人の心、クズ知らず。

木樫

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第十話 人の心、クズ知らず。

04※

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「感度と素質は及第点。具合は……」

「ふぃ、いいふぁえんゆふぃぬふぇ」

「指は抜かない。……そうだな。怪我をしない程度は十二分に、仕込まれているようだ」


 理久はぐるりと縁を描いて入り口を拡げ、肉穴の柔軟性を確かめた。

 打たなかった舌を打つ。
 春木の中は確かに素人らしくキツく窄まっていたが、理久の予想以上に緩むのが早い。春木本人も心得ている様子で、より理久の血液が煮込まれた。

 身体の具合と感度で、どの程度咲野の仕込みが入っているかすぐにわかる。

 胸の奥で、ゾワリと悋気が疼く。
 ──咲野にハジメテ抱かれたオトコは、理久なのだ。

 女の体はさておき咲野が男の体を抱く手管は、主に自分自身の経験、そして理久とのセックスが基盤にあった。

 初めて抱かれた当時から、多少今も、咲野よりセックスが上手い。
 春木や他の恋人たちのように、咲野に基礎を仕込まれる経験はない。

 それを思うと、咲野に暴かれる春木を前にして、どうも意地が悪くなる。


「あぁ、嫌だ、妬けるね」

「ッん! んん……ッ」


 これもレッスンの下準備だと渋々されるがままだった春木に、不意に強い刺激が内側から襲いかかった。


「んぶ、ッぐ、ふぉあひふぇ、ッ」


 理久の手が春木の腰を持ち上げんばかりに深く前立腺を押し潰し、親指が会陰をヌニュヌチュッと激しく擦る。

 それと同時に喉奥の口蓋垂と舌の表面を何度ももみくちゃにされ、グンッ、と春木の背が弓なりにしなる。

 しかし突然の刺激に呻く春木なんて、王専属の騎士は気にもとめない。

 凍ったままの表情を鼻先が触れ合いそうな至近距離で見せつけ、冷ややかな視線で春木を貫きながら、両手は手酷く強い快感を押しつけ続けるのだ。


「あぁ咲、私の王様……やはりあなたの命令でなければそそらない……カケラに嫉妬するガラクタに成り下がりそうだ」

「ゔッ、ッ、おッ」

「時間をかけて馴染ませてやっているようだね。たまたま一人残っていた初物だからと大事にしてやっているのかい? ナンセンスだよ。いや、咲の全てはハイセンス。だが酷くつまらない。この程度のカラダなら私のほうがずっと咲の楽しいお遊戯をこなせると思うが」

「くふッ、ゔ、ッぐ」

「気がそれてるぞ、野山。情けない呻き声ばかりで、少しはいやらしく喘いでみろ。自分の尻に挿れられている指と角度も合わせられないなんてお粗末すぎる……それに、この足は飾りかね?」

「ン゛ゥッ」


 追い立てるようにバチンッ! と無防備な内ももを平手で打たれ、破裂音とともに春木の脳に電流が走った。

 これは痛みだ。
 まるで当初の目的と関係ない行為。


「乙女のように縮こまっていないで、自分の腰をあげることにでも役立てたらいかがかな。ちょうどその恥を知らないモノが自己主張だけは一人前で、視覚効果も高い。冷凍マグロは卒業したまえ」

「さぁ、使えるものを出し惜しむほど余裕とは思えないヴァージンビッチの子猫ちゃん。咲の五感の全てを煽れ。彼は感覚が鈍いんだから、特に」

「やれ。早く」


 ──春木の体を介して咲野の存在を擬似的に感じ、出来がいいが故にあまり躾られなかった理久は、拗ねている。

 無感情に短く命じる理久の裏を察して、春木はウゲェと呆れた。

 どこがハイテクロボットなのやら。
 感情ダダ漏れじゃないか。

 咲野の命令でもないからと乗り気じゃないせいで、このレッスンの半分は八つ当たりだ。そのくらいわかる。

 いつぞやのSM談義にて。
 咲野が『理久は自分以外にはドSだ』と言っていたことを思い出した。


「聞いているのかね。私はやれと言っているのだよ、野山」

「ぉえ、ッふ…ッぅぃふ……ッ」

「まったく、呆れた子どもだな……ちょっと気道をふさいだくらいでへばるんじゃない。噛みついても仕方ないだろう。喉を塞ぐ指にだって神経が通っているのだから舌を絡めてしゃぶってみなさい。さぁ、早く」

「ッぁ、ぶ、ッ……」

「野山、逃げるな。睨みつけても許さないよ。どんな愛撫にもまず応えられてこそ相手を満足させられるというものだ。その上で感じ、乱れ、煽り、求める。〝ワタシはアナタ好みのお遊戯になんだって付き合える有能な相手だよ〟とアプローチし、余裕を残して相手の好みと性癖、性感帯をつぶさに観察して飽きられないよう常にアップデートする。使えるものはなんでも使って咲を感じさせるのは、当然なのさ」

「ッあ、ッ、ぁッ、ゔぇ、ぉ……ッ」


 無意識に手を伸ばす。届かない。
 息苦しさとともに目の奥がスパークし、ゴボリとむせる。

 生理的に充血した瞳に理久が映って睨みつけるがどこ吹く風だ。思考の読めない無表情で春木を観察している。

 ローションと腸液が混ざりあってブチュ、と濡れた音を立てる秘部をこそがれ、腹の上で腫れた茎が跳ねた。


「ほら、いい加減、メス猫のように喘いでいる場合じゃないだろう? 指に刺激されて垂れ流しの唾液くらいは飲み込まなければ、溺れるぞ?」


 ──クソが……ッ咲の次にテメェが力強いんだ、仰向けで押しのけられるかよッ。喉突かれて首もげるわ……ッ!


「はッ……ッん、ぅ」


 頭の中ではがなっても、自分から頼んだ授業でもあるため、春木はゴクリと溜まった唾液を飲み込んだ。




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