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閑話 聖女ヒルダ6
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王宮の庭にもククの木が沢山ある。
理由はやはり飢饉の時や何等かの有事に際して保存が効く果実だからだ。
綺麗な花も咲くので観賞にも適している。
王宮での生活は相変わらずで、国王は私と共に過ごす時間を取る為に無理しているんだろうけれど出来る限り作ってくれていた。
そろそろ神殿を出て王宮で暮さないかと打診されたけれど、魔人を元の世界に帰してからじゃないと神殿から離れることが出来ないから返事は濁している。
最近のオズワルドは優しかった。
心のこもっていない愛想笑いも少し減ってきている気がする。
笑うと16歳らしい表情に戻るけれど、本人はそれを指摘するとすごく嫌みたい。
無理に大人っぽくする必要はないし、急いで大人になる必要もないのに。
私は魔人を元の世界に戻す為にもう一度神様からこの世界に来るチャンスを与えられたと思っている。
他の世界へと続く歪みを作り出そうとすれば、私の全ての力を使えば叶うはず。
でもそれを行えば私は力を失いオズワルドの隣に立てる聖妃ではなくなってしまう。
それがわかっているのにオズワルドと結ばれての本当の意味での聖妃になれないのだ。
王宮の庭にあったはずのククの木の根元を見てもククの実がまったく見当たらなかった。
この間までは幾つか転がっていたはずなのに・・・
辺りを見渡すと侍女と目が合った。
「ねぇククの実が落ちている所を知らないかしら?」
「さっ・・さあ、申し訳ございません」
何かを隠している表情で頭を下げた。
上を見上げればククの実は沢山実っている・・・
「わかったわ」
私は太いククの木の幹にしがみ付いた。
「ククの実がここにあるのは知ってるんだから!!」
◇◇◇
オズワルドはヒルダが王宮の庭からなかなか戻って来ないという連絡を受けて迎えに行くことにした。
聖妃教育を一切受け付けないヒルダは王宮の中を自由に歩き回っている。
「神殿だといつも地下の反省室だから王宮に居る時くらいは太陽を浴びないと体を壊しちゃうわ」
ヒルダが王宮に来た時に漏らしていた言葉だが、それが冗談ではないことは報告書ですでにオズワルドは知っていた。
近頃は反省室にヒルダを入れているほうが神殿の業務が滞りなく行えると反省室で暮らすことが長くなっているのはどうかと思う。
「ヒルダは私の聖妃だぞ、彼女が神殿の事でちょっとへそを曲げる程度でそのような仕打ちをするのか・・・」
ククの実を投げられた神官は回復魔法で元に戻っているから問題ないだろうと、ヒルダを庇うオズワルドに臣下の者はさすがに同意出来なかった。
そんな報告書が上がっていたから王宮ではヒルダの目に止まるところにはククの実を回収するようにと伝達があり、夜に落ちたククの実は早朝ヒルダの起きる前に撤去されることになった。
王宮の庭に近づくにつれて騒がしい。
何に対して騒いでいるのだろうとオズワルドが近づくとククの木の下で数人騒いでいる侍女達がいた。
「いったいどうしたのだ?」
そう訊ねたが、すぐに視界にチラチラ見えるドレスが飛び込んできた。
ククの木の高い場所でまだ落ちていないククの実を枝からもぎ取っているヒルダが居たからだ。
