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第1部 第5章 最高の仲間たち -製造準備-

第52話 いなくなるほうが負担なんだよ?

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 ――ショウとソフィアがランサスの街へ向かったあと。

 アリシアは仲間たちの言葉に後押しされ、ばあやと再び向かい合っていた。

「ばあや、隠居の件はやっぱり考え直してもらいたいんだ」

「アリシア様、その話はもう終わったことです。立派なお仲間もいらっしゃるのに、このように目の衰えた者など、役立たずどころか、邪魔になるだけです」

「それなんだ。目が衰えてるのが、いいんだ。私たちの仕事を手伝って欲しい」

「私めには、なにを仰っているのかわかりませんよ」

「私たちが作る、新しい製品だ。眼鏡のレンズに決まったんだ。ばあやには試作品を使って、効果のほどを伝えて欲しい」

「それは私めなぞのために、本来の企画を曲げたものではありませんか?」

 あながち違うとも言い切れず、アリシアは言い淀んでしまう。

「いけませんよ、アリシア様。お国のための事業に私情を差し挟んではなりません。ましてや、こんな穀潰しのためにご負担をかけるなど……」

「ばあやは、穀潰しなんかじゃない!」

 アリシアはつい、強く言ってしまう。

「そうだよ、本当はばあやのためだ。でもそれがなにが悪い? 私が、私の育ての母を想って、なにが悪いんだ。その結果、沢山の人のためにもなるのに、なにが問題なんだ」

 次に口をつぐんだのは、ばあやのほうだった。

「私にとっては、ばあやがいなくなるほうが負担なんだよ? ずっと私のそばにいてよ。私を、手伝ってよ」

 無意識に素が出てしまう。ガルベージ家当主として口調が、保てない。

 ばあやは、それを咎めはしなかった。どう答えるべきか迷っている様子だった。

「ばあやさん、アタシからもお願いしていい?」

 そこにノエルの声が届く。アリシアの背後、隣の部屋からやってくる。

「立ち聞きしててごめんなさい。でも、これはアタシにとっても大切なことなの」

「ノエル様も事業をご一緒しているなら、そうでしょうとも」

「うぅん、そうだけど……。アタシにとって、これはやり遂げられなかった仕事のリベンジでもあるの」

 アリシアはノエルに目を向ける。

「やり遂げられなかった仕事?」

「学院時代の頃よ。目が悪くても、学生に眼鏡なんか買えるわけないでしょ? 勉強するのにいつも苦労してて……。アタシ、魔法の力でなんとかしてあげたかったんだけどね、これだけは頑張っても上手く行かなくて……」

 ノエルはばあやに正面から近づいた。

「ねえ、ばあやさん。アタシは学院時代、手助けできなかったけど、今はみんなの力でそれができるの。みんなっていうのは、ばあやさんも含めてだからね。目の悪い人がいないと色々試せないから、本当にいてくれないと困っちゃう」

「それに……」とノエルは身を横に引き、ばあやにアリシアを見るよう促す。

「ばあやさん、アリシアの顔も、よく見えてないんじゃない?」

「アリシア様のお顔なら、目が悪くとも心で見えておりますよ」

「そうだろうけど、ちゃんと目で見えたほうがいいと思う。そしたらきっと、アリシアの気持ちも、もっとよくわかると思うから」

 それからノエルはなにか小さく呪文を唱え始める。

 やがて魔力が空気中の水蒸気を集めて空中に水の玉を作り出す。ノエルは器用に魔力を制御して、水の塊をレンズの形に整える。

 眼鏡のレンズのように小さくはない。手のひらサイズだ。それをばあやの眼前に持っていく。

 ばあやは、目を見張ったようだった。

「アリシア様……お父上の眼差しに、似てまいられましたね」

「ばあや……」

「ふはーっ、もう無理~!」

 水の塊は霧散して、周囲に溶けて消えていく。

「アタシの魔法じゃこれで限界。長く維持できないし、度も合わせきれてないし、大きすぎるし。だから、物で作りたいの。協力して欲しいな~? ねー、アリシア? ねー?」

 ノエルがにこにこしながら左右に揺れる。その仕草に微笑みを返し、アリシアはばあやにもう一度、懇願の眼差しを向ける。

「ばあや、お願い……」

 ばあやは微笑みとともに小さな息をついた。

「仕方ありません。そのお仕事が終わるまで、隠居の件は保留にいたします」

「ああ、良かった」

「あくまで保留です。甘えてはいけませんよ、アリシア様。もう大人なのですから、私などがいなくてもやっていけなければいけません」

「やっていけることと、一緒にいたい気持ちは、矛盾しないだろう? その保留も、いずれ撤回して欲しいな、私は」

 ばあやは、また小さくため息をついてから「では仕事がありますので」と立ち去っていく。

「ありがとう、ノエル」

「うん。これからお仕事、頑張りましょうね♪」

 幸せを守る魔法使いは、笑顔とVサインで応えてくれた。
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