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第24話  まさか、知らない?!

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ゴーヨキキにまた無理を頼む事になってしまったが、荷馬車は直ぐに調達が出来た。ゴーヨキキがもう使わなくなって店の倉庫で場所を取っているという小ぶりな荷馬車の荷台があると言うのだ。

「こんなに貰えません。かなり古いですし側面の煽り板は付け替えなきゃいけませんし」
「いいえ。ゴーヨキキ様にはご迷惑もお掛けしているのです。それにこれからも助けてもらわねばなりませんので」

小ぶりなものでも新品となれば150万パレは下らない。
直す箇所があったとしても車輪はしっかりしているし、馬ではなく人間が引くように改造も必要で直ぐに手に入るのは僥倖。ミネルヴァーナは使わず貯めていた65万パレをゴーヨキキに手渡した。


「助かります。実のところ…バーのママから ”どうしてくれんのよ!” って取引断られる寸前だったので」
「やっぱり。本当に申し訳ない事を致しましたわ」
「いやいや。良いんですよ。チョアンにも世話になってますし」

人が好いゴーヨキキは伝手を使って中古だが格納するチェーンを付け替えればいい日除けのテントと、補修に必要な板材を安く売ってくれる商人も紹介してくれた。

屋台が出来るまでは10日ほどかかる。今までの量よりも少ない小分け野菜しか出す事は出来なくなったが、それぞれが大通り公園に屋台を出すための手続きなどに奔走したのだった。


★~★

ベルセール公爵家ではシルヴァモンドがかなり苛立っていた。

何をする訳でもないのにエルレアはまるで妻のように振る舞い、公爵夫人と共に茶会三昧。放っておけばいいと思っていたが、先月の収支報告書を見て傍観するのも問題だと気が付いた。

ベルセール公爵家にも海に面した広大な領地があり、農作物の他に加工した海産物を王都や各国に運んで卸したり直接販売をしているのだが、売り上げが2カ月連続で落ちているのだ。

結婚して3か月目となる今月もさらに売り上げが落ち込むのは確実。それで揺らぐような屋台骨ではないが下降一直線を辿る売り上げに父親のベルセール公爵も頭を抱えていた。

原因はと言えばミネルヴァーナとの結婚を起因とするもの。

貴族もだが商人も一番大事にしているのは金ではなく信用だったのだが、結婚式の当日開催したお披露目会が原因だった。

国王が決めた結婚。なのに会場で愛想を振りまいていたのはメレ・グレン王国の第11王女ではなくモース侯爵家に嫁ぎ、寡婦となったエルレア。

その時だけなら助っ人として苦しい言い逃れも出来ただろうが、以降も公爵夫人と共に公爵家での茶会のみならず他家の茶会や夜会に出向き顔を売る。

「これって王家に静かな反旗を翻したと言っても良いんじゃないのか?」
「それに、あの未亡人。聞くところによると初夜から同衾したらしいぜ」
「いやいや、結婚前からだろう?確か結婚式の前から入り浸りだと聞くが?」

付け足された嘘もあるにはあるが、漏れるはずのない公爵家の中での出来事も噂になって王都中を駆け巡る。


モース侯爵家も悪い家ではないのだが、当主だったエルレアの夫が戦死した後、一度は引退した前侯爵が再度当主となったが次の当主とする孫はまだ2歳と4歳。
この時期から顔を売る事も必要なのに母親が息子たちを放置してベルセール公爵家に入り浸り、公爵夫人と行動を共にするものだから「如何なものか」と敬遠する者が多くなった。

不義理な行動や日和見な行動は忌み嫌われる。大事な契約をしていても反故にする可能性が高いと敬遠されるのである。

それが数字となってシルヴァモンドの元に収支報告書として出て来ていた。

「父上の元に行く」
「旦那様でしたら、2時間ほど前にお出掛けになりましたが」
「出掛けた?聞いてないぞ」
「それは…」

執事は口籠った。
シルヴァモンドは今までと変わらないと思っていたのだが、状況が大きく変わった事に全く気が付いていなかった。


シルヴァモンドの立場としてはミネルヴァーナと結婚をした時に既にベルセール公爵家の籍は抜けており、第3王子として本来なら王宮住まいとならねばならなかった。

王弟という位置にいないので家名がないだけ。王家は家名が国名となるのでシルヴァモンドの現在の正式な名前はシルヴァモンド・ル・サブレン。

王妃が「住み慣れた生家の方がよかろう」と住まいをそのままにしただけで、いわば居候。実のところベルセール公爵家の収支に関わる事も他家の人間となっているのでしてはならない事だった。

「どうして父上が出た事を言わないんだ」

シルヴァモンドはもう一度執事に問う。
執事が事実を伝えるとシルヴァモンドはしばし放心状態となってしまった。


――と、言う事はエルレアは妃を名乗っているのではないだろうな――

まさかそこまで馬鹿ではないだろうと思う気持ちと、もしかしたらと思う気持ちが鬩ぎあった。

身分の詐称はその内容に寄って禁固から即日処刑まで幅があるが、もし妃を名乗っているのなら受ける刑は後者になる。王族を騙るのは重罪だからだ。


眼から光を失ったシルヴァモンドに執事は申し訳なさそうに告げた。

「あの…殿下の父君は陛下ですので…その…」
「父を父と呼ぶな。そう言いたいのか」
「は、はい…形式上そのようになりますので」
「なら、何故!早く言わないんだ!」
「そう申されましても…」

知っているのが当たり前。
執事はそう告げたかったが表情に怒りを感じそれ以上は言い出せなかった。

「もういい。出掛けてくる」
「ど、どちらに?」

立ち上がるとシルヴァモンドは無言でハンチング帽を被り、部屋を出て行った。
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