後ろから着いてきていた宰相が顔を歪めた。
「国王陛下、聖妃様ですが・・・」
「あぁ、可愛いだろう、まるで果実を啄みに来た小鳥のようだね」
誰もその声に同意せず、かなり高い場所まで上っているので助ける事も出来ずに困っていた。
「ヒルダ!もう昼食の時間だ、一緒に食事を取ろう」
「ねぇオズワルド、ククの実が何処にもなかったんだけど、王宮ってそんなに飢えているのかしら?」
ククの木は村一つ守れる位に沢山の実を付けてくれるので、大量の果実はどこにでもあるありふれた果実として市場でも売られている。
その果実が一つも落ちていないのがヒルダは気になっていた。
「あぁ、それは私が片付けさせた!ヒルダが触ったククの実をぶつけてもらえる遊びなんて他の者にされたら私が焼きもちを焼いてしまうからな」
シュッ
シュ シュ
オズワルドの方へ何かが勢いよく飛んでくる。
ヒルダが木の上からオズワルドを狙ってククの実を投げているのだ。
「王宮にはククの実を拾いに来たのよ!邪魔しないで!!」
オズワルドは防御のシールドを張れるが硬いククの実がぶつかる度に殻が割れて中から甘い香りの果実が顔を出している。
国王扱いもせずに挙句にこの仕打ちにオズワルドは笑いが込み上げてきた。
「ヒルダ!愛してる!!」
「こんな所で言わないでよ!!」
一つもオズワルドに当たることなくヒルダの手元にあったククの実は全て無くなってしまった。
ぜーぜーと肩で息するヒルダに何事もないようにオズワルドは両手を広げた。
「木は登るより降りる方が大変だろう。ここに飛んで来い!私は受け止めれるから」
両手を広げるオズワルドを見てヒルダは即答で断るが、木を降りるのは苦手な様子で考えているようだ。
「ヒルダこっちだ!」
オズワルドは両手を振り胸に飛び込むようにアピールする。
オズワルドも風魔法を使えるのでシールドを張ったり落ちてくるヒルダの下に風の圧をかけ速度を落とすことが出来るが、ヒルダも風魔法を使えるのでオズワルドのいる方角とは別の場所に向かい飛び降りた。
風を使い空中で落ちる速度を抑えようと試みたが、ヒルダの体は思っても見ない風に流されてオズワルドの腕の中へと降りた。
「ヒルダが遠慮しているみたいだったからこっちに向かう風を作っておいたんだよ。案の定私の腕じゃないほうに飛んだから捕まえることが出来た」
にこにこと嬉しそうにヒルダを抱きしめるオズワルドの腕の中から逃れようとするが、前回のように二人の体の間に風を潜り込ますことが出来ない。
「ああ、もう可愛いなぁ」
オズワルドは年下のくせにヒルダを可愛いと連呼するのだ。
「恥ずかしいからやめてよ」
ヒルダが嫌がってもオズワルドはヒルダを抱き上げたままだった。
「私に何かしてくれたら下に降ろしてあげるよ」
何かと言われても・・・
ヒルダは胸元に押し込んでいたククの実を一つ取り出したがこのままククの実を投げたとしてもオズワルドは避けてしまうだろう。
閃いたようにククの実の硬い殻に長いキスをするとオズワルドに向けて渡した。
「じゃぁ私が苦労して木の上から採ったククの実を一つあげるわ」
◇◇◇
オズワルドはヤバいわ。
本当にかなりヤバめ。
ククの実を投げつけたらすっごい笑顔だったし。
そのククの実を1つあげただけでもとっても喜んでいた。
執務室にククの実を置いて時々頬ずりしているらしいけど、それってどうなの?
もっとぶつけてくれって事なのかしら・・・気に入ったの?
