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2人の誓い
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まだ寒さの残る3月中旬の土曜日。ついに結婚式の日を迎えた。
両家の親と兄姉だけ招いた内輪だけのもの。
タキシードに身を包み髪をセットしてもらって、リハーサルの為に式場へ向かった。
「ゆーずーるー」
「姉さん!」
「かわいい、超かわいいー」
「忙しいのに来てくれてありがとう」
「佑弦の結婚式だもの。絶対に来るわよ」
「お久しぶりです、お義姉さん」
「おい、佑弦のこと泣かせてないだろうな?」
ゆずへの態度とはまるで違う敵対心むき出しのお義姉さん。義理の両親には気に入ってもらっていると思うのだがこの人は違う。
「きょーしゅけ」
「あっ、桃花ちゃん」
「桃花ー、走らないで~」
ふわふわのワンピースを着た小さな女の子が俺に向かって一目散に駆け寄ってくる。その後を追っているのは桃花ちゃんのお父さんであり、ゆずの姉の夫だ。
「きょーしゅけ、だっこー」
「桃花、パパが抱っこしてあげるよ」
「やっ」
首を振り俺に向かって手を伸ばす桃花ちゃんを抱き上げると、ニコニコ笑いながら握りしめていたラムネをくれた。
「俺にくれるの?」
「どうじょ」
かわいい。メロメロになっていると冷たい視線が突き刺さる。お義姉様だ。なぜか桃花ちゃんに気に入られていて、それもお義姉さんの逆鱗に触れる一つになっている。
「どうしてこの男ばっかり」
「こら茜ちゃん。ごめんね、響介くん」
優しく微笑むこの人はなぜゆずの姉と結婚したんだろうかと密かに不思議に思っている。
ゆずの家は、男でも女でも1番に生まれた者が後を継ぐという家系で、お義姉さんはめちゃくちゃできる人らしく、副社長としてその手腕を発揮している。
「いえいえ、全然。今日はよろしくお願いします。桃花ちゃんよろしくね」
リングガールをお願いしている桃花ちゃんにはリハーサルに参加してもらうために少し早めに来てもらった。分かっているのかいないのか、「あい」と可愛らしい返事をしてくれて、心臓を撃ち抜かれる。
リハーサルを終えて、始まるまで家族と過ごせることになった。
「響介くん、佑弦」
「お父さん、お母さん」
「響介さんは相変わらず男前ね。ゆずちゃんも格好いいわ」
「そう?似合ってる?」
「うん、似合ってる。さすがゆずちゃん。写真撮らせて。ほら響介さんも」
「あっ、はい」
義両親のゆずへの溺愛ぶりは凄まじい。何枚撮るんだというくらい連写された。
「響介」
「あぁ、父さん、母さん」
遅れてやってきた両親が輪の中に加わって挨拶合戦が始まった。
「お義母さん!」
「ゆずくん、よく似合ってる」
「へへ、ありがとう」
俺の母を目の前にしてとても楽しそうに笑うゆずを見て嬉しくなる。
「よぉ、響介」
「兄さん。来てくれたんだ」
「そりゃ来るよ。佑弦くん久しぶりだね」
「お久しぶりです。お義兄さん」
「かわいいねー。ドレス着ても良かったんじゃない?」
「「アハハ……」」
実は、試着はさせたことがある。ノリで着せてみたらめちゃくちゃかわいくて、こっそり写真を撮った。誰にも見せることのない二人だけの秘密の写真。
「そろそろお時間ですので」
スタッフの声で控室から式場へと移動する。
家族だけとはいえバージンロードの上を歩くのは緊張する。誰も呼ばなくてよかった。
後方の扉を振り返って愛しい人を待つ。扉が開き、少し緊張した面持ちのゆずと義両親がバージンロードをゆっくり歩いてくる。
「これより及川響介さん、佑弦さんの人前結婚式を開式致します」
開式の宣言のあとすぐに誓いの言葉を言うことになっている。読み上げる言葉が書かれてある台紙を二人で持つ。手が少し震えたのを感じたのかゆずがこちらを見た。大丈夫というように頷くと安心したように優しく微笑んだ。二人でタイミングを合わせて声を発した。
