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本編
42 聖女達のお茶会
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「シャーロットさんの刺繍入りのものは、繊細な出来だと評判ですよ」
「…………」
「院の子供達も新しい服が届くのを楽しみにしてました」
部屋で子供服を縫っていると、ダイアナがお茶とお菓子の差し入れをしてくれて、そのまま私の部屋でティータイムとなっている。
でも私は、作業の手を止めずにダイアナの話を聞いているだけだ。
それでも構わないと言うので、部屋で一緒に過ごしていた。
今は、頼まれた子供服をたくさん作っている。
飾りも何も無いシンプルなデザインだけど、これを待っている子供達がいるのなら、一針一針心を込めながらも作業の手を急がす。
「それから、先生も覚えが早くて作業が丁寧だと、ベタ褒めでしたよ。レオンも、シャーロットさんからいただいたハンカチを常に持ち歩いて大切にしているそうですね」
そこで、部屋の入り口に立っていたレオンを見ると、顔を赤らめて視線を逸らしていた。
「ごめんなさいね。レインが勝手に喋っていたの」
「それは、想像できますけど……」
ニヤニヤしながら聞いてもいない事を喋ってそうだ。
「心を込めて自ずから刺繍したものを手渡す。素敵なことです」
ダイアナは、うっとりとした表情でどこかを見つめている。
意味はもう、聞かないことにした。
「いつか私も、レインに受け取らせたいと思います」
『渡す』ではなくて、『受け取らせる』だから、ニコニコしているダイアナからは、威圧に近い、見えない何かを感じていた。
「レオンも、そろそろこっちに来て、一緒にどうですか?」
「いえ、俺は……」
レオンはそこから動こうとしない。
何度も一緒に食事をしたり、お茶を飲んだりしているのに、どうして今さら遠慮するのか、ダイアナに遠慮しているのかな。
「レオンは、シャーロットさんの部屋にいるから緊張しているのですよ」
うふふと笑う。
レオンに顔を向けると、ダイアナの言葉を肯定するかのように視線を彷徨わせている。
目のやり場に困ると言いたげだ。
扉を隔てた向こう側は寝室だけど、こっち側はただの作業部屋だ。
その辺の感覚が違うのは、レオンの育ちの良さ故なのかな。
それを思えば、侯爵家の家名を持つレオンをいつまでも部屋の隅に立たせておくのもどうかと思う。
「レオンもここに座ってくれませんか?お願いします」
そう声をかければ、部屋の中を歩いて来て、窓側に置かれたこの場におずおずと座ってくれた。
レオンが座った途端に、モフーが足下を走り抜けて行って、膝まで登るのが見えた。
レオンは、モフーを見もしないうちから、条件反射のようにモフモフと聞こえないはずの音がしそうなほどに撫で回している。
自分の部屋に連れて行ってくれないかと思うけど、モフーは私のところから離れようとはしない。
「同じ年頃の女性となかなか話す機会がないので、シャーロットさんがお部屋で過ごす許可をしてくれたこと、嬉しく思っているのですよ」
レオンの前にティーカップを置きながら話すダイアナは、無邪気とも言っていい様子だ。
「……それは私も同じでした」
だから、つい私も本音を漏らしていた。
ヨハンさん以外の人と話す機会と言えば、大聖堂に訪れた人くらいだ。
今は、自分の仕事を与えてもらえて、やりたい事もできて、行きたい所へも行ける。
時には意味のない会話もして、ここで、こんなにも普通の生活が送れるとは思わなかった。
「ふふふっ。これでもう、私達はお友達ですね」
はたしてダイアナを気軽に友人と呼んでいいのか。
「友達、ですか……」
今まで友人と呼べる存在がいなかったから、どんな基準でどんな風になれば友人となるのかがわからない。
辞書を調べれば載っているものなのか、でも、目の前に座っている楽しそうなダイアナの顔を見るのは、悪い気分にはならない。
「ところで、騎士団の方はそろそろアレの時期ではないですか?」
今度は、レオンに話しかけている。
アレとはなんだろうと思うけど、私には関係ないことだから手元の作業に集中する。
「そろそろ準備が必要では?」
「はい。でも、それはレインも同じだと」
「今回も諦めることにしますよ。でも、レオンは違いますよね?」
「それは、まぁ、そうなのですが……」
何となく視線を感じて顔を上げると、二人は私を見て何かを言いたげだった。
「何でしょうか?」
ダイアナが、チラッとレオンに視線を向けて何かを促す。
「いや、あの……実は…………」
「レオン!兄貴が頼まれていた物ができたと、お前の事を呼んでいたぞ。最近、実家に帰ってないだろ」
言葉の途中でノックもなくドアを開けて入って来たのは、もちろんレインさんだ。
チッと、ダイアナの口から舌打ちが聞こえた。
それに驚いたというのに、ダイアナはレインさんの胸ぐらを掴むと、鬼の形相で部屋の外に引き摺り出していた。
尊敬され、慕われている聖女の姿はどこにいったのか、部屋に残された私とレオンは、唖然としながら閉じられた扉を眺め、少しして我に返る。
「あ、話の続きをどうぞ」
続きを促したのだけど、
「あ、いえ、また今度で……」
言葉を濁したレオンは、続きを話すことはなかった。
「モフーに砂浴びをさせてきます。俺はそこの窓の外にいるので、出来上がったものを運ぶ時は声をかけてください」
モフーを腕の中に抱くと、何だか逃げるように部屋から出て行った。
それから少ししてダイアナが戻って来たけど、特に何も聞いていないと、尋ねられた事に答えたら、今度は窓の外に怖い顔を向けている。
