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ヴガッティ城の殺人
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しおりを挟む「おーほほほ! さあ近衛兵、マイラを懺悔室にぶちこんでおしまい!」
狂ったように笑いまくるレベッカ婦人。
はっ! と答えるハリー、ポール、そしてガチムチ筋肉のヴィルが、みんなして私の腕を強くつかみやがります。
「私は犯人ではありません!」
くそぉ、さすがにお父様直伝のカラテで鍛えた私でも、屈強な男たちに抑えられては、ちょっと抵抗できませんね。
それでもまぁ、いざとなったら奥の手で、噛みつくという必殺技もありますが、それは野蛮すぎるのでやめておきます。だってそんな姿、レオに見られたくないもの。
そのレオは、まだ現実を受け入れられない様子で虚空を見つめています。ちょっと! 私を守るって約束、もう忘れちゃったわけ! うーん、こちらに気づいてすらいない。総督が父親だったことが、かなりショックだったのでしょう。
「……兄貴」
ケビンは、死んでいるロベルトをじっと見つめたまま、口を手で抑えている。死体を見たのは、初めてでしょうか。
メイドのリリーとエヴァは私から、動かないで! と言われたので、じっと立ち止まっていますが、殺人事件が起きて怖いのでしょう。肩を寄せ合って、涙ぐんでいます。
『Poisoning?』
エヴァのプラカードには、“毒殺?”という疑問の言葉が書いてあります。
ガクブルに震えていたリリーは、
「あんたこんなときに何書いてんのっ!」
とエヴァを叱る。この子たち、あまり緊張感がないですね。
するとそのとき。
「待ちなさい!」
クライフが叫んで抗議。弱いくせに髭帽子、カッコイイじゃない。
「マイラさんが殺したという証拠はあるのですか? レベッカ婦人」
そう尋ねられたレベッカは、扇子を広げるとまた、おーほほほと笑いながらクライフに、一歩、一歩進んで迫ります。
「ロベルトは言いました。マイラと結婚すると」
「……?」
「だからロベルトが死ねば遺産はあなたにいく! そうでしょうマイラ!」
「あの、レベッカ婦人。それはロベルトを殺す動機では?」
「そうよ! ロベルトが死ねばマイラは大金持ちになるメリットがあるの。だから殺した」
「……それを言ったら、後継者と成り上がるケビン。遺産の金額が増えるレベッカ婦人にだって殺す動機になりますぞ?」
「むっ」
「わたしが言いたいのは、マイラさんにロベルトを殺した証拠があるか? ということ。裁判ではその証拠が一番重要なのですぞ」
「しょ、証拠は……あ! そうそうロベルトのお酒に毒を入れたのよ、マイラは」
「どうやって?」
「そんなの、ロベルトを誘惑して服を脱がせたときに毒を入れたのよ、そうよねマイラ?」
近衛兵に捕まったままの私は、ブンっと首を横に振ります。
「レベッカ婦人、あなたの推理はまったく外れています。まず、私は毒を持っていない。関所でボディチェックをしたのはロベルトですし、そのことはクライフもレオも見ています」
「お、女なら身体のなかに隠せます! どうせロベルトは、アソコまで調べていないでしょ!」
「ま、まぁ、そうですが……」
「おーほほほ! やっぱりほら、あなたが犯人よマイラ! 婚約者のロベルトを殺したのよ!」
やれやれ……と言う私は、レベッカをにらみます。
「婦人。たしかに女の身体は不思議なもの。ですが、私とロベルトはまだ婚約をしていません。よってロベルトが死んでも遺産は私の元にはこない」
「え、そうなの?」
と尋ねるレベッカは、クライフを見ます。
「はい。婚約の契約書はまだ交わしていませんから……マイラさんはロベルトを殺す動機が、遺産相続だというのは無理がありますな」
「……ぐぬぬ、うるさいうるさい! とにかくこの女は目障りだから懺悔させなさい、近衛兵!」
はっ! と答える近衛兵は、本当にレベッカに従順に反応。バカみたいに婦人の言うことを聞きやがります。
ヴィルは、グイッと強引に、私の腕を背中へもっていきひっぱる。
こ、こいつ、私の美しい可憐な腕を骨折させるつもりね!?
「きゃぁぁあぁぁっ!」
叫ぶ私は、まったく動けなくなったので、もういいだろうとばかりに、ぱっと腕を離したハリーとポールは、急いで扉を開けるため走る。さらに悪意に満ちた力でつかんでくるヴィルは、
「オラァ! さっきはよくもやってくれたなぁ、懺悔室でたっぷりお返ししてやるよ!」
そう脅しながら、ベロンと舌を長くして私の耳を舐めてくる。
「きゃっ! 何すんの、変態っ!」
「ワハハ、すっげぇいい香りがするぜぇぇ、くんかくんか」
「……うう」
どうしよう……。
そう思っていると、なんとクライフがヴィルの肩をつかんで止めようとします。
「ぐぉぉおぉぉ! マイラさんを離せ!」
「……な、なんだこいつ? 邪魔だ、オラァッ!」
ガツンッと顔面を殴られたクライフは横転。その衝撃で帽子が取れてしまい、あらやだ、薄くなった頭が丸見えに……。
「ワハハ! こいつハゲだからずっと帽子をかぶっていたのかよ!」
ヴィルのバカ笑いが宴会場に響くと、釣られるようにレベッカも、おーほほほと笑う。
「さっさと小娘を連れていって!」
「おまかせください、お妃様ぁ」
そうヴィルがいやらしく答えた、そのとき!
ガンッ!
いきなりヴィルが「ブヘッ」と情けない言葉を吐きます。
「……!?」
私は、潤んだ瞳で見上げます。
な、なんとレオの上段蹴りが、ヴィルの顔面を打ち砕いているではないですか!
私を捕まえていた巨体が、面白いようにぶっ飛ばされていくと、レオは大きく息を吸って叫びます。
「マイラさんは、俺が守る!」
レオは、私に背中をくっつける。
……ち、近い。
レオの大きな背中が、近すぎる!
ドキドキしっぱなしの私は、レオに隠れながらまわりを観察。
殺されたロベルトは、カップを落としている。よって、ロワイヤルティーに毒が入っていた、そう推理できますね。
となると、犯人は誰でしょう?
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