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一章 逸脱者

8.ズッ友だよ

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「ここを出たら……どうしようかな」

 僕は誰ともなしに呟いた。

「ガイアス様……お戯れを」

 それに対し、アリエスは目を伏せ気味にそう言った。

「僕は本気ですよアリエスさん。恐らく父、いえ陛下だってそう思っているはずです。でなければわざわざアリエスさんを当てがって学ばせる事もないです」
「そんな事は!」
「ありますよ。アリエスさんが僕の事情を知る唯一の臣下だっていうのは分かります。ですが教鞭を取る必要はないはずです。毎日食事を運び、僕の希望があればそれを聞いていただく。それだけでいいのですからね。それに、アリエスさんにだって、他にやらなければならない仕事だってあるはず。だのに陛下はそうはさせず、僕の傍に置いてくれている。本当にお優しい方です、国を統べ人を導く、まさに法王です」
「さすが陛下のお子様ですね。いやはや……まったく……」

 アリエスは少し困ったような顔をした。
 多分だけど、父から何か言われているのだろう。
 父から期待されていないのは分かっている。
 正直僕だって期待していない。
 だけどそれが悲しいとか、そういう感情にはならない。
 こうして独り立ちのお膳立てを、下地をしっかり作ってくれているのだから、感謝しかない。
 僕は父の息子でよかったと、誇りに思える。
 その誇りがあればきっと、どこにいたって僕は生きていける。
 そう思いながら僕は開け放たれた窓を見る。
 空には綺麗な満月が浮かび、柔らかな風がカーテンを揺らし、僕の頬を優しく撫でた。



   ■



 僕が死んでから五年が経った。
 晴れて十五歳になった僕は、塔の窓から兄姉達の成人パレードをぼんやりと眺めていた。
 パレードは王都を一周し、王宮へ帰れば式典が始まる。
 今日は成人の日、めでたい祝日だ。
 王都中の民達が祝い、食べ、飲んで騒ぐ。
 もっとも僕からすれば、今日はお祝いなんて出来るもんじゃない。
 明日の朝。
 明日の朝こそが、僕がこのエレメンタリオを立つか地の使徒候補として再臨できるかの分水嶺だ。
 この部屋にも随分と物が増えた。
 僕専用の剣に槍、大鏡に本棚もある。
 色々な事を書き記したノートは百冊を超えた。
 地理、歴史、魔法、文化、遺産などなどこれから為になるような事は全てノートにまとめて記憶し、頭の中の大図書館にしまっている。
 知識を得たいが為に、アリエスに無理を言って禁書庫の本読ませてもらい、じっくりしっかり読み込んだ。
 もちろん国に関わる重要文書などは手を出してない。
そこらへんの分別はちゃんと弁えている。
体も申し分ないくらいに鍛え上げた。
 爆発しそうな大胸筋、城壁のようなデカい広背筋、攻城兵器のような太さの上腕二頭筋、馬車を乗せているかのような三角筋、パッキリと八つに割れた腹筋、巨木の根のような下半身。
 仕上がってるよ仕上がってるよ!
 とまぁ、冗談はさておき。
 ガチムチマッチョなゴリラ体型とは言わないけれど、よく引き締まり張りのある体に仕上がっている。
 毎日大鏡の前でポージングをし、よく自画自賛していたものだ。
 適性はまだ分からないけれど、魔力のなんたるかはアリエスからしっかりと学んでいる。
 体術もアリエスから太鼓判を押されている。
 剣術はまぁ……対戦相手がいないので実力は分からないけれど、多分上達しているはずだ。
 最初はしんどかった孤独とも、今ではすっかり打ち解けてズッ友のような存在だ。
 なんせアリエスの授業が無い時は、食事の時以外ずっと一人だったのだから。
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