「「私達は既に入籍し、新しい生活をスタートさせておりますが、改めて私達にとって大切な皆様の前で結婚の誓いを宣言させて頂きます。
私達が出会い、結ばれた事をとても幸せに感じます。これから先も変わることなく、幸せな時も大変な時もお互いを思いやる気持ちを忘れずに協力し合って温かい家庭を築いていく事を誓います」」
「そして……」
ゆずが不思議そうな顔をした。これは紙に書かれていない俺の誓い。
「佑弦さんのお義父様、お義母様、お義姉様。皆さんが大切に育ててこられた佑弦さんを生涯愛し、幸せにすると誓います」
驚いた顔をしたゆずの目が次第に潤み始める。
「ぼくも……響介さんのことを生涯愛し、支えていく事を皆様に誓います」
ゆずがそっと目尻を拭った。
「心温まる素敵な誓いのお言葉でした。続きまして指輪の交換に移りたいと思います」
ずっとつけていた指輪はこの日のために磨いてもらった。
指輪が入った小さな籠を手に持った桃花ちゃんがキョロキョロと辺りを見回す。お義姉さんがあっちだよと言っているのか、俺達の方を指差して桃花ちゃんの背中を押している。指を咥えてトコトコ歩いてくる桃花ちゃん。なんて可愛いんだ。ゆずとふたりでしゃがみこんで、大役を務めてくれた桃花ちゃんを迎えた。
「あい、どうじょ」
小さな籠を手渡してくれた桃花ちゃんにみんなで拍手をした。不思議そうな顔をする桃花ちゃんにお礼のお菓子を手渡すと「あーと」と言って「桃花、こっちだよ」と呼ぶお義兄さんのもとにまたトコトコ歩いていった。お礼もちゃんと言えて、なんて賢い子なんだ。たぶん全員が桃花ちゃんの可愛さにやられたと思う。
司会者の声に合わせてお互いの指に指輪をはめて、誓いの口づけを交わす。
「続きまして結婚証明書に署名をして頂きます」
まずは俺が、続けてゆず、立会人をお願いした双方の父が署名した。署名を終えた証明書を二人で披露する。
「今、おふたりは皆様の前で真実の愛をお誓いになりました。みなさま方、おふたりのご結婚をお認めいただけますでしょうか。ご賛同の方は、盛大な拍手をお願い申し上げます」
拍手に包まれてゆっくりとみんなの顔を見ていく。母も義母も二人とも涙を流してくれていた。ゆずがやりたいと言わなければきっとこの日を迎えることはなかった。「ありがとう」と呟いた声は拍手に掻き消されて聞こえないと思ったけれど、「こちらこそありがとう」と言ってゆずは微笑んでくれた。
「ありがとうございます。
ご参列の皆さまのご承認をいただき、めでたくお二人の結婚が成立いたしました。
ご結婚誠におめでとうございます。
みなさま改めて、盛大な拍手をお願い致します」
ゆずと顔を見合わせて鳴り止まない拍手を聞いた。幸せを肌で感じる。
司会者が閉会を告げ、バージンロードを二人で歩く。扉が閉まるまで二人で頭を下げて、式を無事やり遂げた。
「おめでとうございます。素敵なお式でした」
担当してくれた小田さんが微笑んでくれて脱力する。
「終わった……」
「響介さん、ありがとう。忘れられない日になったよ」
「こちらこそありがとう。めちゃくちゃ幸せだなって思った」
「そう思ってもらえて良かった」
二人で着替えを済ませて、最後にまたお世話になった人達に挨拶をして、ロビーで待つ家族の元へ向かった。
口々に良かった良かったと言われて少し気恥ずかしくなる。
「佑弦のこと幸せにしなかったらマジで許さないから」
「分かってます」
最後の最後まで辛口のお義姉さんがほんの一瞬だけ表情を緩めた。本当に一瞬だったけれど。
その後、俺とゆずが見合いをしたホテルに移動して食事をした。見合いのときとは違う和やかな時間が流れる。まさかこんな時間を過ごせるようになるとは思いもしなかった。
「じゃあ、気をつけて」
