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23:悪妻、女の子なので髪型を気にする
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トオンキ号に鞍を付け、ハミも弛んでいないか馬丁のアジタートさんが入念にチェックしてくださいます。
「トオンキ号。悪妻様をしっかりお運びするんだぞ」
「ブルル~ブルッ♡」
毎度の事で御座いますが、首筋をフンスフンス、胸元で深呼吸。あわよくばスカートの裾に鼻を入れて持ち上げようとするのをやめなさい!
魔道馬で無かったら張り飛ばしているところですわ。
「ブル~ン♡」
――え?まさか魔道馬ってヒトの心も読めるの?――
ハァハァと荒い息でわたくしに長い顔を差し出してくるトオンキ号。
試しに「ぺちっ!」っと軽めに叩くと…。
「ブルゥ~フォッフォ…フォッフォ」
いけない。また禁断の扉を開けた気が致しますわ。
間違いなくトオンキ号はそちらの性質をもつド変態魔道馬。
目の前で鞭を柵に打ち付けると、いい加減荒い息が更に荒くなっていきます。
「いい子でグリサンド伯爵家まで行けたら…(ビシッ!)ご褒美があるかも?」
「ブルッ!ブルッ!!」
トオンキ号でお出かけをするたびに柵に鞭を打ち付けるので柵が削れてしまっておりますわ。変態を調教するのも大変ですわね。アジタートさんの微笑ましいものを見る細い目が恨めしく感じますわ。
今回もお供はアベラルドさん。
しっかりとこちらも「ゲエム」という話題で盛り上がらないように釘を刺さねばなりません。
「アベラルドさん。今日の案件は伸るか反るかの大一番よ。余計な事は考えずに。いいわね?」
「余計な事って言いますと、寝台の下に隠している禁断の書をアルファベット順にきっちりと書棚に並べる事でしょうか?」
「ガチで余計な事だわね。経験ないけど」
「あ、もしかして表紙でバレたら不味いなってブックカバー付けて、わかりやすいように背表紙にタイトルを明記する事でしょうか」
「バレたら不味いからと手間までかけたブックカバーの意味はどこに?」
「あ、もしかして調理長の作った料理に「美味しいですよ」って言いながらソースをジャンジャンぶっかける事ですかね」
「間違いなく調理長のプライドを引き裂いているわね」
アベラルドさん。色々と余計な事をやらかしているようですけども、元王子様だけあって全然悪気がないというのが痛い所ですわ。
魔道馬の空の旅も慣れれば苦にもなりませんが、問題は到着する頃にシータさんたちに整えて頂いたどんな髪型ももれなく崩れてしまうことですわ。
ジェームスディーン風なオールバックならまだしもスネ夫君の髪型へと取り舵いっぱいになるか、面舵いっぱいになるか。重量級大型空母の船首のようなリーゼントが真後ろに展開されるのです。
うっかりお辞儀をしようものなら、髪の毛だけが天を貫くかのように立ち上がるのです。
先日、モルデント子爵様のお屋敷に到着した際、ベンチが御座いましたので座って髪を手櫛で整えようと思ったのですが先客がいたのです。
「申し訳ございません。隣…よろしいでしょうか?」
「・・・・」
「あの、お時間は取らせませんの。髪を手櫛で整えるだけなので」
「・・・・」
「で、では…出来るだけ端の方に致しますので」
「・・・・」
一点を見つめ、微動だにしない先客様。
満員電車なのに長椅子に腕を広げてドカリと腰を下ろす破落戸風かと思いましたら、ドナルド君だったのには胆を冷やしましたわ。
――どうりで無口なはず――
今回も髪型を整えるのに腰掛ける場所があると良いんですけど。
「髪を切っちゃうとシャルベ王国では何か弊害が御座いますの?」
「髪は女の命!って言いませんか?」
アベラルドさん、なかなかに器用ですわね。
ハオンキ号に跨り、手綱を掴みながらも渾身のゴルゴ松本様の「命」を展開されておられます。
「凶器にもなる狂気な髪型になっちゃうんですもの」
「カッコいいじゃないですか。エクスカリバー!って感じで」
――だから!必殺技となる武器になっちゃうと言ってるの!――
わたくし、武力制圧は考えておりませんわ。
うっかり金属探知機に反応したら大変じゃないの。髪飾りも付けられないわ。
長いようで短い空の旅。
上手く行けば帰り道はシャルベ王国一の借金悪妻になっているはず。
失敗すればただの悪妻。
問題は一切軌道に乗っていない計画にどれだけ相手の財布を開かせる事が出来るか!
