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第十話 人の心、クズ知らず。
21(side今日助)
しおりを挟む気が向いて、ノートの端に他の四人を描いた。なかなか似ている。特徴がありすぎるものだから描きやすい。
口元にホクロをつける。
表情は歯を見せて、狂暴な笑顔。
春木さん。
名前で呼んでいいって言われたんだ。俺以外みんな苗字で呼んでるからなんとなくさんは外せないけどさ。
その隣に髪を上げたメガネの男。
口元は真一文字。
笑ったところを見たことがない。
社長。
どう呼んでも気にしないらしくてみんな好きに呼んでるぜ。俺はこれが呼びやすい。考えてること一番わかんないのはこの人だよな。
更に隣へハデな男を。
あちこち跳ねた髪とメッシュ。
ピアスだらけだ。したり顔。
蛇月くん。
あのSPACEのヴォーカルだって初めて知った時は驚いた……! 俺でも知ってる歌がいくつもあるんだよ。見た目よりあんま怖くねーんだぞ。
そしてその隣に、泣き顔を。
眉を下げて目尻に涙を浮かばせたサラリーマン。社長の次に年上だけど本当にすぐに泣く。咲の行動由来だけな。
翔瑚。
泣いてる話ばっか聞いてるから年下だと思ったのに、会ってみたら年上で、しかもしっかりした男の人だったな~。
呼び捨てでいいって笑った時はカッコイイなって印象だったのに、咲に「ちゃんじゃねーの?」って言われてへにょーんってなってた。
ありし日の翔瑚に同情する。
みんな個性的だ。
「んー……春木さんが金曜日だと社長が絶対零度でこき下ろして、たぶん蛇月くんも喧嘩売るんだよなー……で、社長が金曜日だと春木さんがとんでもない長文で罵倒して、翔瑚が羨ましそうにする。翔瑚はなんでか、社長が羨ましいっぽいんだよ。でも蛇月くんが金曜日だと春木さんが締め落とすだろうし、翔瑚が金曜日だとやっぱり春木さんが泣かすだろうから……な、なるほど……春木さんと仲良くできるのが俺しかいないのか……!」
ホワホワと浮かぶ、手持無沙汰な最年少による同じ穴のムジナ考察。
今更ながら冷静に考えてみると、俺が金曜日を担当する結果は、本当に平和的な解決方法だったらしい。
決めた時は巻き起こる喧嘩と涙目の翔瑚をフォローすることに尽力していて、いつの間にやら決まっていたのだ。
事後報告されただけだけど、こうも理論的に決められていたとは。
本人の言うとおり、春木さんは心の狭さがピカイチ。
咲一人分のカタチしか容量がない。
ギリギリ馴染めそうだった翔瑚ですらなんでか〝チャーハンの恨み〟とやらを買っていて、謎に僻まれている。
うん、やっぱ翔瑚はなにかとタイミング悪いんだろうな。
自分も人のことは言えないけど。
──そうしてノートに面白おかしいメンツのラクガキをしていた時。
「チャーハン……なにがダメなんだろう? 今度春木さんに聞いてみるか……」
「──『キョースケの作ったものならなんでもスキ』?」
「っ!?」
油断しきっていた背中に、ムギュ、と予期せぬ抱擁が与えられた。
な、えっ、おっ……!?
驚きのあまり肩を竦めて縮こまる。しかもそのセリフは恥ずかしながら妄想上の産物で、本人に読み上げられる予定なんてこれっぽっちもなかったものだ。
「オベンキョーの邪魔を我慢してイイコでお仕事を終わらせた俺に、こんなこと言わせてーの? キョースケ」
硬直した体を包み込むように抱きしめる腕の持ち主──咲は、俺の耳元で興味深そうに息を吐いた。
ボッ、とその耳元まで熱が集まり、急に夏の暑気に当てられる。
だってそんな責め方だと、俺がいると仕事中でも構いたくなるって言われてる気分になるじゃないか。
毎度毎度、わざと無視してるのかと思っていたのに。……表情に出なさすぎる。そして本気に見えなさすぎる。
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