癒しの聖女、その泪が枯れ果てる時

    ──私の泪は、愛せぬ人しか癒せない。


 その街に生まれ継ぐ癒しの聖女には、治癒という呪いが掛けられていた。
 人体に触れるだけで、どんな病魔も払い除け全癒する聖女の”泪”。

 ──その泪に含まれるのは、聖女自身の生命力。

 故に、治癒とは聖女の寿命を分け与えることであり、彼女達にとっては呪いだったのだ。

 主人公イリスも、聖女の一人。
 泪のほとんどを使い果たし、十九歳の若さで虫の息だった。
 僅かなる余生は、高貴崇高な公爵貴族ローランド家の子供を身籠り、次世代の聖女を残すのみ。

 そんなイリスには、たった一つだけ心残りがあった。
 
 ──義弟エリクの虚弱体質を治癒できないこと。

 エリクは、癒しの力を授からず、ローランド家の子供でないことから、悪魔の子と呼ばれ、忌み嫌われていた。

 ──だけどイリスにとって、世界で一番治癒したい宝物だった。

 イリスがローランド家に掛け合うも、認められず、二人は物置小屋に幽閉される。
 使命の放棄、聖女の恥だと、ローランド家子息のリューク、その恋人のニーナからの暴虐の嵐が降り注ぐ。

 ──本当に愛する人だけを癒せないまま、死ぬしかないのか。


 イリスは、夢を見る。


 先代の聖女、母親との夢。

 
 息も絶え絶えの母は、幼き私を見て、確かにこう言った。


 ──悲劇は幸福の伏線でなければならない、と。
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