17 / 25
VOL:16 特別隊も濃厚仕様
しおりを挟む
王都にある大聖堂では1組の夫婦が神に生涯の揺るぎない愛を誓っている頃、フェリペは大聖堂には向かわずに医療院にやってきた。
馬車を降り、出待ちをしていた従者に声を掛ける。
「ローレンスは来たか」
「はい。別室に控えております」
「そうか。ではローレンスをシンシア嬢に合わせるとするか」
「大丈夫ですかね」
「大丈夫だ。ローレンスは女性には殊更優しいから」
従者は「はて?」と考え込んだ。戦場の悪魔と二つ名がついた理由は隣国で将校をしていた時に、海側から砲撃をし、壊滅状態となった地で投降した住民の中にゲリラが混じっていた事から、「面倒だ」と皆殺しにした。そんな戦果が幾つもあったという【噂】からついたもの。
女、子供、年よりや病人、けが人ですら容赦をしないと言われていた。
ローレンスが亡命をした頃、その従者はまだ9歳。
今は19歳となったが当時の事実など子供が知るはずもなかった。
控室のローレンスはフェリペから「特別隊」の任を任され、かつての部下は「地元の消防団」のように招集によって集まって来る。
ちなみに「特別隊」としての仕事は誘拐された人質の救出や立て籠もり犯の捕縛、凶悪な窃盗団への物理的突入に時々レジスタンスのアジトへの奇襲など「危険オンリー♡てんこ盛りぃ」な任務。
フェリペは従者と共にローレンス率いる「特別隊」の待つ部屋に向かった。
ガチャっと扉を開けると従者が「ヒュッ!」息を飲んだ。
白地の詰襟隊服に金ボタン、ひざ下までの軍靴を身に着けた「特別隊」の面々、その中で金の飾緒を肩から流しているローレンスは特に威圧感が半端ない。
汚れを落とし、髪を切り揃え、髭も剃ったローレンス。
切れ長の緋眼にシルバーグレーの髪。シュッと通り高い鼻梁、若干薄めの唇でかなりのイケメンなのだが如何せん、山で野猿の群れと格闘し、頬に引っ掛かれた傷跡がある。
フェリペの入室に組んだ長い足を降ろし、気怠そうに立ち上がる太々しい男がローレンス。
「殿下、用件を済ませましょうか」
「そう急くな。急いては事を仕損じると言うだろう」
「いや、今がね収穫時期なんで、早く帰りたいんだよ」
「収穫?なんの収穫だ」
「クルスタチオ。猿や猪との仁義なき争奪戦なんだぜ。ペーストにしたり、粗びきにすると高く売れるからな」
クルミのような固い殻に覆われていて、中身はピスタチオのような味のクルスタチオ。石臼でこのイケメンがゴロロロ~っと挽いていたり、エプロンをしてペーストにしている思うとフェリペは泣けてくる。
「元海軍将校が山のアウトドアライフを満喫するな!」
「何言ってんだか。お遊びじゃねぇよ?生活かかってんだ」
「そうっスよ。俺たちはもう板子一枚下は地獄な生活からは抜け出して地面に足つけて生きてますんでね」
ローレンス脱獄作戦の指揮官だったブールノ・ミヒィがトレードマークであるバツ印の付いたマスクをしたままでローレンスを援護する。
★余談★
ブールノ・ミヒィは見た目はクマ。名前のような「ウサたん」を感じさせる要因は皆無。特別隊の仕事でない時は妻の父親と共に酪農をしている。モーちゃん印のミルク飴は王都でも即完売のイチオシ商品。勿論ブールノ・ミヒィが大鍋いっぱいのミルクをゆっくりかき回しながら製造している。31歳で残念ながら既婚者。妻と3歳の娘を溺愛している。
「ま、まぁいい。こっちに来てくれ。今回の任務だ」
「へぇへぇ・・・待たされてサメ軟骨が痛いな」
――膝軟骨だろ!?――
ツッコミたいフェリペだがここは我慢、我慢。
ぞろぞろと白い隊服を着た特別隊が移動し始めると看護師さんがポっと頬を染めるが、「俺に惚れるなよ」のクッサイセリフに顔色は青白くなり引き攣った笑いに変わる。
一行はシンシアの眠る広い病室に通された。
ローレンスに向かってフェリペは一言。
「この女性を目覚めさせてほしい」
カッコよく決めたつもりだったが、如何せん・・・変わり者で癖が強いものばかりの特別隊。
「わぁ…ホッソイなぁ。何食ってんだろ」
「可愛いよなぁ。将校殿!お嫁さん候補にどうっすか?」
「ひゃぁ。色が白いなぁ。UVクリーム何使ってんだろ?」
寝台を囲んでワイワイやり出してしまう始末。
フェリペはこめかみをギチギチにしながら隊員を1人づつ引き剥がした。
「ちょー!ちょっと待て。お前達!寝台を囲むな!」
