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第11話 無駄のオンパレード
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ビクビクする使用人の3人。
ミネルヴァーナが何かを言おうとするとビクンと体を震わせて身を小さくしてしまう。
「まず、わたくしの身の回りの手伝いをしてくださってありがとう」
<< え? >>
礼を言って驚かれてしまうとチョッピリ傷つく。
もしかするとこのまま辞めてしまうかも知れないが、居心地が悪いままで働くのであれば辞めてスッキリとしたほうがいいかも知れない。選択肢を残しつつ3人に今後の考えをミネルヴァーナは打ち明けた。
「この家では働くにあたってルールを決めたいと思います」
「あの…ルールって」
「コホン」一つ無駄な咳ばらいをしたミネルヴァーナ。
「皆さんだけでなく、わたくしやマリーさんも含めてこの家には昼間、人間が5人います」
「そう、なりますね」
お互いの顔を見て、人数を確認した3人は頷いた。
「例えばマーナイタさんが竈の火力を大きくしたい時、薪を放り込むわけですが鍋をかき混ぜる手を止める事が出来ない。そんな時は近くに居る人に「薪をお願い」と頼めばよい…そんな感じのちょっとした手伝いをしましょうという事です」
「えぇっと…こちらの手が離せない時は?」
「5人が5人、バタバタするほどこの家には仕事はありません。誰か手空きだったり、ついでに行える者がいるはずよ」
「あの…それはまさか王女様も含まれて?」
「勿論。遠慮なくどんどん声を掛けて欲しいわ。それから‥‥」
椅子から立ち上がったミネルヴァーナは厨房に行き今朝、ベルセール公爵家から届いた新鮮な食材が入った籠の中から1つを手に取ると戻って来た。
マリーと買い物をしてから帰ると伝えてあったのに3人の使用人が訪れた時にも食材が大量に届いた。そして今朝は昨日よりも多い食材が届いた。
「マーナイタさん。この食材。今朝届いた分だけで良いのですが朝、昼、夕。それぞれ何人分と見ます?」
「そうですね…ざっと毎食15人分でしょうか」
「と、言う事は延べ人数で45人分という事ですわね?」
「そうなります」
ミネルヴァーナはテーブルに飛び乗るように身を倒し、3人の顔をぐるりと眺めた。
「ここに45人…いえ30人でもいいわ。いると思う?」
首をブンブンと横に振って3人は「いません」と答えた。
「持ち帰ってくださる?」
<< えぇっ? >>
食べきれないのが解りきっている食材を使っての調理も無駄。
廃棄するために調理をするのは手間も食材も無駄。
――無駄のオンパレードだわ――
「マーナイタさんには昼食はここにいる5人分。夕食は軽めで2人分だけ作って頂きます」
「でも、食材が余ったら旦那様に叱られます」
「だから、その分は調理をせず皆さんで分けてお持ち帰りください」
「ウチは4人家族だけど、余りますよ」
「ならば猶更です。ここで食すのは基本的にわたくしとマリーさんだけ。あとは賄で皆さんが食するだけ。余るでしょう?もし持ち帰って余るのであればお近くにお住いの方にも分けて差し上げて」
人の心を掴むには胃袋を掴む作戦もある。そんな意図は全くなかったけれど祝い事で奮発をした時でも手が出ない食材を前にした3人は生唾を飲む。
「ほ、本当に…持って帰っていいんですか?」
「構わないわ。だって昨日と今日の食材でざっと100人分ここにあるのよ?腐らせてしまうのなら食べてもらった方がずっといいと思いません?」
なるほど!と家族にも食べさせてやれる!クーリンとマーナイタは賛成をしたのだが、雑用係のチョアンだけが渋い顔をしたままだった。
「どうされたの?」
「いえ、食材を捨てたり、腐らせるくらいなら王女様の案も良いと思うんですよ。でも…」
「何かあるの?」
「俺らにはこんな食材買う金はありません。貰ったと言えばいいんでしょうけども毎日となると公爵家にも怪しまれると思うんですよ。俺たちが間引きをしてるんじゃないかと思われ兼ねないです」
「それもそうか」ミネルヴァーナも簡単に考えてしまったと反省した。
しかし、このままでは食材が無駄になるのも確実で生きるために野草まで食べていたミネルヴァーナとしては何とかしたいとの思いがある。
「だったら…売ればどうです?」クーリンがポツリと呟いた。
<< 売る?! >>
クーリン以外の4人がクーリンにググっと顔を寄せる。
「近い!近い!いえね、私は孫の面倒を夜見ているんですけども、娘も娘婿も夜の仕事なんですよ。昼間だと昼食の時間だったり、仕事終わりに何処かに寄って食べていく事は出来ても、夜中となると営業している店がないんです。かと言って食べるのが夜中の1時、2時。夕食のような重いものを食べると胃もたれするし、眠くなると仕事にならないというんですよ」
「それとどう関係があるんだ?」
「だから…余った食材で軽食、手で持って食べられる軽食を作って売ったらどうかと。余っているんだから価格も安く抑えられるし、食材も余らない。買う側は軽食を作らなくて済む。結構作るのって手間なものなんですよ。皆で昼間の仕事を助け合うのなら作る時間も出来るんじゃないかなぁとか…」
「良いと思うが問題があるぜ。先ず夜中に誰が売る?それから金儲けをする事を公爵家はどう思うかだ」
5人は考え込んだ。
そんな中でマリーだけはニマニマと笑う。
――ミーちゃんのこと、見直したでしょ?――
畏怖していた存在のミネルヴァーナに使用人の3人はごく普通に話をするようになっていた。3人が「王女様」ではなく「ミーちゃん」と呼ぶ日は近い。
