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6:足が震えるけれど小鹿ではない
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ガタゴトと走る馬車…かと思えば違います。
全く揺れを感じないのです。
王都を出て5日目。
「今日から特別仕様で御座いますよ」と言った従者、彼の名前はアベラルドさん。
かつては海の向こうファミル王国という国で第二王子だったと言います。
「色々と間違っちゃいまして、今は従者してるんです。テヘ♡」
26歳と言うアベラルド渾身の「テヘ♡」を見てわたくしは思ったのです。
――間違い過ぎると人はこうなるのだわ――
しかし、不思議だなと感じたのです。乗っている馬車の大きさからすると4頭立ての馬車かと思いきや2頭立て。その馬も大きな「ばん馬」かと言えば普通の馬にしか見えません。
途中で御不浄休憩や食事休憩を挟みましたが、馬車を引く馬を交換していないのです。
「これはね、魔道馬っていうんですよ」
「魔道馬?初めて聞く品種ですわね」
「馬であって馬でない。魔獣と呼ばれる物の一種なんですよ」
「馬ではないという事ですの?」
「ヒトの目には馬に見えるそうですが、全く違うんですよ。ほらアライグマはクマって名前がありますけど、ベアーな熊さんとは全く違う種類でしょ?そんなものです」
そんなものと一刀両断する従者アベラルドさんの人生が一番「そんなもの」な気がするのは気のせいかしら?やはり一度王族を経験すると達観するのかも知れないわ。
「こっちのヒヒン!って声が低い方の名前がハオンキ号、それよりちょっと高いヒヒン!がヘオンキ号って名前なんですよ。ファマリーさんの馬は家令のルートさんが用意してくれています」
「まさかと思いますが…名前は…」
<< トオンキ号!(?) >>
すこし眩暈が致しますが、ビブラートをし過ぎて酸欠になった訳では御座いません。
「旦那様はお聞きかと思いますがヴィゴロッソ様と申しまして、僕が言うのもなんですけどもこれがなかなかのイケメンという部類で御座いますよ」
アベラルドさんもイケメンな部類なお顔立ちで御座いますが、イケメンにイケメンと言われるイケメン。そして音楽を思わせる馬への名付け。
――辺境って ブレーメン なのかしら――
「ここからは揺れを感じる事がないと思います」
「整地されておりますの?」
アベラルドさんの背の方をみますが、既に街道に入っております。路面は馬車の轍の跡も見えますがボコボコとしていて車内で話をするには躊躇しそうな感じで御座います。
「この先はこのハオンキ号、ヘオンキ号の本領発揮!実はね、魔道馬って宙に浮いて空気を蹴って走れるんですよ。僕も最初はびっくりしましたが直ぐに慣れます」
――慣れるものなの?――
「道なき道を駆け抜けるのがこの魔道馬。なので辺境から王都まで俗にいう早馬なら1日なんですよ。魔道馬は走るのが大好きで1日3千キィロなら平気で駆け抜けるんです」
――ママを探してアルゼンティナまで船旅をしなくていいのね――
「なので本当の山越えが体験できますよ。高い所は平気ですか?」
「高い所と言うのは…どのくらいの高さですの?」
「山の形に添って走りますから、見えている山のさらに上ですね」
「ヒュッ!!」
標高が高い山の街道添いから渓谷を見下ろすのではなく、山そのものを見下ろす高さ。わたくし気を失っていた方がよろしいでしょうか。
「耳が途中で何度もキーン!ってしますので注意してくださいね」
――うっかり窓の外を見る視覚の心配ではなく聴覚のみなのね――
「あの…途中で疲れちゃった~ってヘオンキ号、ハオンキ号が止まったり…とか…ありませんわよね?」
「ないですよ~。走り出したら止まらない土曜の夜の天使と二つ名がありますんで。気合と根性のロケンロールですよ。アッハッハ」
――全然、アッハッハじゃないんですけど――
婚約をしたばかりの頃、ジョージ様に「落とし穴があるから落ちてみて」と、どんなネタバレ?と思ったら背を押されて突き落とされる直前以上に馬車に乗る足が震えてしまいます。
――こんな所で足がバンビちゃんになるなんて!――
しかし、馬車の中でアベラルドさんは更に全身が震撼する発言をされたのです。
「実はこの婚姻なのですが、ヴィゴロッソ様はご存じないのです」
「はっ?」
衝撃的なご発言。夫となる人は結婚する事も知らない?
そんなところに行って大丈夫なのかしら?
「あの戦で…ご友人やら、戦犯として先代様が処罰をされましたので、ちょっと色々と抱えておりましてね」
「抱えるとは何を?」
「抱き枕です」
――聞いて損した気分だわ――
ヒュルルル~。風が心地よく感じるのは何故かしら。
だめ!馬車の小窓が開きっ放しじゃない!風を感じている場合じゃないわ!