肩で息をしながら、額の汗を拭う。
「えっ?」ハッと見ればローレンスは寝台に腰掛けてシンシアの顔に、自分の顔を近づけていた。
「何してるんだ!!」
「何って、息してるのか確かめてるんだけど」
「確かめなくていい!生きてるから!ただ目が覚めないだけだから!」
「は?ガチで言ってんのか?殿下」
ギロッとローレンスは真顔になってフェリペに睨みを利かせた。
――何か不味い事を言ったかな?――
フェリペも滅多にローレンスの真面目な顔は見ないし、地を這うような低音の声もそう耳にするものでもない。
「目が覚めない「だけ」ってどういう事だ。物事甘く見てるんじゃないのか?少なくとも「だけ」なんて思ってるうちは何したって無理だろ」
「すまない、言葉の選択を間違えた。実は‥‥」
事の次第を説明をするのだが、シンシアをフェリペが同席していたとは言えブレキ伯爵家でのくだりになるとローレンスから殺気すら感じ取ってしまう。
説明を終えるとローレンスはシンシアの髪をひと房手に取って「よく頑張ったな。偉いぞ」一言声を掛けた。そしてフェリペに顔を向ける。
「だから王族とか上の立場に胡坐をかいてる奴はダメなんだよ。そこにいるだけで圧力を感じるんだから気配を消せ?存在を消せ?な?」
「いや、そんな事したら…まぁ…そうだな。そこは反省をしている」
「反省?生っちょろい反省なんか鼻の頭の角栓より要らねぇよ。で?動かしても大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。だが意識が戻らん。今は魔導士が生命維持に魔力を流している」
「それがこの子の飯って事か。可哀想に。美味いもん腹いっぱい食わしてやっから。そうだな…殿下、魔導士を1人貸してくれ。なんとかやってみる」
「出来そうか?」
「初めての試みに出来るか、出来ないかなんて判る訳ねぇだろが。言葉選びは初級のドリルからやり直せ。今はやるかやらないか。だ。依頼されたならやるしかねぇだろ」
完遂率100%の特別隊。
ローレンスは救護班を呼ぶとシンシアを担架に移し、魔導士を1人連れて病室を去って行った。
馬車を降り、出待ちをしていた従者に声を掛ける。
「ローレンスは来たか」
「はい。別室に控えております」
「そうか。ではローレンスをシンシア嬢に合わせるとするか」
「大丈夫ですかね」
「大丈夫だ。ローレンスは女性には殊更優しいから」
従者は「はて?」と考え込んだ。戦場の悪魔と二つ名がついた理由は隣国で将校をしていた時に、海側から砲撃をし、壊滅状態となった地で投降した住民の中にゲリラが混じっていた事から、「面倒だ」と皆殺しにした。そんな戦果が幾つもあったという【噂】からついたもの。
女、子供、年よりや病人、けが人ですら容赦をしないと言われていた。
ローレンスが亡命をした頃、その従者はまだ9歳。
今は19歳となったが当時の事実など子供が知るはずもなかった。
控室のローレンスはフェリペから「特別隊」の任を任され、かつての部下は「地元の消防団」のように招集によって集まって来る。
ちなみに「特別隊」としての仕事は誘拐された人質の救出や立て籠もり犯の捕縛、凶悪な窃盗団への物理的突入に時々レジスタンスのアジトへの奇襲など「危険オンリー♡てんこ盛りぃ」な任務。
フェリペは従者と共にローレンス率いる「特別隊」の待つ部屋に向かった。
ガチャっと扉を開けると従者が「ヒュッ!」息を飲んだ。
白地の詰襟隊服に金ボタン、ひざ下までの軍靴を身に着けた「特別隊」の面々、その中で金の飾緒を肩から流しているローレンスは特に威圧感が半端ない。
汚れを落とし、髪を切り揃え、髭も剃ったローレンス。
切れ長の緋眼にシルバーグレーの髪。シュッと通り高い鼻梁、若干薄めの唇でかなりのイケメンなのだが如何せん、山で野猿の群れと格闘し、頬に引っ掛かれた傷跡がある。
フェリペの入室に組んだ長い足を降ろし、気怠そうに立ち上がる太々しい男がローレンス。
「殿下、用件を済ませましょうか」
「そう急くな。急いては事を仕損じると言うだろう」
「いや、今がね収穫時期なんで、早く帰りたいんだよ」
「収穫?なんの収穫だ」
「クルスタチオ。猿や猪との仁義なき争奪戦なんだぜ。ペーストにしたり、粗びきにすると高く売れるからな」
