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死の森篇

ゆきげしきでしゅ

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 お昼ご飯は野菜たっぷりと森で採れたキノコ、ギャーギャー鳥を使った具沢山スープにパンという、とてもシンプルなもの。寒いから焚火もしているし、スープしかないってことは冷えた体を温める目的もあるんだろう。
 あとは串に刺した魚を焚火の周囲に刺して焼いたものだ。いい塩梅の塩加減で、とても美味しかった。
 幼児だからなのか、内臓は苦くて不味く感じたが。
 ご飯が終わってお茶を飲むと、移動開始。セバスさんに毛布をかけられ、抱き上げられる。

 優しい背中ポンポン攻撃!
 起きていたい幼児は、毛布にくるまれて逃げられない!
 幼児は睡魔に襲われた!
 ぐー。

 起きたら既に森を抜けていて周囲は真っ白だった。しかも雪がちらついているし、当然のことながら吐く息も白い。
 吐く息と木の棒、魔法を使って、某鬼を滅する型の呼吸でもする? 魔法があるから簡単に真似できそう。
 ……誰もネタがわからないだろうから、やらないけど。
 おっと、私を支えている人にご挨拶をしないと。振り向けばセバスさんが真剣な目と表情をして、前を見据えていた。

「セバスしゃん?」
「おや。おはようございます、ステラ」

 私が声をかけると、真剣な目と表情から一転、微笑みを浮かべる。素敵やー!

「おはよーごじゃいましゅ。にゃにかありまちたか?」
「特にありませんよ」

 ステラが寝てから山をひとつと森を三つ抜けましたよとセバスさんに言われ、遠い目になる。ずいぶん速く移動したんだね。
 魔物や植生はどうなのか聞くと、午前中とたいして変わらないそうだ。ただ、中には私が鑑定していない植物があるらしく、それはテトさんとキャシーさんが採取し保管しているから、あとで見せてもらえばいいと教えてくれた。
 おお、どんな植物なのかな。楽しみだな♪
 そんなことを考えているうちに、また森の中へと侵入する。このあたりになると地面だけじゃなくて木々にもうっすらと雪が積もり、風に揺らされた枝から雪が落ちるのが見えた。
 パッと見ただけだから正しいことはわからないけれど、三、四センチってところかな? 地面はどれくらい積もっているのかわからんが。
 セバスさんによると、今駆け抜けている森とあともうひとつ森を抜け、山を越えるとまた森になり、平原が見えてくるという。その森の出口に小さな村があるそうだ。
 村というよりは集落に近い軒数しかないらしい。村人の人数も少ないことから、商店と食堂が一軒ずつしかなく、宿もないんだそうだ。

「ほえ~……」
「ですから、一冬籠るにしても、その村ではなく、その先にある大きな町に行くつもりです」
「しょうなんれしゅね」

 なるほど。
 今のスピードなら、その小さな村まで行くのに明日の夕方には着くらしい。滞在予定の大きな町だと、明後日の昼か夜くらいになりそうだとセバスさんが教えてくれた。
 けれど、それは今降っている雪の状態と積雪が少ない場合であって、もし予想よりも積雪が深いとなると、もう一日かかりそうだと考えているんだって。
 とはいえ、バトラーさんは地面を走るというよりもかけるという状態だから予想よりも早く着く可能性もあるんだとか。問題は、テトさんとキャシーさん、セレスさん。
 キャシーさんはともかく、テトさんとセレスさんは人型になっている関係で、地面を走っているのだ。それに、雪が舞っている状態なので、キャシーさんの下の蜘蛛さんにも影響が出ているのか、徐々にスピードが落ちているのが現状だそうだ。
 ああ、そうか。いくら魔物といえど、蜘蛛だものね。虫は寒さに弱いし。
 だから、そろそろ全員でバトラーさんの背中に乗るか、セバスさんかセレスさんがドラゴンになって空を飛ぶかするかもしれない、とのこと。

「ふおおぉぉ! しょらをとんでみたいでしゅ!」
「ステラは可愛いことを言いますね。まあ、どうするかは相談してからですし、飛ぶにしてもどのみち明日ですよ」
「しょれでもいいでしゅ!」
「ふふっ! かしこまりました。夕食の時に話し合いをいたしましょう」
「あい!」

 おお、話し合い決定ですな!
 空を飛んでみたいけれど、きっと寒いよね。服での防寒もだけれど、懐炉かいろ温石おんじゃくでも作ってみようか。さすがにカイロの材料なんて知らないし。
 懐炉ならセバスさんに炭を入れるための入れ物を作ってもらって、キャシーさんに火傷しない程度の厚さの布を作ってもらい、それでくるむくらいならできそうだもの。金属の関係で入れ物が作れないなら、落ちている石を使って温石を作ればいいし。
 あとで聞いてみよう。

 ……ふと思ったんだが、大人たちは全員神獣なんだから、防寒対策はバッチリなんじゃ……。上半身なキャシーさんが平気な顔をしてるんだぞ? 何かしらの対策はしてそうだよねぇ。
 どのみち相談したほうがいいのは確かだけれど、大人たちが私に風邪をひかせるようなことをするとは思えない。きっと何かしらの対策を講じてくれるだろう。
 それくらい溺愛されているってめっちゃ肌で感じてるからね。
 とりあえず、今日中に山の麓まで行きたいらしく、それぞれが動いている。そんな中、とうとうキャシーさんが遅れ始めた。

<スティーブ、乗れ。他の者もな>
「ありがとう、助かるわ。この子が寒さで限界だったの」
「僕は魔物になれば大丈夫だよ」
「あたしもまだ平気よ」
<わかった>

 一旦停まり、キャシーさんがバトラーさんの背中に飛び乗ってくる。慌てて黒猫の鞄から大きな毛布を出し、寒そうにしていた蜘蛛さんの背中にかけると、キャシーさんからお礼を言われた。

「この子もお礼を言っているわ。ありがとう、ステラちゃん」
「どういたちまちて。キャシーしゃんはしょろしょろおようふくをきたほうがいいでしゅ」
「そうね。さすがにアタシも寒いわ」
「でしたら、さっさと着てください。見ていて寒々しい」

 だったら着ろよ! と内心で激しく突っ込んでいたら、セバスさんに突っ込まれていた。
 ですよねー! 寒々しいですよねー!
 ぶーたれて文句を言いつつも、素直に服を着るキャシーさん。長袖のTシャツに近いものと革のコートを着たあと、私がかけた毛布の上からもっと大きな毛布を取り出し、蜘蛛さんにかけている。
 毛布というよりも毛皮に近い、毛足の長いものだ。
 あったかそうだと思って毛布を巻いたまま蜘蛛さんに近づくと、手になる部分を器用に使い、私を抱きしめてから頭を撫でてくれる。

「しゃむくないれしゅか?」
「大丈夫だそうよ」
「しょれはよかったれしゅ」

 寒くないならよかったとにへら~としたら、蜘蛛さんはまるでお礼を言うように、もう一度抱きしめてくれた。なんとも素敵な蜘蛛さんや~。
 キャシーさんがバトラーさんの背中に乗ったあと、順調に森の中を進んでいく。すぐに森が切れて平原になったあと、また森の中へ入る私たち。
 空は曇天に覆われ、そこから大粒の雪が降ってくる。それを眺めつつセバスさんとキャシーさんと話をしていたら、いつの間にか平原に出ていて山の麓についていた。
 今日はここで泊まるんだって。
 家を出したテトさんは、すぐに中へと入る。あとを追うように私たちも中へと入り、まずはダイニングにある暖炉に火を熾した。

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