オズワルドの妃になる人はきっと大変ね・・・
昨日、王宮では人に攻撃しないって約束してから保管していたククの実を貰えた。
神殿に持って帰って武器にするって正直に話したらあっさり・・・しかも沢山集めて貰えたので正直に言えばよかった。
神殿も最近ではククの実を隠されているので王宮で仕入れるつもりだったしね。
ククの実の中の果実をかなり熱して干からびさせる。
その中に火の魔石を入れ込むようなイメージでこの中を満たしていく。
イメージ的には手りゅう弾のイメージで中に込めた魔力は石の壁を破壊する威力を込めている。
200年前に魔人を連れだせなかったのだから、あの忘れ去られている魔人のことを今の神官長に話したとしても無駄だろう。
だったら無理矢理出してしまえばいいのよ。
そう考えてから武器になるような物を考えていた。
ククの実を風魔法で散弾銃のように飛ばすってのも考えたけど、回復魔法の使い手が在籍している神殿で怪我人を沢山作っても意味がないから作戦を練らないと。
理由はやはり飢饉の時や何等かの有事に際して保存が効く果実だからだ。
綺麗な花も咲くので観賞にも適している。
王宮での生活は相変わらずで、国王は私と共に過ごす時間を取る為に無理しているんだろうけれど出来る限り作ってくれていた。
そろそろ神殿を出て王宮で暮さないかと打診されたけれど、魔人を元の世界に帰してからじゃないと神殿から離れることが出来ないから返事は濁している。
最近のオズワルドは優しかった。
心のこもっていない愛想笑いも少し減ってきている気がする。
笑うと16歳らしい表情に戻るけれど、本人はそれを指摘するとすごく嫌みたい。
無理に大人っぽくする必要はないし、急いで大人になる必要もないのに。
私は魔人を元の世界に戻す為にもう一度神様からこの世界に来るチャンスを与えられたと思っている。
他の世界へと続く歪みを作り出そうとすれば、私の全ての力を使えば叶うはず。
でもそれを行えば私は力を失いオズワルドの隣に立てる聖妃ではなくなってしまう。
それがわかっているのにオズワルドと結ばれての本当の意味での聖妃になれないのだ。
王宮の庭にあったはずのククの木の根元を見てもククの実がまったく見当たらなかった。
この間までは幾つか転がっていたはずなのに・・・
辺りを見渡すと侍女と目が合った。
「ねぇククの実が落ちている所を知らないかしら?」
「さっ・・さあ、申し訳ございません」
何かを隠している表情で頭を下げた。
上を見上げればククの実は沢山実っている・・・
「わかったわ」
私は太いククの木の幹にしがみ付いた。
「ククの実がここにあるのは知ってるんだから!!」
◇◇◇
オズワルドはヒルダが王宮の庭からなかなか戻って来ないという連絡を受けて迎えに行くことにした。
聖妃教育を一切受け付けないヒルダは王宮の中を自由に歩き回っている。
「神殿だといつも地下の反省室だから王宮に居る時くらいは太陽を浴びないと体を壊しちゃうわ」
ヒルダが王宮に来た時に漏らしていた言葉だが、それが冗談ではないことは報告書ですでにオズワルドは知っていた。
近頃は反省室にヒルダを入れているほうが神殿の業務が滞りなく行えると反省室で暮らすことが長くなっているのはどうかと思う。
「ヒルダは私の聖妃だぞ、彼女が神殿の事でちょっとへそを曲げる程度でそのような仕打ちをするのか・・・」
ククの実を投げられた神官は回復魔法で元に戻っているから問題ないだろうと、ヒルダを庇うオズワルドに臣下の者はさすがに同意出来なかった。
そんな報告書が上がっていたから王宮ではヒルダの目に止まるところにはククの実を回収するようにと伝達があり、夜に落ちたククの実は早朝ヒルダの起きる前に撤去されることになった。
王宮の庭に近づくにつれて騒がしい。
何に対して騒いでいるのだろうとオズワルドが近づくとククの木の下で数人騒いでいる侍女達がいた。
「いったいどうしたのだ?」
そう訊ねたが、すぐに視界にチラチラ見えるドレスが飛び込んできた。
ククの木の高い場所でまだ落ちていないククの実を枝からもぎ取っているヒルダが居たからだ。
後ろから着いてきていた宰相が顔を歪めた。
「国王陛下、聖妃様ですが・・・」
「あぁ、可愛いだろう、まるで果実を啄みに来た小鳥のようだね」
誰もその声に同意せず、かなり高い場所まで上っているので助ける事も出来ずに困っていた。
