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0066★朱螺の説明

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 自分の胸に顔を埋めてしまった蒼珠に、朱螺は機嫌よく言葉を続ける。

 『もちろん《魔痕》も残らないようにしてやろう』

 自分の思考におちいっていた蒼珠の耳に、朱螺から聞き馴れない言葉を聞いて?が浮かぶ。

 「‥‥《魔痕》? ‥‥‥‥‥て‥なに?」

 胸に埋めていた顔をあげ、蒼醒めた表情のまま、蒼珠は朱螺に疑問に思ったことを問う。
 が、その内心では、朱螺との《契約》の代価を自分を納得させるのに必死だった。

 《魔痕》か‥‥性交渉した魔族の痕跡が、躯に残るってことかな?
 ‥‥そういモノが、この躯に染み付いてもかまわない‥‥‥
 どうせ、勝手に、あの男に刺青なんてモン入れられた躯だ

 それに、まだ本当の肛門性交ってモンはしたことないけど‥‥‥
 さんざん、あの男に卑猥な悪戯された‥‥汚辱された躯だ‥‥‥

 今は、この異世界にいるけど‥‥‥‥
 あっちにもどれば‥きっと‥‥もっと酷い辱めをうける

 自殺も許されずに、あの男の気分しだいで、陵辱され続けるんだ
 いつ、前回や前々回のように、突然戻されるかわからないんだし
 どうせなら‥‥‥
 
 暗い思考に堕ちて行くよな感覚に捕らわれ、蒼珠は再びブルッと無意識に躯を震わせる。
 そして、無意識に、救いを求めるように自分を見下ろす朱螺の顔を仰ぎ見る。

 はぁ~‥‥‥マジで‥朱螺ってカッコイイよなぁ~‥‥‥‥
 みるからに、人外の者‥魔族だって理解(わか)る姿だもんなぁ‥‥‥
 それが、かえってイイ‥‥‥あの男とは似ても似つかない美丈夫だから‥

 天魔族かぁ‥‥‥実際には、こっちの異世界の知識ないから‥‥‥‥
 朱螺が、本来どんな特性を持った種族かはわからないけど‥‥‥
 あの男より、絶対にイイのはたしかだ

 じゃなくて‥‥‥逃避すんな、俺
 この躯を代価に、知識その他を朱螺から得るという《契約》かぁ‥‥‥‥

 本当の意味では未経験だから、性交渉は怖いけど‥‥‥
 誰かに、金目的で売られて嫌々仕様が無く納得したわけじゃない
 この《契約》は、自分で決めたことだ

 きっと、朱螺との性交渉には耐えられる
 少なくとも、あの明宏って男よりは、朱螺を信用出来る‥‥‥‥
 それに、朱螺は抵抗しても良いって言ってくれたし‥‥‥

 自分を見上げる蒼珠の戦慄く唇からこぼれた言葉に、朱螺は苦笑する。

 『そうだったな お前は この世界の者ではなかったな
 私と対等に話しているから つい それを忘れてしまう

 簡単に言うと《魔痕》とは そのまま言葉の通りのことをしめす
 性交渉したことで 躯に注がれる《魔力》によって
 その躯に 魔族の痕跡が染み付いて アザのようになることを言うのだ

 多くは顔や手足に出ると言う‥‥‥が‥‥‥‥

 せっかく綺麗な〈入れ墨〉を躯に刻印しているのだ
 それが同族の男への生涯の敬愛の証しの刻印でも
 綺麗なモノは綺麗だからな

 無粋な《魔痕》が残らないように注意しなければな
 お前は とても可愛くて 綺麗だ 
 この〈入れ墨〉も美しい』

 言っている意味が半分くらいは理解できた蒼珠も、別の意味を含めて、意味深く言われると、頬が薄く染まる。

 やっぱり‥‥‥《魔痕》て、そういうモノなんだ‥‥‥
 いや、そうじゃなくてぇ‥‥‥‥
 男子高校生の中でも、わりと身長のある俺が、可愛い?

 ‥‥‥って、どんな感覚なんだろう?
 あの男も、俺の躯をもてあそびながら、よくそんな戯言を言ってたけど‥‥

 それとも、朱螺の感覚が人族と違うのかな?
 うわぁ~‥‥‥メチャクチャ嫌だけどぉ‥‥‥
 あの男も、朱螺=魔族の感覚に近いってことか?

 げろぉ~‥‥‥すっげぇ~嫌だ‥‥‥
 あの男が朱螺と同じなんて‥‥‥
 じゃなくて、比べるのが間違ってるんだよな‥‥‥‥

 あっちは、ただの人族で、朱螺は天魔族なんだから‥‥‥
 俺って馬鹿かも‥‥‥

 いや、そうじゃなくて、この墨一色で背中一面と胸に入れられた
 〈入れ墨〉が、こっちの常識で、生涯の敬愛の証しを示すってことで
 朱螺がかなりこだわってるようだけど‥‥‥‥

 本当は、全然違うんだよなぁ‥‥‥‥
 これで行くと、他の一般常識も、マジで、かなり違うってことだよなぁ

 羞恥で頬を薄く染めた蒼珠に、朱螺は双眸を再び細めて含み笑いながら囁く。

 『本当に お前は可愛いな
 今宵から ゆっくりと可愛がってやろう

 私という存在に馴染むようにな‥‥‥‥
 なに 時間はたっぷりある

 手間暇かけて 愛してやろう
 私の手が躯に触れただけで 囁かれただけで
 私を受け入れられるようになるように‥‥‥』

 囁かれた内容に、羞恥心を覚えながら、蒼珠は朱螺と明宏の共通点に愕然とする。

 ‥うわぁ~い‥‥マジで、あの男の感覚って‥‥‥
 朱螺に近いってことかぁ‥‥‥げろぉ~‥‥‥

 あいつだって、曲がりなりにも人間、もとい、人族のはずなのに‥‥‥
 魔族と同じ感覚持っているなんて‥‥‥

 あぁ‥‥でも、ああいう奴を、悪魔っていうのかも知れないな‥‥‥

 羞恥と困惑と嫌悪が微妙に入り混じった、何とも言えない複雑な表情をしている蒼珠に、朱螺は助け舟を出すかのように、今までの会話と掛け離れたことを言う。

 『それはそうと 喉は渇いてないか? 蒼珠 腹はどうだ?
 〈妖精の悪戯〉‥‥ お前の国では〈神隠し〉と 言ったか
 身ひとつで 別の場所に 強制的に転移されたようだからな

 どこをどうみても お前は‥‥‥‥ 
 砂漠を渡ることを生業として生きている種族ではなそうだからな

 砂漠に慣れていない者は アッという間に渇いて死ぬ
 砂漠とは そういうところだからな
 慣れてないなら 小まめに水分を摂取することだ

 まして ここは 魔族でもためらう魔の黄封砂漠だからな』

 朱螺の気遣いある言葉に、水分にも食物にも飢えていた蒼珠は、コクッと頷いた




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