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第1章 今日、あなたにさようならを言う
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眠るわたしに、オルは魔力を流し続けた。
眠っていても、生きている。
それを維持するために。
だが、1ヶ月程前から、いくら魔力を流しても、上手く体内を巡っていないような気がした。
彼の主は、特別に王城の御典医にわたしを診察させた。
『そろそろか、と……』
言葉少なく、御典医はそう言った。
とうとうその時が来たのだと、周囲はオルを慰めた。
彼も同じ様に、その時が来た、と思った。
だが、違う意味で。
とうとうその時が来たのだと、思った。
今こそ、少年の頃からコツコツと調べ、何度も師匠と話し合い、主に話を通し、頭の中でシュミレーションしてきたあの魔法、時戻しの魔法を使う、その時が来た!と。
彼が時戻しで戻っている間は、師匠が責任を持って、代わりにわたしに魔力を流して生き永らえさせてくださっている、と言う。
自分が生きるか死ぬかの瀬戸際の話を聞かされていても実感がない。
オルの主や師匠が気遣ってくださっている自分の話なのに、御典医なんて出てくると、わたしではない誰かの物語を聞かされているような感覚になっていた。
それで、オルの話の腰を折るようで申し訳なかったけれど、わたしは口を挟んだ。
「どうして、13年前に?
勝手な話だけれど、今から8年前にモニカのご両親は亡くなったの。
貴方から見たら、18年前ね。
あの事故死を止めてくれたら、わたしとモニカは疎遠なままだった。
わたし達の関わりがなければ、毒は飲まずに済んでいたでしょう?
やはり18年は長過ぎて、無理なの?」
「18年戻る等、文献を紐解いても誰もなし得ていない。
報告がないと言うことは、もし、挑んだ先人がいたのだとしても、元には戻ってきていないんだ。
記されている最長記録は7年前だから、俺が戻った10年前さえ、師匠には無理じゃないか、と心配されていた。
とにかく、魔法は盲滅法にかけるものではなく、安全性の確証を持って行え、と俺達は魔法学院のガキの頃から叩き込まれる。
必ず文献で、そこに記された先人達の、成功と挫折の経験と結果の報告を読み込め、と教えられる」
「元に戻れる、が重要なのね?」
「その通り。
俺はずっと、学院の在学中から『時戻し』『時送り』の術について研究していたから、ギリギリ今の魔力量なら10年なら大丈夫だと思った。
だけど、実際は魔力切れでパピーになってしまった」
そうか、『戻し』があるから、『送り』もある。
それがセットで、彼は元居た23歳の場所へ戻れる。
「時戻しの魔法は決して万能じゃないのに、そう思わせる。
それ故に、時戻しを行うのは色々と取り決めがされていて、行う者は必ず魔法士の誓いを立てることが決められているんだ」
……もしかして、それはフィリップスさんが言っていた『破れば命がなくなる』という誓い?
「確かに、君の言うように、18年前に無事に戻れたとして。
前伯爵ご夫妻をあの列車に乗せないように、父上から言って貰うのは可能だ。
だが、代わりに彼等の乗った馬車は帰国途中に事故に遭うだろうし、また船旅にしてもその航路で何かは起こる。
君の父上が進言したからルートを変更して両親が亡くなれば、叔父がその死に関わっていた、と完全にモニカは疑う。
最初乗る予定だった列車が、同じ時刻に脱線事故を起こしていたとしても」
「モニカの両親がその日のその時刻に亡くなることは、必ず決まっていた?」
「それは絶対に変わらない。
俺達は時を巻き戻しても、人の生死には触れてはならない。
生死は神の領域で、絶対に手を出してはならないものなんだ」
「……人の生死に関わらない、と魔法士の誓いを立てたのなら、亡くなりかけているわたしを助けるために、時戻しを行うことはいいの?」
その時、この話を始めてから、初めてオルの瞳には輝きが戻ってきた。
「君はまだ死ぬ、と決まっていない。
そろそろ、と言われただけじゃないか!
だから、俺は賭けることにした」
……今度こそ、わたしは無神経だと、オルに嫌われるかもしれない。
だけど、彼の話を聞いて気付いてしまった。
わたしはそう言うことが耳に残るタイプだから。
「……可能だと思われる新記録の10年前に時戻しをして。
わたしの不妊かもという不安を取り除いて。
自分の代わりに3年前に時戻しをさせて……
という不確かなものに賭けることにしたの?」
「ディナ?」
「だって、わたしがあくまでも拒否する可能性の方が高かったでしょ?
貴方が言ったの、わたしは慎重だ、って!
そんな確実性の無いものに、賭けた?
わたしはさっき、何も隠さないで、と頼んだ。
それなのに、全て話してくれないのはどうしてなの?
貴方は何を隠してるの?」
わたしが何を言わんとしているのか。
気が付いたオルが、黙れ、と。
その目が訴えている。
「黙っているなら、わたしが代わりに言い当てましょうか?
貴方は魔法士の誓いを破ってまで!
