 苦しいならんな乱暴に動かなきゃいいのに、なんにキレてんのかね。


「きれいな目でさ、言われたんだ。〝どうしてわからないんだ〟って」

「そっ、か」

「言われてから、俺は〝わかってなかったのか〟って気づいたのよ」


 律動するたびに欲望を滾らせ皮の張った肉棒がバウンドする。
 たらたら糸引いて垂れ流し。

 淫蕩しきった表情でしどけなく開いた唇から俺の名前をあげる。
 甘ったるい相槌を打って鳴くと凹凸のはっきりした腹筋がうねり、涙みたいな汗のつぶがパッと散った。はは、必死だな。


「なぁ、キョースケ。俺はあとなにをわかってねーのかな」


 薄く笑って尋ねる。
 ショーゴの気持ちの他に、俺のわからないものはなんだろうか。

 俺に足りていないものはなんだろうか。

 そしてそれはどのくらいなにを頑張れば、手に入るものなのだろうか。




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