クルミのような固い殻に覆われていて、中身はピスタチオのような味のクルスタチオ。石臼でこのイケメンがゴロロロ~っと挽いていたり、エプロンをしてペーストにしている思うとフェリペは泣けてくる。
「元海軍将校が山のアウトドアライフを満喫するな!」
「何言ってんだか。お遊びじゃねぇよ?生活かかってんだ」
「そうっスよ。俺たちはもう板子一枚下は地獄な生活からは抜け出して地面に足つけて生きてますんでね」
ローレンス脱獄作戦の指揮官だったブールノ・ミヒィがトレードマークであるバツ印の付いたマスクをしたままでローレンスを援護する。
★余談★
ブールノ・ミヒィは見た目はクマ。名前のような「ウサたん」を感じさせる要因は皆無。特別隊の仕事でない時は妻の父親と共に酪農をしている。モーちゃん印のミルク飴は王都でも即完売のイチオシ商品。勿論ブールノ・ミヒィが大鍋いっぱいのミルクをゆっくりかき回しながら製造している。31歳で残念ながら既婚者。妻と3歳の娘を溺愛している。
「ま、まぁいい。こっちに来てくれ。今回の任務だ」
「へぇへぇ・・・待たされてサメ軟骨が痛いな」
――膝軟骨だろ!?――
ツッコミたいフェリペだがここは我慢、我慢。
ぞろぞろと白い隊服を着た特別隊が移動し始めると看護師さんがポっと頬を染めるが、「俺に惚れるなよ」のクッサイセリフに顔色は青白くなり引き攣った笑いに変わる。
一行はシンシアの眠る広い病室に通された。
ローレンスに向かってフェリペは一言。
「この女性を目覚めさせてほしい」
カッコよく決めたつもりだったが、如何せん・・・変わり者で癖が強いものばかりの特別隊。
「わぁ…ホッソイなぁ。何食ってんだろ」
「可愛いよなぁ。将校殿!お嫁さん候補にどうっすか?」
「ひゃぁ。色が白いなぁ。UVクリーム何使ってんだろ?」
寝台を囲んでワイワイやり出してしまう始末。
フェリペはこめかみをギチギチにしながら隊員を1人づつ引き剥がした。
「ちょー!ちょっと待て。お前達!寝台を囲むな!」
肩で息をしながら、額の汗を拭う。
「えっ?」ハッと見ればローレンスは寝台に腰掛けてシンシアの顔に、自分の顔を近づけていた。
「何してるんだ!!」
「何って、息してるのか確かめてるんだけど」
「確かめなくていい!生きてるから!ただ目が覚めないだけだから!」
「は?ガチで言ってんのか?殿下」
ギロッとローレンスは真顔になってフェリペに睨みを利かせた。
――何か不味い事を言ったかな?――
フェリペも滅多にローレンスの真面目な顔は見ないし、地を這うような低音の声もそう耳にするものでもない。
「目が覚めない「だけ」ってどういう事だ。物事甘く見てるんじゃないのか?少なくとも「だけ」なんて思ってるうちは何したって無理だろ」
「すまない、言葉の選択を間違えた。実は‥‥」
事の次第を説明をするのだが、シンシアをフェリペが同席していたとは言えブレキ伯爵家でのくだりになるとローレンスから殺気すら感じ取ってしまう。
説明を終えるとローレンスはシンシアの髪をひと房手に取って「よく頑張ったな。偉いぞ」一言声を掛けた。そしてフェリペに顔を向ける。
「だから王族とか上の立場に胡坐をかいてる奴はダメなんだよ。そこにいるだけで圧力を感じるんだから気配を消せ?存在を消せ?な?」
「いや、そんな事したら…まぁ…そうだな。そこは反省をしている」
「反省?生っちょろい反省なんか鼻の頭の角栓より要らねぇよ。で?動かしても大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。だが意識が戻らん。今は魔導士が生命維持に魔力を流している」
「それがこの子の飯って事か。可哀想に。美味いもん腹いっぱい食わしてやっから。そうだな…殿下、魔導士を1人貸してくれ。なんとかやってみる」
「出来そうか?」
「初めての試みに出来るか、出来ないかなんて判る訳ねぇだろが。言葉選びは初級のドリルからやり直せ。今はやるかやらないか。だ。依頼されたならやるしかねぇだろ」
完遂率100%の特別隊。
ローレンスは救護班を呼ぶとシンシアを担架に移し、魔導士を1人連れて病室を去って行った。
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
2,971
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる