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7:王弟テレンス

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捜索隊からは報告が上がらないまま午後を迎えた王宮。

ガラガラと1台の馬車が大きな門をくぐって行く。乗っているのは王弟テレンス。その馬車を追い越すように騎乗した騎士達が駆け抜けていく。
アレックスの証言に基づいて学院で「マジョリーと帰った女子生徒」を探した騎士たちである。

兄である国王に面会の申請をしたテレンスは王宮内にある私室に向かった。
扉の前には第二執事が頭を下げてテレンスを迎える。


「動きがあったようだが?」
「はい、昨夜から「救世主」であるキングル伯爵家の令嬢、マジョリー殿が攫われたようだと捜索隊が出ております」

「キングル伯爵家の?あのオレンジの髪の娘か」
「はい。使い間者を陛下の元に向かわせましたので報告の内容が間も無く」
「ふむ。そうか…やはりどこかで見た顔だとは思ったが」
「何かご存じなので御座いますか?」
「まぁ、女性は化粧と髪型で別人に見えると言うのはあながち嘘ではないと思っただけだ」


第二執事の開けた扉から部屋に入ったテレンスは戸棚に並べた書籍を指をさして何かを探す。1冊の本に辿り着くと人差し指で引っ掛け斜めに倒すと空いた手で隣の本との間に隙間を作り引っ張り出した。

本を広げ、目当てのページまで紙を捲って行く。
執事は執務机の上に茶を置いた。

「救世主に関する書で御座いますか」
「あぁ、ほとんどは覚えているが念のためにと思ってね」

テレンスは文字を指でなぞると「うんうん」頷いた。

「ご令嬢が認定をされて何年になるかな」
「そうですね。およそ10年。正確には9年と7カ月11日で御座います」
「今回は長かったほうに入るか…」
「ですがご令嬢は捜索をされている最中‥‥まさか?」
「その、ま・さ・か・だ」

手にしていた本を机の上に置き、頬杖をつくとクスクス笑いだす。
執事は「悪い顔になっていますよ」と声を掛けた。
テレンスは、その本を手のひらでポンと1つ叩いた。

「アレックスは婚約を見直すと言ったらしい」
「婚約を?どなたに?」

「勿論。ふふっ。ご当人にだ。まぁ聞き直そうとしたがそれは出来ずで「そう言ったと思う」と言う記憶だが、聞いていた者は数名いるようだから?目に余る可愛い甥っ子の望みは叶えてあげようと思ってね」

「目に入れても痛くないでは御座いませんか?」

「まさか!あんな物を目に入れるくらいなら、ものもらいの方がまだ歓迎できると言うものだ」

「でしょうね。殿下の目に余る行為は聞き及んでおりますから」

「だろうね」そう言いながらテレンスは出された茶を一口飲んで口の中を潤した。
兄である国王と一時は覇権争いかと国内が騒然となった時期もあったが、そうそうに継承権を放棄し王弟となったテレンスは「隠居だ」と告げて学園の守衛となった。

この日を想定しての事ではなかったが、兄の子供たちを監視する意味合いがある。その他に子女を通して勢力図を見るという意味合いもあった。学院の中は貴族社会の縮図ではあるが、独自の社会でもある。

次期国王となるに相応しいか。実際に目で見て最後に裁決の一票を投じる。国王が投じる事が出来ない分、王弟の一票は意味が重くなる。

「返す返すも貴方様が腰を下ろすのは玉座の方が座り心地は良かったと未だに思います」

「買い被りだ。私も妻も自由が好きなんだ。縛られるのはごめんだね」


そこにテレンスの第一執事と共に数人の男が部屋に入ってくる。
従者、騎士、文官とそれぞれの装いだがテレンスには心地よい報告を伝えた。

「ご令嬢が婚約の見直しを宣告されたと証言する者が多数確認されております」
「だろうね」

「ご令嬢ですが、現時点では所在不明。捜索は続いております」
「そろそろクロにも教えたほうがいいかな?今頃狂ってるかも知れないからね」
「クロ?と申しますとキングル伯爵家のクロフォード様ですか?」
「彼しかいないでしょ」
「知らせに走りましょうか?」
「いや、兄上が呼ぶからいい。こちらの手駒は見せたくないからね」
「陛下に恩を売るという事でしょうか?」

騎士に扮した従者の言葉にテレンスは指をメトロノームのように動かす。
そして少年のように笑みを浮かべた。

「恩を売るのはクロ。クマが困ってるからね」
「クマっ?」
「そぅ。育ちすぎた子熊は嫁さんも結婚式から逃げちゃったしね」
「あぁグリズリー侯爵家の?」

従者の返しにテレンスは吹き出してしまった。

「ぷはっ!不敬って言われるぞ?グリズリーじゃなくベアズリー侯爵家だ」

小さく第二執事が「一緒です」と呟く。
テレンスは一つ息を長く吐き出すと、彼らに向かって真面目な顔つきを向けた。


「令嬢は屋敷で保護をしてある。だが、お披露目はアレックスと縁を切ってからだ。それまでは判ってるな?」

<< 御意 >>

忠誠を誓う礼をした後、従者たちがに戻るのを見送り今度は第一執事が呆れた声を出す。

「やはり貴方様が腰を下ろすのは玉座の方が座り心地は良かったと思います」

「ふふっ。縛られるより縛る方が楽しいからね」

テレンスが残った茶を飲み干すと国王からの従者が扉を叩いた。
見えやすいように第二執事は壁の方に移動する。

「陛下がテレンス殿下に来て頂きたいと申されております」

「何の用だろう?なぁ??」

白々しく2人の執事に声を掛けるテレンスに執事も白々しく首を傾げた。
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