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【陸王遼平】

実は俺、小動物が大好きなんです(身長197㎝男性)

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「わ、わからない。友達なんて遼平さんしか居ないのに誰だろう……」
「待て、俺が出る」

 立ち上がろうとした葉月を止める。このアパートにはドアスコープさえ無いから中から来客の確認が出来ない。
 変な奴だったら脅して追い払わないとな。

 まだスーツさえ着替えないままドアを開く。
 そこに居たのは。

「よ。こんばんはー」

 能天気な笑顔の静だった。

「わ、静さん。こんばんは!」

「ちょっと待て、どうしてここが判ったんだよ」

「お前の後をつけて来ただけだよ。入ってもいい? 葉月君」
「む、むさ苦しい所ですがどうぞ」

「全然むさ苦しくなんてないよー。むさ苦しいのはこの男だけ」と笑いつつ、俺を押し退け中に入って来た。
 抱えていた箱を床に下ろす。

「これ、オレの実家から送られてきたんだけど、オレは料理できないから葉月君が使ってくれないかな」
「?」

 静が箱を開く。
 中に入っていたのは色とりどりの野菜だった。

「で、お願いがあるんだけど。葉月君の料理をオレにも食わせてくれないかな? 遼平が食ってる弁当が超美味そうだからオレも食ってみたくって」
「ふざけんなよお前……。いくらなんでも厚かまし過ぎるだろうが。さっさと帰――」

「す、すごい、宝の山だ……! 遼平さん、このトマト見て、こんな大きいのはじめて見たよ! 静さんの家って農業やってるんですか? こんな美味しそうな野菜が出来るなんてすごい……! 食べたい料理って何ですか? 何でも言ってください!」

 追い払おうと一歩進んだ俺を他所に、葉月がキラキラと目を輝かせた。

「卵焼きが食いたいな。あと、二本松がミートボールが食いたいって」
「わかりました!」
「コラ! せめてお前が持って来た野菜を使う料理にしろよ! しかも二本松の要望ってなんだ」
「ホラ、まっちゃんもオレも、今、彼女居ないし碌に料理できないだろ? たまには美味い家庭料理が食いたくて」

「美味しそうなキュウリ……。酢の物と浅漬け、どっちがいいですか? ごぼうはキンピラと煮物の両方作りますね! 日曜日にお仕事が入ったんですよね? 僕、日曜が休みだから皆さんの晩御飯の準備します」

「わーお。酢の物も浅漬けも大好きだよ。選べないなぁ。日曜日か。楽しみにしてる。葉月君の食事が食べられるなんて仕事がんばっちゃうよオレ」

「遼平さん、ナスがあるよ! 何が食べたい? 焼き茄子? 味噌炒め? 挽肉と炒めても美味しいよね……!」

 新鮮な野菜を目の当たりにして、葉月のテンションがマックスまで振り切ってしまっている。
 静の口説きを完全にスルーだ。

「挽肉と炒めたのが食いたい」
「了解です。日曜に楽しみにしててね。皆さん何時に来られますか?」
「えと、確か、十九時には上がれるはずだったかな?」
「だな」

 部屋に居座ろうとした静を追い出し、きゃあきゃあはしゃぎながら野菜を冷蔵庫にしまう葉月に向き直る。

「せっかくの休みなのに三人分の料理なんかさせていいのか? 俺から断ろうか?」
「暇だから気にしないでいいよ? この野菜、三人分に使うには多すぎるよね。僕達だけでも食べていいかなぁ」
「当然だろ。……悪いな。俺の友人の世話までさせて」

 冷蔵庫の前に座りこんだ葉月の横にしゃがみ込み、頭をぽんと撫でる。

「遼平さんの大事な人は僕の大事な人だよ」

 屈託無くありがたい事を言ってくれる。
 別にあいつらは大事じゃないがな。

 せっかくの休みに家に篭らせて料理だけさせるってのも心苦しいもんだ。
 ちょっとした気分転換ぐらいはさせてやりたいな。

 そうだ。

 俺の部屋に連れて行くってのはどうだ?
 まだ一回も招待してないからいい機会じゃないか?

 いや、駄目だ。

 俺の部屋には人にドンビキされるいろんな要素が散ばりっぱなしだった。
 壁にかけた猫の写真とか、犬と猫が仲良く寝てる写真とか、ハムスターの写真とか、プレーリードックの写真とか、写真集とか、衝動買いしたトレーニング機器とか。

 自宅に機材置くぐらいトレーニング好きってのも、壁に写真を飾るぐらい小動物好きってのも、相当、人に受けが悪い。
 歴代彼女達にもドン引かれて来た。
 
 全部処分してから呼ばないと――――待った。まずは葉月の反応を見よう。俺の部屋に散らばっている物は俺が好きなものばかりだ。
 静も言っていたが、葉月は気立てがいい。俺が甘い物好きだって知った時だって引かなかった。ひょっとしたら、俺が動物好きだと知っても許容してくれるかもしれない。

 よし。そうしよう。

「葉月、今度の土日に、“二本松の部屋”に行かないか?」

 俺の部屋だとはいわず、二本松の部屋って言って連れて行き、ドンビキされたら全部捨てて無かったことにしよう。

 すまん。二本松。葉月のミートボールとタコさんウインナーを食った恨みを思い知れ。

 俺の住む部屋はこの街でも一際目立つタワーマンションの一室である。
 業種が業種だけに、二本松や静にせっつかれ、住んでいたボロアパートから引越したのだ。

 正直に言うと、建物の外観が綺麗って所だけが利点で、その他の全ての面において昔住んでいたボロアパートが勝っている。
 オートロックのエントランス。鍵がないと反応しないエレベーター。ちょっと買い物に出るのも面倒くさいことこの上ない。

 しかし、やはり、眺望が良い。階層は四十五階。窓からは街が一望できる。

「うわあああ……! すごい、すごい、『ホコホコ弁当』があんな小さい……!」

 土曜日の夜。

 連れてきた葉月は真っ先に窓に飛びついた。窓と言っても壁面全体がガラス張りになっている巨大なものだ。

「高い……、恐い……! こんな高級なマンションに住んでるなんて、二本松さんって大金持ちだったんだね」

 『二本松が出かけるから月曜日の朝まで留守番を頼まれた』という口実で葉月をここに連れてきた。

 土曜日の夜から月曜の朝までのお留守番だ。
 だが、二本松は日曜日にここで晩飯を食う。
 矛盾を突っ込まれるかと思ったが、葉月は言葉を一つも疑うことなく、お泊りの準備をして俺に付いて来た。

 素直な子だ。その反面、変な奴に騙されやしないかと少々不安になる。

「遼平さん、僕達が始めてご飯を食べた公園も見えるよ」
「思い出の公園かぁ……一年後にまたあそこで弁当食うか。俺と葉月が仲良くなった記念に」

「――――!!! うん」

 葉月が俺の服の袖を握った。

「一年後……楽しみ」

「さて、二本松が居ない隙に部屋の散策でもしてやるか。おいで」

 問題の動物の写真やトレーニングマシン。
 さて、葉月はどんな反応をするだろうか。

「い、いい歳した男が部屋に小動物の写真を飾るなんて変だよなぁー」

 かなりの棒読みになってしまった。
 頼むからドン引きしないでくれよ、葉月……!!!
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