負けられない戦いが目の前に見えて参りましたわ。
「トオンキ号。悪妻様をしっかりお運びするんだぞ」
「ブルル~ブルッ♡」
毎度の事で御座いますが、首筋をフンスフンス、胸元で深呼吸。あわよくばスカートの裾に鼻を入れて持ち上げようとするのをやめなさい!
魔道馬で無かったら張り飛ばしているところですわ。
「ブル~ン♡」
――え?まさか魔道馬ってヒトの心も読めるの?――
ハァハァと荒い息でわたくしに長い顔を差し出してくるトオンキ号。
試しに「ぺちっ!」っと軽めに叩くと…。
「ブルゥ~フォッフォ…フォッフォ」
いけない。また禁断の扉を開けた気が致しますわ。
間違いなくトオンキ号はそちらの性質をもつド変態魔道馬。
目の前で鞭を柵に打ち付けると、いい加減荒い息が更に荒くなっていきます。
「いい子でグリサンド伯爵家まで行けたら…(ビシッ!)ご褒美があるかも?」
「ブルッ!ブルッ!!」
トオンキ号でお出かけをするたびに柵に鞭を打ち付けるので柵が削れてしまっておりますわ。変態を調教するのも大変ですわね。アジタートさんの微笑ましいものを見る細い目が恨めしく感じますわ。
今回もお供はアベラルドさん。
しっかりとこちらも「ゲエム」という話題で盛り上がらないように釘を刺さねばなりません。
「アベラルドさん。今日の案件は伸るか反るかの大一番よ。余計な事は考えずに。いいわね?」
「余計な事って言いますと、寝台の下に隠している禁断の書をアルファベット順にきっちりと書棚に並べる事でしょうか?」
「ガチで余計な事だわね。経験ないけど」
「あ、もしかして表紙でバレたら不味いなってブックカバー付けて、わかりやすいように背表紙にタイトルを明記する事でしょうか」
「バレたら不味いからと手間までかけたブックカバーの意味はどこに?」
「あ、もしかして調理長の作った料理に「美味しいですよ」って言いながらソースをジャンジャンぶっかける事ですかね」
「間違いなく調理長のプライドを引き裂いているわね」
アベラルドさん。色々と余計な事をやらかしているようですけども、元王子様だけあって全然悪気がないというのが痛い所ですわ。
魔道馬の空の旅も慣れれば苦にもなりませんが、問題は到着する頃にシータさんたちに整えて頂いたどんな髪型ももれなく崩れてしまうことですわ。
ジェームスディーン風なオールバックならまだしもスネ夫君の髪型へと取り舵いっぱいになるか、面舵いっぱいになるか。重量級大型空母の船首のようなリーゼントが真後ろに展開されるのです。
うっかりお辞儀をしようものなら、髪の毛だけが天を貫くかのように立ち上がるのです。
先日、モルデント子爵様のお屋敷に到着した際、ベンチが御座いましたので座って髪を手櫛で整えようと思ったのですが先客がいたのです。
「申し訳ございません。隣…よろしいでしょうか?」
「・・・・」
「あの、お時間は取らせませんの。髪を手櫛で整えるだけなので」
「・・・・」
「で、では…出来るだけ端の方に致しますので」
「・・・・」
一点を見つめ、微動だにしない先客様。
満員電車なのに長椅子に腕を広げてドカリと腰を下ろす破落戸風かと思いましたら、ドナルド君だったのには胆を冷やしましたわ。
――どうりで無口なはず――
今回も髪型を整えるのに腰掛ける場所があると良いんですけど。
「髪を切っちゃうとシャルベ王国では何か弊害が御座いますの?」
「髪は女の命!って言いませんか?」
アベラルドさん、なかなかに器用ですわね。
ハオンキ号に跨り、手綱を掴みながらも渾身のゴルゴ松本様の「命」を展開されておられます。
「凶器にもなる狂気な髪型になっちゃうんですもの」
「カッコいいじゃないですか。エクスカリバー!って感じで」
――だから!必殺技となる武器になっちゃうと言ってるの!――
わたくし、武力制圧は考えておりませんわ。
うっかり金属探知機に反応したら大変じゃないの。髪飾りも付けられないわ。
長いようで短い空の旅。
上手く行けば帰り道はシャルベ王国一の借金悪妻になっているはず。
失敗すればただの悪妻。
問題は一切軌道に乗っていない計画にどれだけ相手の財布を開かせる事が出来るか!
負けられない戦いが目の前に見えて参りましたわ。
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