人の心、クズ知らず。

木樫

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第十話 人の心、クズ知らず。

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 ──土曜日。

 カーテンの隙間から漏れる朝日で目覚め、そっとまぶたを持ち上げる。

 くあ、と欠伸をして髪を無造作になでつけると、自分が生まれたままの姿であることを思い出した。

 記憶をなぞると、夕飯を終えたあと、キョースケとショーゴを同時にじっくり相手してから惰性でシャワーを浴びて、ベッドで力尽きた気がする。


「ん~……ん。充実感、よき」


 寝ぼけた頭で脳内レコードを再生しながら、俺の口角は自然と緩み、薄い笑みが浮かんだ。

 ──昨夜のアレコレ。

 いわゆる3Pをした。
 二人とも温厚なタイプなので揉めることもなく、服を脱ぎ、俺の体を半分ずつ担当して各々平和的に舐める。

 俺はなんにも強いてねーよ。あいつらが勝手に脱ぎ出したんだ。
 たぶん、俺をハブって相談したんだろう。悪い子だね。

 だって俺、分割しねーもん。
 一人増えたら二倍頑張んの。

 でもこいつらは俺の思考パターンがいつまで経ってもわからないので、二人揃って「喧嘩しないでちゃんと分け合うから大丈夫だぞ」と笑う。

 ほらな。そんな言い方するから、俺は分身したい気分になんだよ。
 そんでめちゃくちゃに崩したい。

 聞き分けよく俺の負担を減らす。

 そんな小鳥と子犬に、俺は呆れてベロベロとキスをした。

 そうしてピースフルなセックス。
 いつもは逃げ腰のショーゴは、キョースケのモノを舐めるよう言いつけても特に抵抗せず頑張っていたように思う。

 ショーゴは3P好きだもんにゃ。

 昔からなんかタツキと混ぜたらいっつも泣いて喜んでたし。
 元来ノンケのはずなんだけど。

 ベットじゃ乙女チックヒロインなのでタツキにも弄られ、毎度ワーギャーと悲鳴をあげながらべそをかいていた。

 だもんで、度重ねてヤリまくられた挙句の果てに慣れたのだろう。

 素人ビッチ。
 ショーゴは意外と大胆で気が強い。

 対して同じく元来爛れていないくせに前職柄アブノーマルプレイに慣れきっているキョースケは、ストレートに奉仕されるだけの状況のほうが落ち着かないらしい。

 ショーゴにしゃぶられてオロオロと慌てふためくから、俺のモノを咥えさせて愛護した。ほれ、落ち着くでしょ。

 キョースケの喉を犯しつつ、ショーゴに尻を上げて寄せるよう言いつけ、後ろをグチャグチャと解す。

 どっちも疎かにはしない。
 ちゃんと二人ともに声をかけて、二人ともを観察して感じさせる。

 それぞれの好みの言葉を選んでかけると、魅力的な二つの肢体がくねり、玉のような汗を浮かばせて官能に溺れた。

 しばらく経って、ケツを弄られながらも下手くそなりに根気よく続けるショーゴに、ご褒美がてらキョースケが育てたモノを奥まで挿れてやる。

 一突き一突きは大きなグラインドで、されど丁寧に粘膜を掻く。

 傷つかない程度だが雑に解した小さなアナルを裂くように激しく、乱暴にゴツッ、ゴツッ、と襞を擦り犯す。

 当然アソビも忘れない。

 前もってベッドの上に用意しておいたオモチャ類からスパンキングラケットを取り、数を数えて手軽に振るうアソビ。


『いい? 一から十まで数えながら、お前のケツを少しずつ強く引っぱたく。お前が嫌がった瞬間、俺はなにがあってもちゃんと止める。ただ……』

『十まで耐えられたら、よしよしって褒めたげるよ』


 パシン、とラケットで自分の手を叩き笑うと、ショーゴは赤いのか青いのかよくわからない顔色で頷いた。

 ほら、ショーゴによく効く魔法だ。
 まぁ俺は手加減ヘタだからぬるかったらごめんネ。許して。
 でもちゃーんとやるぜ?

 お前の大好きな痛いこと、強いられること、無理矢理プレイ。

 強引な苦痛に興奮する。
 俺の恋人にはマゾが多いけど、嗜虐系マゾはショーゴが一番そうだと思う。

 うちわで仰ぐテンションでバチンッ! と打ちのめしつつ相反する言葉で可愛がると、ショーゴは全身震わせながら腫れ上がった肉棒から粘液を滴らせていた。やっぱ性癖終わってんな。かわよい。

 もちろんキョースケとも遊ぶ。
 俺は一瞬も、誰一人忘れねーよ。

 キョースケは恥辱系マゾ。
 本人無自覚だけど恥ずかしいこと、苦しいことが大好きなので、ショーゴにしゃぶられながら自分で乳首イジメてイキ声晒してみ? と言ってみた。


『ちな、声我慢したらドア開けたまま玄関で抱くかんね』
『まぁキョースケが通りすがるかもしんねーご近所さんや廊下の監視カメラに公開生セックス見せつけてイケる恥知らずなら別にそれでもいいけどさ。俺も一緒に社会的死刑食らってあげるし』
『でも公然わいせつ趣味って、それはそれで恥ずかしいんじゃね? 一般的に。 知らんけど』
『いや自分で乳首弄ってアンアン言ってんのも恥ずかしいか。うーん……』

『キョースケって、生きてるだけで恥ずかしいんだなぁ』


 途端、引きつった笑顔を茹で上がらせながら、冷や汗飛ばしてしどろもどろと言い訳をするキョースケ。

 嫌そう? いやいや。
 結局従ってしっかり興奮してたんだから、やっぱ俺の見立ては正解っぽい。

 ちゃーんとお前らの好みに合わせてできんのよ、俺は。いい子でしょ?

 そんなわけで散々搾り取って交わるだけの平和で淫らな夜を過ごした。
 まあ、これは珍しいパターン。

 未だ眠気の冷めやらない頭をそのままに、ゆるゆると笑みを浮かべる。

 アヤヒサとハルを同時に相手にした時とは大違いである。
 あの二人は競って乱れるので、拘束とオモチャが必需品だ。

 唯一今週ソロで会ったタツキもそういうタイプなものだから、なんやかんやで平和とは程遠い行為をする羽目になるのがいつものパターンなんだよ。

 なんでそうなるのやら。
 がっつくようなご馳走でもなし、逃げも隠れもしない残飯なのに。

 俺には皆目見当もつかない。

 つかないが──……それでもアイツらは誰一人、こんな歪な恋人関係を結びながらも、どういうわけかただの一粒すら悲哀に泣いたりしないわけで。

 なら、これが正解のカタチ。

 俺と、俺の心の在り方。

 生まれた理由が誰かの愛で、終わる理由がその喪失で。

 されどハンパに意志を持ってしまった人形落第生の俺が、誰かに愛されるでなく、ちゃんと自分で愛したがった、だいじなだいじな〝生きたい理由〟。

 うふ、あはは。
 これってすっごい生き様じゃね?


 俺、めちゃくちゃ人間っぽい。


 常識的な人の美しい瞳が馬鹿げていると写し取っても、俺にとっては、これが唯一無二で不動の幸福なんだ。





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