「ヒルダ!もう昼食の時間だ、一緒に食事を取ろう」
「ねぇオズワルド、ククの実が何処にもなかったんだけど、王宮ってそんなに飢えているのかしら?」
ククの木は村一つ守れる位に沢山の実を付けてくれるので、大量の果実はどこにでもあるありふれた果実として市場でも売られている。
その果実が一つも落ちていないのがヒルダは気になっていた。
「あぁ、それは私が片付けさせた!ヒルダが触ったククの実をぶつけてもらえる遊びなんて他の者にされたら私が焼きもちを焼いてしまうからな」
シュッ
シュ シュ
オズワルドの方へ何かが勢いよく飛んでくる。
ヒルダが木の上からオズワルドを狙ってククの実を投げているのだ。
「王宮にはククの実を拾いに来たのよ!邪魔しないで!!」
オズワルドは防御のシールドを張れるが硬いククの実がぶつかる度に殻が割れて中から甘い香りの果実が顔を出している。
国王扱いもせずに挙句にこの仕打ちにオズワルドは笑いが込み上げてきた。
「ヒルダ!愛してる!!」
「こんな所で言わないでよ!!」
一つもオズワルドに当たることなくヒルダの手元にあったククの実は全て無くなってしまった。
ぜーぜーと肩で息するヒルダに何事もないようにオズワルドは両手を広げた。
「木は登るより降りる方が大変だろう。ここに飛んで来い!私は受け止めれるから」
両手を広げるオズワルドを見てヒルダは即答で断るが、木を降りるのは苦手な様子で考えているようだ。
「ヒルダこっちだ!」
オズワルドは両手を振り胸に飛び込むようにアピールする。
オズワルドも風魔法を使えるのでシールドを張ったり落ちてくるヒルダの下に風の圧をかけ速度を落とすことが出来るが、ヒルダも風魔法を使えるのでオズワルドのいる方角とは別の場所に向かい飛び降りた。
風を使い空中で落ちる速度を抑えようと試みたが、ヒルダの体は思っても見ない風に流されてオズワルドの腕の中へと降りた。
「ヒルダが遠慮しているみたいだったからこっちに向かう風を作っておいたんだよ。案の定私の腕じゃないほうに飛んだから捕まえることが出来た」
にこにこと嬉しそうにヒルダを抱きしめるオズワルドの腕の中から逃れようとするが、前回のように二人の体の間に風を潜り込ますことが出来ない。
「ああ、もう可愛いなぁ」
オズワルドは年下のくせにヒルダを可愛いと連呼するのだ。
「恥ずかしいからやめてよ」
ヒルダが嫌がってもオズワルドはヒルダを抱き上げたままだった。
「私に何かしてくれたら下に降ろしてあげるよ」
何かと言われても・・・
ヒルダは胸元に押し込んでいたククの実を一つ取り出したがこのままククの実を投げたとしてもオズワルドは避けてしまうだろう。
閃いたようにククの実の硬い殻に長いキスをするとオズワルドに向けて渡した。
「じゃぁ私が苦労して木の上から採ったククの実を一つあげるわ」
◇◇◇
オズワルドはヤバいわ。
本当にかなりヤバめ。
ククの実を投げつけたらすっごい笑顔だったし。
そのククの実を1つあげただけでもとっても喜んでいた。
執務室にククの実を置いて時々頬ずりしているらしいけど、それってどうなの?
もっとぶつけてくれって事なのかしら・・・気に入ったの?
オズワルドの妃になる人はきっと大変ね・・・
昨日、王宮では人に攻撃しないって約束してから保管していたククの実を貰えた。
神殿に持って帰って武器にするって正直に話したらあっさり・・・しかも沢山集めて貰えたので正直に言えばよかった。
神殿も最近ではククの実を隠されているので王宮で仕入れるつもりだったしね。
ククの実の中の果実をかなり熱して干からびさせる。
その中に火の魔石を入れ込むようなイメージでこの中を満たしていく。
イメージ的には手りゅう弾のイメージで中に込めた魔力は石の壁を破壊する威力を込めている。
200年前に魔人を連れだせなかったのだから、あの忘れ去られている魔人のことを今の神官長に話したとしても無駄だろう。
だったら無理矢理出してしまえばいいのよ。
そう考えてから武器になるような物を考えていた。
ククの実を風魔法で散弾銃のように飛ばすってのも考えたけど、回復魔法の使い手が在籍している神殿で怪我人を沢山作っても意味がないから作戦を練らないと。
応援ありがとうございます!
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