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△30億を端金と言わせる妻

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平身低頭なパルス殿下。状況把握が追いつかない俺。
ニコニコしているツリピオニー。

その理由は‥‥。



義弟殿(ツリピオニーの兄)が学園卒業でツリピオニーが学院入学前の年に家族でプチ旅行に出掛けた最終日、カスタード国で大規模な火事が発生し放火したと言われる村人が捕えられたという。
泊まっていた宿屋も焼け避難所で慰問、視察にきていた国王に原因を説いたのがツリピオニーだったのだ。


『一番多いのは確かに人間の火の不始末です。ですが誰かが火をつけなくても発火するんです』

『そんなバカな事があるか!!この者を捕え処刑せよ!』

『いいえ!その証拠が御座います。納得できなければ証拠を確かめてからわたくしの首を落とすなり縛り吊るすなりお好きにしてください』

『この小娘が!ならばその証拠を見せてみよ』


避難所の外に出て国王の前で落ち葉を集め、箱に入れるツリピオニー。
カスタード国は湿度があまり高くなく、乾燥傾向にある国である。
箱の中の落ち葉はカラカラに乾いている事が判る。

『この状態で、風が吹くと落ち葉同士がこすれあい摩擦を起こします。冬場に服を脱ぐときパチっとなるのは着ていた服の繊維がこすれあい摩擦で静電気を帯び、衣類を脱ぐ事で放電しているからです。本当に小さな静電気ですが落ち葉には火の粉の1粒と同じ働きになる事があります。乾燥しきった落ち葉同士がこすれ摩擦で出来た静電気で発火する事もあります。その他に‥‥これを見てください』


取り出したのは鳥が咥えてきたと思われる人間の宝飾品の数々。


『これはここ2,3日散歩がてらに宿屋の裏にある林を散歩した時に見つけたものです。

落ちているものを拾っただけでこんなにあります。地中に埋もれてしまったものも多くあるでしょう。問題はこれを運んできたのは鳥だという事。枝にこのようなガラス製品が引っ掛かった場合、レンズの役割をします。そして今時期のカスタード国の北端にあるこの地方は一日中陽が沈まない白夜と呼ばれる時期に入ります。太陽の位置が変わらず、ガラス製品がレンズの役割を果たすとレンズを通った光は1点に集まります。今回は簡単にやってみます』

太陽の光をレンズを通すようにして箱の中の落ち葉の1点に集めると、ものの1分もしないうちに白い煙が上がりだす。


『おぉぉ~』

炎がボッと上がると枯れ葉は箱を焦がしながら灰になった。
しかし、ツリピオニーは直ぐにその灰を焚火の脇に捨てた。。



『確かに火が点いた。だが火元は家の中だ。枯れ葉はなかった。どう説明をする』

『先程まで見て頂いたのは山火事が起こる原因の一つですが、関係がない訳ではありません』

『何の関係があると言うのだ』

『はい。このカスタード国は家屋のほとんどが木造家屋。摩擦熱は山火事の原因となる事も知って頂きたかったのですが、誰も放火をしなくても、誰もが放火犯になる危険性をこれからお見せしますが、膨大な時間がかかりますので御用学者の先生もおられますから、座学も交えてご説明いたします』


先ほど使った木の箱に、今度は焚火で熱したフライパンを火から少し離して底に紙をあてて紙が燃えていない事を示すとフライパンの底を箱に当てる。
それを何度も繰り返すと、木の箱の一部が黒く焦げたようになった。

『触れてみてください。熱くはありません。木材と言うのは非常に伸縮性にも優れていて加工もし易い。植林も出来ますから計画的に供給できる資材でもあります。ただ燃える素材だという事はご存じですよね?』

『そんな事、誰でも知っている』


『はい。こうやって長い年月。特に調理場で竈附近にある木材は熱せられる、冷めるを繰り返します。木はその中に水分を含んでいますが熱せられる事により、水分が蒸発します。これを多孔質化と言います。炭化つまり炭になっていくのです。

今回はフライパンをあてましたが、その前にフライパンに当てた紙は燃えてませんよね?要は熱だけだったという事はお判りいただけたでしょう?

通常木材は400度ほどで発火いたしますが、長い間、調理により温度を持ちこうやって多孔質化が進むと100度でも発火するのです。天ぷらなどをする時に180度で油の中に入れる…という事は発火温度の100度を超える物が近くにあるという事。天ぷらに限らず炒め物でも同じです。いつ火事になってもおかしくありません。

湯あみの湯を沸かす部屋、暖炉のある部屋、調理をする部屋。一番気を付けてきちんと火の始末をしているのに火事になってしまう部屋です。消火をされる兵士の方は疑問に思いませんでしたか?』


顔を見合わせる兵士は思い当たる節があるようだ。
しかし、ここでツリピオニー。冒頭に戻る。


『この火事で出た廃材を皆さん何処に捨てました?裏山や林の中にポンポンと投げ入れましたよね?いったん消えた!なんてのんびり悠長に思っているのは人間だけです。綿、羊毛製品などは消したと思っても1週間ほど水につけ込んでおかなければ火種が燻っている事もあるんです。そして一旦燃えた木材は更に燃えやすい。ただでさえ燃えやすい場所にそれらを捨てた。この国を丸焼きにするおつもりなんですか?!』


烈火の如く怒るツリピオニー。
無知ゆえに自然発火が起こりやすい場所に捨ててしまい、ツリピオニーの怒りに着火したのだ。


【自然発火、低温発火】を説いたツリピオニーの提案で山林には細い管を這わせて定期的に川から散水するシステムを提案し、家屋には火を使う部屋にはレンガ、石、そして鉄やアルミ、ステンレス、特にツリピオニーはイチオシで火山灰を混ぜた板で囲うように提案し、カスタード国では山火事は年に1回あるかないか。そして家屋の火災も原因不明は激減した。

国土の東は火山があり、火山灰の処理に困っていたが火山灰とはマグマの超高温で焼成された高純度無機質セラミックであり、完全な自然素材。消臭や殺菌機能もあり、輸出する事でカスタード国は世界屈指の経済大国になった。





『我が国が経済大国と言われるのはシュヴァイン辺境伯夫人ツリピオニー様あっての事。この度の水利権、年に30億などとミミッチィ金額を提示した事を議会だけでなく、国民から猛批判を受けましてね‥‥その…よければ年3千億にさせて頂ければ…と…思いまして』


ブッ!!!

『あ、失礼を‥‥』

俺は一口だけ口に含んだ茶を上に巻きあげるように吹き出してしまった。
【お行儀悪いですよ?】とツリピオニーが顔にハンカチをあててくれる。


だが、ツリピオニーはとんとんと優しくハンカチを俺に当てながらさらに上を行く発言をパルス殿下に放り投げた。


☆彡☆彡☆彡

あと3話!頑張ります!!目指せ19日完結っ!(。-ω-)q


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