月の大陸の聖女を怒らせたら怖いということしか、私には理解できる事がなかった。
「…………」
「院の子供達も新しい服が届くのを楽しみにしてました」
部屋で子供服を縫っていると、ダイアナがお茶とお菓子の差し入れをしてくれて、そのまま私の部屋でティータイムとなっている。
でも私は、作業の手を止めずにダイアナの話を聞いているだけだ。
それでも構わないと言うので、部屋で一緒に過ごしていた。
今は、頼まれた子供服をたくさん作っている。
飾りも何も無いシンプルなデザインだけど、これを待っている子供達がいるのなら、一針一針心を込めながらも作業の手を急がす。
「それから、先生も覚えが早くて作業が丁寧だと、ベタ褒めでしたよ。レオンも、シャーロットさんからいただいたハンカチを常に持ち歩いて大切にしているそうですね」
そこで、部屋の入り口に立っていたレオンを見ると、顔を赤らめて視線を逸らしていた。
「ごめんなさいね。レインが勝手に喋っていたの」
「それは、想像できますけど……」
ニヤニヤしながら聞いてもいない事を喋ってそうだ。
「心を込めて自ずから刺繍したものを手渡す。素敵なことです」
ダイアナは、うっとりとした表情でどこかを見つめている。
意味はもう、聞かないことにした。
「いつか私も、レインに受け取らせたいと思います」
『渡す』ではなくて、『受け取らせる』だから、ニコニコしているダイアナからは、威圧に近い、見えない何かを感じていた。
「レオンも、そろそろこっちに来て、一緒にどうですか?」
「いえ、俺は……」
レオンはそこから動こうとしない。
何度も一緒に食事をしたり、お茶を飲んだりしているのに、どうして今さら遠慮するのか、ダイアナに遠慮しているのかな。
「レオンは、シャーロットさんの部屋にいるから緊張しているのですよ」
うふふと笑う。
レオンに顔を向けると、ダイアナの言葉を肯定するかのように視線を彷徨わせている。
目のやり場に困ると言いたげだ。
扉を隔てた向こう側は寝室だけど、こっち側はただの作業部屋だ。
その辺の感覚が違うのは、レオンの育ちの良さ故なのかな。
それを思えば、侯爵家の家名を持つレオンをいつまでも部屋の隅に立たせておくのもどうかと思う。
「レオンもここに座ってくれませんか?お願いします」
そう声をかければ、部屋の中を歩いて来て、窓側に置かれたこの場におずおずと座ってくれた。
レオンが座った途端に、モフーが足下を走り抜けて行って、膝まで登るのが見えた。
レオンは、モフーを見もしないうちから、条件反射のようにモフモフと聞こえないはずの音がしそうなほどに撫で回している。
自分の部屋に連れて行ってくれないかと思うけど、モフーは私のところから離れようとはしない。
「同じ年頃の女性となかなか話す機会がないので、シャーロットさんがお部屋で過ごす許可をしてくれたこと、嬉しく思っているのですよ」
レオンの前にティーカップを置きながら話すダイアナは、無邪気とも言っていい様子だ。
「……それは私も同じでした」
だから、つい私も本音を漏らしていた。
ヨハンさん以外の人と話す機会と言えば、大聖堂に訪れた人くらいだ。
今は、自分の仕事を与えてもらえて、やりたい事もできて、行きたい所へも行ける。
時には意味のない会話もして、ここで、こんなにも普通の生活が送れるとは思わなかった。
「ふふふっ。これでもう、私達はお友達ですね」
はたしてダイアナを気軽に友人と呼んでいいのか。
「友達、ですか……」
今まで友人と呼べる存在がいなかったから、どんな基準でどんな風になれば友人となるのかがわからない。
辞書を調べれば載っているものなのか、でも、目の前に座っている楽しそうなダイアナの顔を見るのは、悪い気分にはならない。
「ところで、騎士団の方はそろそろアレの時期ではないですか?」
今度は、レオンに話しかけている。
アレとはなんだろうと思うけど、私には関係ないことだから手元の作業に集中する。
「そろそろ準備が必要では?」
「はい。でも、それはレインも同じだと」
「今回も諦めることにしますよ。でも、レオンは違いますよね?」
「それは、まぁ、そうなのですが……」
何となく視線を感じて顔を上げると、二人は私を見て何かを言いたげだった。
「何でしょうか?」
ダイアナが、チラッとレオンに視線を向けて何かを促す。
「いや、あの……実は…………」
「レオン!兄貴が頼まれていた物ができたと、お前の事を呼んでいたぞ。最近、実家に帰ってないだろ」
言葉の途中でノックもなくドアを開けて入って来たのは、もちろんレインさんだ。
チッと、ダイアナの口から舌打ちが聞こえた。
それに驚いたというのに、ダイアナはレインさんの胸ぐらを掴むと、鬼の形相で部屋の外に引き摺り出していた。
尊敬され、慕われている聖女の姿はどこにいったのか、部屋に残された私とレオンは、唖然としながら閉じられた扉を眺め、少しして我に返る。
「あ、話の続きをどうぞ」
続きを促したのだけど、
「あ、いえ、また今度で……」
言葉を濁したレオンは、続きを話すことはなかった。
「モフーに砂浴びをさせてきます。俺はそこの窓の外にいるので、出来上がったものを運ぶ時は声をかけてください」
モフーを腕の中に抱くと、何だか逃げるように部屋から出て行った。
それから少ししてダイアナが戻って来たけど、特に何も聞いていないと、尋ねられた事に答えたら、今度は窓の外に怖い顔を向けている。
月の大陸の聖女を怒らせたら怖いということしか、私には理解できる事がなかった。
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