「今日はありがとうございました」
お礼を言って、食事を終えて帰る家族を見送った
両家の親と兄姉だけ招いた内輪だけのもの。
タキシードに身を包み髪をセットしてもらって、リハーサルの為に式場へ向かった。
「ゆーずーるー」
「姉さん!」
「かわいい、超かわいいー」
「忙しいのに来てくれてありがとう」
「佑弦の結婚式だもの。絶対に来るわよ」
「お久しぶりです、お義姉さん」
「おい、佑弦のこと泣かせてないだろうな?」
ゆずへの態度とはまるで違う敵対心むき出しのお義姉さん。義理の両親には気に入ってもらっていると思うのだがこの人は違う。
「きょーしゅけ」
「あっ、桃花ちゃん」
「桃花ー、走らないで~」
ふわふわのワンピースを着た小さな女の子が俺に向かって一目散に駆け寄ってくる。その後を追っているのは桃花ちゃんのお父さんであり、ゆずの姉の夫だ。
「きょーしゅけ、だっこー」
「桃花、パパが抱っこしてあげるよ」
「やっ」
首を振り俺に向かって手を伸ばす桃花ちゃんを抱き上げると、ニコニコ笑いながら握りしめていたラムネをくれた。
「俺にくれるの?」
「どうじょ」
かわいい。メロメロになっていると冷たい視線が突き刺さる。お義姉様だ。なぜか桃花ちゃんに気に入られていて、それもお義姉さんの逆鱗に触れる一つになっている。
「どうしてこの男ばっかり」
「こら茜ちゃん。ごめんね、響介くん」
優しく微笑むこの人はなぜゆずの姉と結婚したんだろうかと密かに不思議に思っている。
ゆずの家は、男でも女でも1番に生まれた者が後を継ぐという家系で、お義姉さんはめちゃくちゃできる人らしく、副社長としてその手腕を発揮している。
「いえいえ、全然。今日はよろしくお願いします。桃花ちゃんよろしくね」
リングガールをお願いしている桃花ちゃんにはリハーサルに参加してもらうために少し早めに来てもらった。分かっているのかいないのか、「あい」と可愛らしい返事をしてくれて、心臓を撃ち抜かれる。
リハーサルを終えて、始まるまで家族と過ごせることになった。
「響介くん、佑弦」
「お父さん、お母さん」
「響介さんは相変わらず男前ね。ゆずちゃんも格好いいわ」
「そう?似合ってる?」
「うん、似合ってる。さすがゆずちゃん。写真撮らせて。ほら響介さんも」
「あっ、はい」
義両親のゆずへの溺愛ぶりは凄まじい。何枚撮るんだというくらい連写された。
「響介」
「あぁ、父さん、母さん」
遅れてやってきた両親が輪の中に加わって挨拶合戦が始まった。
「お義母さん!」
「ゆずくん、よく似合ってる」
「へへ、ありがとう」
俺の母を目の前にしてとても楽しそうに笑うゆずを見て嬉しくなる。
「よぉ、響介」
「兄さん。来てくれたんだ」
「そりゃ来るよ。佑弦くん久しぶりだね」
「お久しぶりです。お義兄さん」
「かわいいねー。ドレス着ても良かったんじゃない?」
「「アハハ……」」
実は、試着はさせたことがある。ノリで着せてみたらめちゃくちゃかわいくて、こっそり写真を撮った。誰にも見せることのない二人だけの秘密の写真。
「そろそろお時間ですので」
スタッフの声で控室から式場へと移動する。
家族だけとはいえバージンロードの上を歩くのは緊張する。誰も呼ばなくてよかった。
後方の扉を振り返って愛しい人を待つ。扉が開き、少し緊張した面持ちのゆずと義両親がバージンロードをゆっくり歩いてくる。
「これより及川響介さん、佑弦さんの人前結婚式を開式致します」
開式の宣言のあとすぐに誓いの言葉を言うことになっている。読み上げる言葉が書かれてある台紙を二人で持つ。手が少し震えたのを感じたのかゆずがこちらを見た。大丈夫というように頷くと安心したように優しく微笑んだ。二人でタイミングを合わせて声を発した。
「「私達は既に入籍し、新しい生活をスタートさせておりますが、改めて私達にとって大切な皆様の前で結婚の誓いを宣言させて頂きます。
