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アレンの告白

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 ★アレン視点★


 俺が初めてアリシアに会ったのは彼女がまだ11歳になったばかりで、体の傷がまだ完全には癒えず、ベッドの上でうつぶせに寝転がっていた。

「アリシア嬢、具合はどうかな? お誕生日おめでとう。これは王家からのお祝いだ」

 俺は花束とたくさんのプレゼントを部屋に運ばせた。
 アリシアはキョトンとした顔を俺に向けた。

「なぜセルリアン様が来てくれないのかしら。あなた誰なの?」
「俺は王弟のアレン、初めましてアリシア嬢」
「ああ、放蕩王子ね。わざわざありがとうございます。陛下にもお礼をお伝えしておいて」

 俺はこんな高飛車なご令嬢は初めて見た。
 8歳も年下のくせに大人びた態度。
 俺は王弟なんだぞ!とデコピンしてやりたかった。

 セルリアンが拒絶しているので、俺にこの生意気姫を押し付けようと陛下は考えている。
 美少女だ、将来は大した美女に成長するだろう。

「セルリアン様はどうしてるの?」
「ナターシャが登城禁止になって嘆いている」
 アリシアが悲しそうな顔をした。彼をまだ好きなんだな。

「ねぇ、アレン様は何回王妃様に狙われたの?私はこれが初めてよ」
 賢いな、分かっているんだ。セルリアンは狙われてなどいなかった。

 ────アリシアが王妃に狙われていたんだ。

 その上あわよくば、俺に罪を着せようとした。
 セルリアンの王太子の座を危ぶんで俺を排除しようとしていた。

 捨て身の刺客は実に上手くやった。
 セルリアンとアリシアが接触した時点で襲って、彼女が王子を庇った風に仕上げた。
 理由はアリシアを傷物にして王家が責任をとって、ナターシャに惚れ抜いているセルリアンに無理やり嫁がせるため。

 だが甥は拒否した。

「絶対私の方が国母に相応しいのにね」
「ナターシャでは荷が重すぎるな。もっと強かでなければ潰れるだろうな」

 俺はアリシアに興味を持った。

「ところで何故自分が狙われたと気づいた?」
「だってセルリアン様を庇って倒れた私を、更に切り付けたんですもの」

「なるほど、最初から気づいてたのか。公爵は?」
「父も当然気づいたわ。謀反を起こすと言って怒ったのを、お兄様たちと必死で止めたのよ」

 よくも王家は潰されなかったものだ。

「陛下は何を考えていらっしゃるの?」
「君を俺の妃にしたいようだ。セルリアンは諦めるんだな」
「初恋だったのよ。悔しいわ、全然好きになって貰えなかった」

「アリシアはどうしたいのかな?」
「後悔させたいわ。私を妃にしておけば良かったって。セルリアン様の心に一生私を刻み付けたい」

 子どもと思っても女だな。嫉妬でとんでもないことを言ってる。
 しかしそれだけではなかった。

「私が切られたのに、真っ先にナターシャを心配したのよ。横でコケただけなのに」
「それは甥が失礼をした」

「傷がまだ痛む私に『好きじゃない』なんて告白しなくても良いと思わない?後で手紙でも書けばいいのよ」
「デリカシーに欠けるね。申し訳ない」

 会話しているうちに、アリシアも俺に興味を持ってくれたようだ。

「私、アレン様と婚姻を結んでも良いわ。でも協力して欲しいの」
「なんでも協力しよう。お望みは?」
「私、不幸でボロッボロな令嬢になりたいの。可哀そうな傷物令嬢になるのが望みよ」

 セルリアンに復讐しようとしているのか。
 アリシアは瞳を輝かせて悪い顔をしている。

「アレン様も今まで通り放蕩王子を演じてね。王妃様に殺されないでね」
「ではアリシア嬢が成長するまで俺は自由にさせて頂こう」
「いいわ。でも他所で子どもを作れば、その時点で決裂よ」

 ────俺たちは契約を結んだ。


 兄である陛下には「アリシアには気に入って貰えなかった」と言っておいた。
 陛下はさほど気にしておらず「公爵には一応誠意だけは見せないとな」そう言って笑った。

 アリシアは4年間で5回自害しようとした。
 本気なのか演技なのか、俺は心配したが、婚約候補を解消するための演技だった。
 バルコニーからジッと下を覗き込んだり、ナイフを見つめるだけで侍女達は大騒ぎした。
 浅い池に飛び込んだこともある。

 最後に腕に傷をつけようとしたら加減を間違えて深く切ってしまったそうだ。
 傷はほとんど残ってないけど手袋で隠し続けた。

 アリシアは執念深く7年もかけて不幸な令嬢を演じ多くの同情を集めた。
 7年間、遊んでいた訳じゃない。その仮面の下で将来に向けて己のスキルを磨いていた。

 俺が将来外務大臣になると聞いて外国語の習得に力を入れていたなどと、他人は誰も気づかなかった。

 執着された甥は気の毒なほど冷酷と囁かれ、ナターシャは肩身の狭い立場に立った。甥たちは、決して敵にしてはいけない令嬢を敵にしてしまったのだ。

 俺との婚約を果たして尚、不幸な令嬢を演じ、俺も協力してきたがそろそろ良いだろうと思ったが。

「は? 死ぬだって?」
「ええ、やはり死亡した方が殿下達の心に残ると思うの」
「もう十分だと思うけどな。死んでどうするんだ?」
「他国で暮らすわ」
 おいおい、俺の婚約者の自覚はないのか?

「別人になって生まれ変わるの、お父様も賛成してくれたわ。もう殿下達はいいわ。でも王妃は絶対に許さない!そろそろ退場して頂かないとね。あの顔を思い出すと肩の傷が疼くのよ」

 王家はヒューゼン公爵家に見限られたな。

 俺とヒューゼン公爵で揃えた王妃の悪事を兄である王に突きつけると、早々に王妃は軟禁された。
『必ずや後悔するでしょう!この国はもう終わりよ!』
 そう呪いの言葉を残して王妃は表舞台から去った。

 陛下はアリシア襲撃の件は知っていたようだ。
 他にも黙認していた節がある。

 だが、追及はしない。
 ヒューゼン公爵をこれ以上怒らせたくないからな。

 アリシアは自害したと伝えられ家族だけの葬式が行われた。
 もちろん俺は参加せず、最後まで屑な男で通した。


 ────アレンはもうこの国に未練など全く無いのであった。
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