上 下
99 / 130

理由

しおりを挟む
 エイダは垣間見る、自分とは違う、誰かの記憶。
 そこは庭を駆け回り、転ぶ、膝に血が滲み、目から雫が溢れた。

「大丈夫か?アイラ」

 どこか見覚えのある老人が、自分に語りかけてくる。

「大丈夫よ、父上」
「そうか、偉いぞ」

 自分は褒められて頬を綻ばせる、いや正確にはおそらく自分ではない、自分はアイラではなくエイダだ。
 そうわかっているのに、体は自分の意思では動かない、体は意思に反して動き回る、庭の中を。

「アル!行くわよ!」
「待ってよ!アイラ!」

 仲良く元気に、アルと思われる子供と遊ぶ、薄々感じていたことだがどうやらここは、アイラの記憶の中らしい。

「そっか…魂を繋げられたんだ」

 そう認識した途端に、時間が何倍もの速度で、進んでいった。通り過ぎていく様々な思い出、それをエイダは一つ一つなぜか理解できた。
 そのせいで、一つの事実を知った。

 グレン卿はアイラ達は愛していたようだ、まるで本当の娘や息子のように接し溺愛していた。少なくともアイラの視点ではそうなのだ。

 今度は少し、目線が高くなり、体つきも男性のものとなった、アルの記憶だ。横にはエールとアイラもある。そして目の前には、グレン卿が立っていた。

「君たちは選ばれた者たちだ、神の使者の魂に適合し、世界を救うために生まれてきたのだ、わかるな?
 」

「はい!父上!」と兄妹は揃って返事をした。「よろしい」とグレン卿はいう。

「今日はその使命を果たす時が来た、先日、エールが例の奪われた兄妹の魂を感知したのだ」

 その言葉にアルは胸を踊らせる。ようやく自分たちの生きる意味を果たせるのだと。その気持ちはエイダにまで伝わってきた。

 再び時が加速する。すると今度は目線が低くなった、一瞬で理解するエールと呼ばれていた、あの少女の記憶だと。

 どこかの石造りの廊下と思しき場所をアルとともに歩いている、エールはおもむろに、口を開く。

「ねぇ、兄様本当に、エイダ姉様と戦わなくちゃいけないの?」

 アルは歩みを止め、頷く。

「ああ、そうだ」

 エールは悲しげに呟く。

「本当はもっと違う道があるんじゃないのかな?」

 アルは、その言葉を聞くと笑った。

「そんなものあるわけないだろう?エイダは完全に俺たちのことを敵だと思っている、力ずくで押さえつけるしかない」
「でも…」

「エール」とアルは煮え切らないエールに対して、言い聞かせるように続けた。

「エイダは俺たちの、敵になったんだ、だから倒さないといけない、そして魂を回収しなければならない、これは世界を救うために、しょうがないことなんだ。」

 アルの説明にまだエールは納得してはいなかった。

「それって、つまり…」
「エイダを殺すことになる」

 エールはため息をついた、そしてそれ以上、何も言わなかった。兄妹同士、殺しあうことに言葉にできない、虚無感を抱えながら、エールはアルととも歩み進めていった。

 再び時が加速する。そしてついにエイダはあのコウサテンに戻ってきた。
 兄妹たちもどうやら戻ってきたようで各々が辺りを見回している。

「どうかな、分かり合えた?」

 ヨータが聞く。エイダは天を見上げた、ここは地球という場所が忠実に再現されているのなら、どうやら地球も同じらしい、空はここでも青いのだ。
 そんな、青い空を見上げエイダは、思う、そして空に向けて思った言葉を吐き出した。

「私も、殺し合いなんてしたくないよ…」

 その呟きを聞いたものはいなかった。そしてエイダは兄妹たちに向き直り、聞いた。

「ねぇなんで私が必要なの?」

 アイラは頭を抑えながら、答える。

「ふふ、どうしようかしら?貴方がいなくても、問題はないわ、魂さえ無事ならね…」

「でも」とアイラは付け足し続ける。

「私たちの仲間になるなら教えてあげられるわ」
「そして貴方達は、魔王を復活させるそうでしょう?」

 エイダは食い気味にいう。その言葉にアルは目を見開く。

「そこまで知られているのか…アイラ、なら言ってもいいんじゃないか?」

 アルの説得にアイラは、そうかもね答えない、その様子を見たエールもアイラに対して説得を試みる。

「そうよ、アイラ姉様、エイダ姉様に話せばわかってもらえるかも」

 二人の説得についにアイラは「はあ」とため息をつき言った。

「わかったわよ、そうね、言わないと、そもそもここから出られないかも知れないのよね」

 アイラは「何から話そうかしら」と一瞬悩んだ後、簡潔にいうことにした。

「私たちは魔王を復活させ世界を、破壊する」

 その言葉にエイダは動揺を隠せない。

「そんな、なんのために?!」
「この世界を見て思わない?エイダ、こんな世界くだらないって?貴方は箱入り娘だったからわからないだろうけど、世界には争いが蔓延っている」

  「だから」とアイラは酔いしれるように呟き、続ける

「世界を真なる平和の世界に変えるために、この世界を壊すの」

 その狂気じみた瞳には、覚悟の炎が宿っていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの愛なんて信じない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:117,754pt お気に入り:4,110

出ていけ、と言ったのは貴方の方です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:960pt お気に入り:537

『私に嫌われて見せてよ』~もしかして私、悪役令嬢?! ~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:46

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:205pt お気に入り:3,443

訳あり公爵と野性の令嬢~共犯戦線異状なし?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:75

あなたにはもう何も奪わせない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:45,964pt お気に入り:2,788

王妃様、残念でしたっ!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:51

公爵閣下の契約妻

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:308

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:40,313pt お気に入り:3,700

処理中です...