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五皿目 元・勇者VS現・勇者

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「ぅ……っぅむむ……」

 アゼルのそんな姿を見ると、意地を張って拗ねた俺だがじわじわと胸が痛んでしまった。

 そうさせたいわけじゃないぞ? だけど拗ねずにはいられないんだ。

 大人気ない自分を恥じて、ゴシゴシと目元を擦る。

 しかし俺は嫌いと言われるのだけは、冗談でも許せない。酷い言葉だ。

 だって冗談でも物凄く泣きそうになるくらい、しょんぼりとしてしまう。

 アゼルは持病のツンのあまりうっかり拗ねて口にしてしまうことがあるが、そうなると俺が逆に全力で不貞腐れる。

 そのたびに土下座して謝ってくれるので、大抵のちょっとした小競り合いは、アゼルの敗訴で幕を閉じるのだ。

 後で仲直りすることがわかっているから全力でそっぽを向く俺は、悪い男かも知れない。

 そう思った俺はこれ以上悲しませたくないので、そーっと土下座するアゼルに視線をやる。

「ん……もう許す。拗ねてごめんな」
「はっ! はぅあぁ……っ」

 大人気ないことをした謝罪をして、手打ちとした。

 許しを得たアゼルは生きるか死ぬかといった表情を一転。

 ぱあっと目を輝かせて、言葉を失うと、黙って隣に座って抱きついてきた。
 抱きつくというか、しがみついている。

 まったく。ツンでもな、うっかり言っていいこととだめなことがあるんだぞ。

 嫌いとか言うな。悲しいだろう、馬鹿。
 だって俺はお前が大好きなんだ。嫌われたら悲しい。

 そんな気持ちで抱き返し、一件落着。
 やっぱり俺達夫夫は寄り添っているほうがいいな。

「いや、なんだそのそこはかとなく優しい呪い。滅びろぐらいガッツリ大声で言えよ。実家て、テメェ異世界出身だろうがオイ」
「んん? リューオ。いつからいたんだ?」
「テメェが拗ねるちょっと前」

 ──そうして丸く収まりホクホクな俺達の耳に、ふと後ろから呆れた声が届いた。

 振り向くと声の主──リューオが胡乱げなジト目で俺達を射抜きながら、呆れ果てている。

 リューオはそのまま向かいのソファーへと、相変わらずのヤンキー然とした態度でドサッ、とふてぶてしく座った。

 いつもどおり金髪ツンツンで目つきが悪くガッシリとしているリューオは、ご機嫌ななめらしい。

 普段のリューオもガラが悪いがそれは性分で、本当は仲間思いの勇者さんだ。

 自分の意思表示をはっきりすることにかけては魔族並かそれ以上の、人間詐欺男である。

 気配がなかったな。
 全然気付かなかった。

 ん、そういえばアゼルとの用事が終わったら、俺のトレーニングに付き合ってくれる約束をしていたぞ。

「ああ、そうそう。実家は魔界に来たばかりの時の前の部屋だから、別居というわけだな」
「結局テメェも魔界在住じゃねェかッ! しかもおんなじ城の中で別居って言わねェわアホ!」

 リューオは勝手にローテーブルの上のティーセットから紅茶を入れて、バカを見る目で俺を見ながら喉を潤す。

 フシャーッ! と威嚇するトラ猫のようだ。
 魔王より勇者のほうがジャイヤンらしいな。俺様何様リューオ様だからか。



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