マリーは「フフフ。お仲間ゲット。カミング・スーン」心で呟いたのだった。
ミネルヴァーナが何かを言おうとするとビクンと体を震わせて身を小さくしてしまう。
「まず、わたくしの身の回りの手伝いをしてくださってありがとう」
<< え? >>
礼を言って驚かれてしまうとチョッピリ傷つく。
もしかするとこのまま辞めてしまうかも知れないが、居心地が悪いままで働くのであれば辞めてスッキリとしたほうがいいかも知れない。選択肢を残しつつ3人に今後の考えをミネルヴァーナは打ち明けた。
「この家では働くにあたってルールを決めたいと思います」
「あの…ルールって」
「コホン」一つ無駄な咳ばらいをしたミネルヴァーナ。
「皆さんだけでなく、わたくしやマリーさんも含めてこの家には昼間、人間が5人います」
「そう、なりますね」
お互いの顔を見て、人数を確認した3人は頷いた。
「例えばマーナイタさんが竈の火力を大きくしたい時、薪を放り込むわけですが鍋をかき混ぜる手を止める事が出来ない。そんな時は近くに居る人に「薪をお願い」と頼めばよい…そんな感じのちょっとした手伝いをしましょうという事です」
「えぇっと…こちらの手が離せない時は?」
「5人が5人、バタバタするほどこの家には仕事はありません。誰か手空きだったり、ついでに行える者がいるはずよ」
「あの…それはまさか王女様も含まれて?」
「勿論。遠慮なくどんどん声を掛けて欲しいわ。それから‥‥」
椅子から立ち上がったミネルヴァーナは厨房に行き今朝、ベルセール公爵家から届いた新鮮な食材が入った籠の中から1つを手に取ると戻って来た。
マリーと買い物をしてから帰ると伝えてあったのに3人の使用人が訪れた時にも食材が大量に届いた。そして今朝は昨日よりも多い食材が届いた。
「マーナイタさん。この食材。今朝届いた分だけで良いのですが朝、昼、夕。それぞれ何人分と見ます?」
「そうですね…ざっと毎食15人分でしょうか」
「と、言う事は延べ人数で45人分という事ですわね?」
「そうなります」
ミネルヴァーナはテーブルに飛び乗るように身を倒し、3人の顔をぐるりと眺めた。
「ここに45人…いえ30人でもいいわ。いると思う?」
首をブンブンと横に振って3人は「いません」と答えた。
「持ち帰ってくださる?」
<< えぇっ? >>
食べきれないのが解りきっている食材を使っての調理も無駄。
廃棄するために調理をするのは手間も食材も無駄。
――無駄のオンパレードだわ――
「マーナイタさんには昼食はここにいる5人分。夕食は軽めで2人分だけ作って頂きます」
「でも、食材が余ったら旦那様に叱られます」
「だから、その分は調理をせず皆さんで分けてお持ち帰りください」
「ウチは4人家族だけど、余りますよ」
「ならば猶更です。ここで食すのは基本的にわたくしとマリーさんだけ。あとは賄で皆さんが食するだけ。余るでしょう?もし持ち帰って余るのであればお近くにお住いの方にも分けて差し上げて」
人の心を掴むには胃袋を掴む作戦もある。そんな意図は全くなかったけれど祝い事で奮発をした時でも手が出ない食材を前にした3人は生唾を飲む。
「ほ、本当に…持って帰っていいんですか?」
「構わないわ。だって昨日と今日の食材でざっと100人分ここにあるのよ?腐らせてしまうのなら食べてもらった方がずっといいと思いません?」
なるほど!と家族にも食べさせてやれる!クーリンとマーナイタは賛成をしたのだが、雑用係のチョアンだけが渋い顔をしたままだった。
「どうされたの?」
「いえ、食材を捨てたり、腐らせるくらいなら王女様の案も良いと思うんですよ。でも…」
「何かあるの?」
「俺らにはこんな食材買う金はありません。貰ったと言えばいいんでしょうけども毎日となると公爵家にも怪しまれると思うんですよ。俺たちが間引きをしてるんじゃないかと思われ兼ねないです」
「それもそうか」ミネルヴァーナも簡単に考えてしまったと反省した。
しかし、このままでは食材が無駄になるのも確実で生きるために野草まで食べていたミネルヴァーナとしては何とかしたいとの思いがある。
「だったら…売ればどうです?」クーリンがポツリと呟いた。
<< 売る?! >>
クーリン以外の4人がクーリンにググっと顔を寄せる。
「近い!近い!いえね、私は孫の面倒を夜見ているんですけども、娘も娘婿も夜の仕事なんですよ。昼間だと昼食の時間だったり、仕事終わりに何処かに寄って食べていく事は出来ても、夜中となると営業している店がないんです。かと言って食べるのが夜中の1時、2時。夕食のような重いものを食べると胃もたれするし、眠くなると仕事にならないというんですよ」
「それとどう関係があるんだ?」
「だから…余った食材で軽食、手で持って食べられる軽食を作って売ったらどうかと。余っているんだから価格も安く抑えられるし、食材も余らない。買う側は軽食を作らなくて済む。結構作るのって手間なものなんですよ。皆で昼間の仕事を助け合うのなら作る時間も出来るんじゃないかなぁとか…」
「良いと思うが問題があるぜ。先ず夜中に誰が売る?それから金儲けをする事を公爵家はどう思うかだ」
5人は考え込んだ。
そんな中でマリーだけはニマニマと笑う。
――ミーちゃんのこと、見直したでしょ?――
畏怖していた存在のミネルヴァーナに使用人の3人はごく普通に話をするようになっていた。3人が「王女様」ではなく「ミーちゃん」と呼ぶ日は近い。
マリーは「フフフ。お仲間ゲット。カミング・スーン」心で呟いたのだった。
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