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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
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しおりを挟む「ふぅ……」
しっかり鍵も閉めたし、ちょっと落ち着こう。さぁ、深呼吸をするんだ。
今のは俺の耳と目が、同時におかしくなった可能性がある。
そうじゃないなら原因はもしかすると……あれかも知れない。うん。間違いない。
俺は混乱を極めたまま、元に戻ったのか何事もなかったかのようにポカンとするキャットに向き直る。
そして肩をそっと優しく掴みながら、されど食い気味に、彼の眼前へ身をのり出した。
「──今朝あげた俺のビスケットが、腐ってしまっていたんだな? 大丈夫か? ごめんな、早く魔王城へ戻って薬をもらいに行こう」
「へっ!? だ、大丈夫ですよっ!? 俺はこのとおり健康体で傷ひとつありません。元気なキャットです!」
「本当のことを言ってくれ、遠慮することないんだ。飛ぶのも辛いなら……おいで、大丈夫。俺の膝を貸すから、楽になるまで横になっているといい」
「それをしたほうが俺の体が健康体ではなくなってしまいますが!?」
俺を気遣って強がるキャットをふわりと抱きしめ、さあこいと膝をぽんと叩く。
けれどキャットは頑なになにも悪いところはないと言い、全身赤くなりながら、首と手をちぎれそうなくらい左右に振った。
健康体だって? そんな馬鹿なことがあるわけないじゃないか。
でなければこんなにひよこのようにピヨピヨと豊かな表情をするお前が、大好きな二人に〝ドグサレ共〟だなんて、言うわけがない。
SMクラブの帝王かと思ったぞ。
ゼオと並べれば、相当な売れっ子コンビになりそうだ。
そんな帝王とこの好青年なキャットがイコールなはずがないのだから、俺は真っ赤になって慌てるキャットを抱きしめたまま、本心を聞き出すことにした。
──言うわけがあった。
うん。そんなこと言うわけがあってしまったぞ。なんてこったい。
ちょっとしたすったもんだの末、お互いの認識を擦り合わせた俺たち。
俺がなぜこんなことを言っているのか理解したキャットが、両手の人差し指をあわせてもじもじとしながら、真相を語ってくれた。
実は、キャットは威圧感のある人が相手だと、とても緊張してしまうそうだ。
それでついあんな堅苦しい話口調と、余裕ぶった表情になってしまうらしい。
あんなことを言うつもりはないのだとか。本能に近い、無意識の反応だ。
防御に特化したグリフォール魔族は、タイプはまちまちだが自己防衛モードになりやすい。キャットの反応もそのひとつ。
さっきのセリフの意訳は「あなたたちに突然話しかけられたら照れてしまうんです! でも俺でよければ、ちゃんと魔王城までシャル様をお運びいたしますよ!」ということだった。
(これは……ミラクルすぎるな)
しみじみと頷く。
俺やライゼンさんのような穏やかそうな人にはああはならずに、素直なままのキャットでいられる。
緊張してしまうほど威圧感がある怖い人たちというのは、具体的にアゼル、ガドには当然。そして──ゼオだ。
特にゼオが相手だと、威圧感に緊張と高レベルで押し寄せてきて、殊更言葉がこんがらがるという。
「キャット……勘違いだったら申し訳ないが……」
「はい!」
全ての説明を受けた俺は、説明をしながら照れているキャットにふむと納得し、顎に手を当てる。
「お前はゼオが恋愛的に好きなのか?」
「う、うおぉぉぉおおぉおッ!? ど、どうしてだッ!? どうしてバレたッ!?」
「バレバレだった」
「バレバレだったのか──ッ!?」
指先で丸を作ると、キャットは恋心の露呈に頭を抱えて悶絶し始めた。
いやはや、バレバレ過ぎだぞ。
隠していないのかと思ったくらいだ。
あれだけかっこいいと豪語して、乙女のように紅潮しながら思い出を語っていたら、誰にだってバレると思う。
逆になぜバレないと思った。
魔界バレバレ思考回路ランキングを作ったら、ナンバーワンじゃないだろうか。
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