悪役令嬢不在の世界で、ヒロインは自分を苛め始めた

 乙女ゲーム『薔薇の宮廷恋物語』の世界に、名前も出ないモブ令嬢として転生したクリスティアナ。

 平穏な人生を願う彼女の前に現れたのは、本来なら凄惨な苛めを受けるはずのヒロイン、アメリアだった。

 しかし、この世界には致命的な欠陥があった。ヒロインを底なしの絶望へ突き落とすべき「悪役令嬢」が、どこにも存在しなかったのだ。

「どうして誰も私を苛めてくれないのっ!?」

 物語を動かす「試練」を渇望するあまり、ヒロインは自ら悪役令嬢を演じ、一人二役の自作自演を始めてしまう。自分で自分を罵倒し、痣を作り、泣き叫ぶヒロイン。

 その歪な輝きに魅了されたクリスティアナは、彼女を救うのではなく、彼女の「悲劇」を執筆する黒幕(プロデューサー)になることを選ぶ。

「アメリア、次はもっと見えるところに痣を作りなさい。……殿下の独占欲を煽るために」

 救済を拒むヒロイン。
 狂信的に彼女を閉じ込める王太子。
 そして、その地獄を愉悦と共に書き続けるモブ令嬢。

 悪役令嬢不在の世界で、三人の狂った共依存が始まる。

 これは、甘やかな絶望に溺れる少女たちの、救いのないハッピーエンドの記録。



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