――外に吸いだされちゃったら命綱なしのバンジーになっちゃう!――
窓を閉じ、何度もロックを確認するわたくし。
向かいで小窓にペタっとヤモリ化されたアベラルドさんは「ヒャッホー」と歓声を上げておられます。
ですが、1時間程してアベラルドさんの言葉が真実だったと知るのです。
全く揺れない馬車。流れていく景色は見た事もないほどに美しく、気が付けば窓にわたくしもヤモリ化。
――慣れって怖いわ――
しかし、このアベラルドさんの「抱き枕発言」はあながち嘘ではなかったのです。
全く揺れを感じないのです。
王都を出て5日目。
「今日から特別仕様で御座いますよ」と言った従者、彼の名前はアベラルドさん。
かつては海の向こうファミル王国という国で第二王子だったと言います。
「色々と間違っちゃいまして、今は従者してるんです。テヘ♡」
26歳と言うアベラルド渾身の「テヘ♡」を見てわたくしは思ったのです。
――間違い過ぎると人はこうなるのだわ――
しかし、不思議だなと感じたのです。乗っている馬車の大きさからすると4頭立ての馬車かと思いきや2頭立て。その馬も大きな「ばん馬」かと言えば普通の馬にしか見えません。
途中で御不浄休憩や食事休憩を挟みましたが、馬車を引く馬を交換していないのです。
「これはね、魔道馬っていうんですよ」
「魔道馬?初めて聞く品種ですわね」
「馬であって馬でない。魔獣と呼ばれる物の一種なんですよ」
「馬ではないという事ですの?」
「ヒトの目には馬に見えるそうですが、全く違うんですよ。ほらアライグマはクマって名前がありますけど、ベアーな熊さんとは全く違う種類でしょ?そんなものです」
そんなものと一刀両断する従者アベラルドさんの人生が一番「そんなもの」な気がするのは気のせいかしら?やはり一度王族を経験すると達観するのかも知れないわ。
「こっちのヒヒン!って声が低い方の名前がハオンキ号、それよりちょっと高いヒヒン!がヘオンキ号って名前なんですよ。ファマリーさんの馬は家令のルートさんが用意してくれています」
「まさかと思いますが…名前は…」
<< トオンキ号!(?) >>
すこし眩暈が致しますが、ビブラートをし過ぎて酸欠になった訳では御座いません。
「旦那様はお聞きかと思いますがヴィゴロッソ様と申しまして、僕が言うのもなんですけどもこれがなかなかのイケメンという部類で御座いますよ」
アベラルドさんもイケメンな部類なお顔立ちで御座いますが、イケメンにイケメンと言われるイケメン。そして音楽を思わせる馬への名付け。
――辺境って ブレーメン なのかしら――
「ここからは揺れを感じる事がないと思います」
「整地されておりますの?」
アベラルドさんの背の方をみますが、既に街道に入っております。路面は馬車の轍の跡も見えますがボコボコとしていて車内で話をするには躊躇しそうな感じで御座います。
「この先はこのハオンキ号、ヘオンキ号の本領発揮!実はね、魔道馬って宙に浮いて空気を蹴って走れるんですよ。僕も最初はびっくりしましたが直ぐに慣れます」
――慣れるものなの?――
「道なき道を駆け抜けるのがこの魔道馬。なので辺境から王都まで俗にいう早馬なら1日なんですよ。魔道馬は走るのが大好きで1日3千キィロなら平気で駆け抜けるんです」
――ママを探してアルゼンティナまで船旅をしなくていいのね――
「なので本当の山越えが体験できますよ。高い所は平気ですか?」
「高い所と言うのは…どのくらいの高さですの?」
「山の形に添って走りますから、見えている山のさらに上ですね」
「ヒュッ!!」
標高が高い山の街道添いから渓谷を見下ろすのではなく、山そのものを見下ろす高さ。わたくし気を失っていた方がよろしいでしょうか。
「耳が途中で何度もキーン!ってしますので注意してくださいね」
――うっかり窓の外を見る視覚の心配ではなく聴覚のみなのね――
「あの…途中で疲れちゃった~ってヘオンキ号、ハオンキ号が止まったり…とか…ありませんわよね?」
「ないですよ~。走り出したら止まらない土曜の夜の天使と二つ名がありますんで。気合と根性のロケンロールですよ。アッハッハ」
――全然、アッハッハじゃないんですけど――
婚約をしたばかりの頃、ジョージ様に「落とし穴があるから落ちてみて」と、どんなネタバレ?と思ったら背を押されて突き落とされる直前以上に馬車に乗る足が震えてしまいます。
――こんな所で足がバンビちゃんになるなんて!――
しかし、馬車の中でアベラルドさんは更に全身が震撼する発言をされたのです。
「実はこの婚姻なのですが、ヴィゴロッソ様はご存じないのです」
「はっ?」
衝撃的なご発言。夫となる人は結婚する事も知らない?
そんなところに行って大丈夫なのかしら?
「あの戦で…ご友人やら、戦犯として先代様が処罰をされましたので、ちょっと色々と抱えておりましてね」
「抱えるとは何を?」
「抱き枕です」
――聞いて損した気分だわ――
ヒュルルル~。風が心地よく感じるのは何故かしら。
だめ!馬車の小窓が開きっ放しじゃない!風を感じている場合じゃないわ!
――外に吸いだされちゃったら命綱なしのバンジーになっちゃう!――
窓を閉じ、何度もロックを確認するわたくし。
向かいで小窓にペタっとヤモリ化されたアベラルドさんは「ヒャッホー」と歓声を上げておられます。
ですが、1時間程してアベラルドさんの言葉が真実だったと知るのです。
全く揺れない馬車。流れていく景色は見た事もないほどに美しく、気が付けば窓にわたくしもヤモリ化。
――慣れって怖いわ――
しかし、このアベラルドさんの「抱き枕発言」はあながち嘘ではなかったのです。
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