これから自分の命を懸けて、3年前に戻ろうとしてる、って!」
眠っていても、生きている。
それを維持するために。
だが、1ヶ月程前から、いくら魔力を流しても、上手く体内を巡っていないような気がした。
彼の主は、特別に王城の御典医にわたしを診察させた。
『そろそろか、と……』
言葉少なく、御典医はそう言った。
とうとうその時が来たのだと、周囲はオルを慰めた。
彼も同じ様に、その時が来た、と思った。
だが、違う意味で。
とうとうその時が来たのだと、思った。
今こそ、少年の頃からコツコツと調べ、何度も師匠と話し合い、主に話を通し、頭の中でシュミレーションしてきたあの魔法、時戻しの魔法を使う、その時が来た!と。
彼が時戻しで戻っている間は、師匠が責任を持って、代わりにわたしに魔力を流して生き永らえさせてくださっている、と言う。
自分が生きるか死ぬかの瀬戸際の話を聞かされていても実感がない。
オルの主や師匠が気遣ってくださっている自分の話なのに、御典医なんて出てくると、わたしではない誰かの物語を聞かされているような感覚になっていた。
それで、オルの話の腰を折るようで申し訳なかったけれど、わたしは口を挟んだ。
「どうして、13年前に?
勝手な話だけれど、今から8年前にモニカのご両親は亡くなったの。
貴方から見たら、18年前ね。
あの事故死を止めてくれたら、わたしとモニカは疎遠なままだった。
わたし達の関わりがなければ、毒は飲まずに済んでいたでしょう?
やはり18年は長過ぎて、無理なの?」
「18年戻る等、文献を紐解いても誰もなし得ていない。
報告がないと言うことは、もし、挑んだ先人がいたのだとしても、元には戻ってきていないんだ。
記されている最長記録は7年前だから、俺が戻った10年前さえ、師匠には無理じゃないか、と心配されていた。
とにかく、魔法は盲滅法にかけるものではなく、安全性の確証を持って行え、と俺達は魔法学院のガキの頃から叩き込まれる。
必ず文献で、そこに記された先人達の、成功と挫折の経験と結果の報告を読み込め、と教えられる」
「元に戻れる、が重要なのね?」
「その通り。
俺はずっと、学院の在学中から『時戻し』『時送り』の術について研究していたから、ギリギリ今の魔力量なら10年なら大丈夫だと思った。
だけど、実際は魔力切れでパピーになってしまった」
そうか、『戻し』があるから、『送り』もある。
それがセットで、彼は元居た23歳の場所へ戻れる。
「時戻しの魔法は決して万能じゃないのに、そう思わせる。
それ故に、時戻しを行うのは色々と取り決めがされていて、行う者は必ず魔法士の誓いを立てることが決められているんだ」
……もしかして、それはフィリップスさんが言っていた『破れば命がなくなる』という誓い?
「確かに、君の言うように、18年前に無事に戻れたとして。
前伯爵ご夫妻をあの列車に乗せないように、父上から言って貰うのは可能だ。
だが、代わりに彼等の乗った馬車は帰国途中に事故に遭うだろうし、また船旅にしてもその航路で何かは起こる。
君の父上が進言したからルートを変更して両親が亡くなれば、叔父がその死に関わっていた、と完全にモニカは疑う。
最初乗る予定だった列車が、同じ時刻に脱線事故を起こしていたとしても」
「モニカの両親がその日のその時刻に亡くなることは、必ず決まっていた?」
「それは絶対に変わらない。
俺達は時を巻き戻しても、人の生死には触れてはならない。
生死は神の領域で、絶対に手を出してはならないものなんだ」
「……人の生死に関わらない、と魔法士の誓いを立てたのなら、亡くなりかけているわたしを助けるために、時戻しを行うことはいいの?」
その時、この話を始めてから、初めてオルの瞳には輝きが戻ってきた。
「君はまだ死ぬ、と決まっていない。
そろそろ、と言われただけじゃないか!
だから、俺は賭けることにした」
……今度こそ、わたしは無神経だと、オルに嫌われるかもしれない。
だけど、彼の話を聞いて気付いてしまった。
わたしはそう言うことが耳に残るタイプだから。
「……可能だと思われる新記録の10年前に時戻しをして。
わたしの不妊かもという不安を取り除いて。
自分の代わりに3年前に時戻しをさせて……
という不確かなものに賭けることにしたの?」
「ディナ?」
「だって、わたしがあくまでも拒否する可能性の方が高かったでしょ?
貴方が言ったの、わたしは慎重だ、って!
そんな確実性の無いものに、賭けた?
わたしはさっき、何も隠さないで、と頼んだ。
それなのに、全て話してくれないのはどうしてなの?
貴方は何を隠してるの?」
わたしが何を言わんとしているのか。
気が付いたオルが、黙れ、と。
その目が訴えている。
「黙っているなら、わたしが代わりに言い当てましょうか?
貴方は魔法士の誓いを破ってまで!
これから自分の命を懸けて、3年前に戻ろうとしてる、って!」
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