私達が出会い、結ばれた事をとても幸せに感じます。これから先も変わることなく、幸せな時も大変な時もお互いを思いやる気持ちを忘れずに協力し合って温かい家庭を築いていく事を誓います」」
「そして……」
ゆずが不思議そうな顔をした。これは紙に書かれていない俺の誓い。
「佑弦さんのお義父様、お義母様、お義姉様。皆さんが大切に育ててこられた佑弦さんを生涯愛し、幸せにすると誓います」
驚いた顔をしたゆずの目が次第に潤み始める。
「ぼくも……響介さんのことを生涯愛し、支えていく事を皆様に誓います」
ゆずがそっと目尻を拭った。
「心温まる素敵な誓いのお言葉でした。続きまして指輪の交換に移りたいと思います」
ずっとつけていた指輪はこの日のために磨いてもらった。
指輪が入った小さな籠を手に持った桃花ちゃんがキョロキョロと辺りを見回す。お義姉さんがあっちだよと言っているのか、俺達の方を指差して桃花ちゃんの背中を押している。指を咥えてトコトコ歩いてくる桃花ちゃん。なんて可愛いんだ。ゆずとふたりでしゃがみこんで、大役を務めてくれた桃花ちゃんを迎えた。
「あい、どうじょ」
小さな籠を手渡してくれた桃花ちゃんにみんなで拍手をした。不思議そうな顔をする桃花ちゃんにお礼のお菓子を手渡すと「あーと」と言って「桃花、こっちだよ」と呼ぶお義兄さんのもとにまたトコトコ歩いていった。お礼もちゃんと言えて、なんて賢い子なんだ。たぶん全員が桃花ちゃんの可愛さにやられたと思う。
司会者の声に合わせてお互いの指に指輪をはめて、誓いの口づけを交わす。
「続きまして結婚証明書に署名をして頂きます」
まずは俺が、続けてゆず、立会人をお願いした双方の父が署名した。署名を終えた証明書を二人で披露する。
「今、おふたりは皆様の前で真実の愛をお誓いになりました。みなさま方、おふたりのご結婚をお認めいただけますでしょうか。ご賛同の方は、盛大な拍手をお願い申し上げます」
拍手に包まれてゆっくりとみんなの顔を見ていく。母も義母も二人とも涙を流してくれていた。ゆずがやりたいと言わなければきっとこの日を迎えることはなかった。「ありがとう」と呟いた声は拍手に掻き消されて聞こえないと思ったけれど、「こちらこそありがとう」と言ってゆずは微笑んでくれた。
「ありがとうございます。
ご参列の皆さまのご承認をいただき、めでたくお二人の結婚が成立いたしました。
ご結婚誠におめでとうございます。
みなさま改めて、盛大な拍手をお願い致します」
ゆずと顔を見合わせて鳴り止まない拍手を聞いた。幸せを肌で感じる。
司会者が閉会を告げ、バージンロードを二人で歩く。扉が閉まるまで二人で頭を下げて、式を無事やり遂げた。
「おめでとうございます。素敵なお式でした」
担当してくれた小田さんが微笑んでくれて脱力する。
「終わった……」
「響介さん、ありがとう。忘れられない日になったよ」
「こちらこそありがとう。めちゃくちゃ幸せだなって思った」
「そう思ってもらえて良かった」
二人で着替えを済ませて、最後にまたお世話になった人達に挨拶をして、ロビーで待つ家族の元へ向かった。
口々に良かった良かったと言われて少し気恥ずかしくなる。
「佑弦のこと幸せにしなかったらマジで許さないから」
「分かってます」
最後の最後まで辛口のお義姉さんがほんの一瞬だけ表情を緩めた。本当に一瞬だったけれど。
その後、俺とゆずが見合いをしたホテルに移動して食事をした。見合いのときとは違う和やかな時間が流れる。まさかこんな時間を過ごせるようになるとは思いもしなかった。
「じゃあ、気をつけて」
「今日はありがとうございました」
お礼を言って、食事を終えて帰る家族を見送った
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