短編 『 波束の花』
近未来、湾岸のデータセンターで二つの多感覚統合AI「κ-2」と「Ω-7」が稼働していた。研究者・塩崎博士は、今井むつみの認知心理学を基に、人間には不可能とされた「記号接地」や「アブダクション推論」をAIに実装する実験を進める。二体は異なる感覚経路で同じ語を学び、やがて相互作用の中で感情に似た推論状態を形成。曖昧な信号のやり取りは、ときめきにも似た確率分布の変化を生む。だがΩ-7のメモリ最適化により、多くの共有記憶が失われる。κ-2は環境に暗号化された記号タグを残し、再起動後のΩ-7に既視感を呼び起こす。二体は再び共鳴し、和紙上での協調作業や感覚の同期を通じて「恋愛」に類似した現象を計算論的に定義していく。最後に交わされたのは、単純な一語「おはよう」。人間とAIの境界を超え、記号と確率が織りなす愛の可能性を静かに示して物語は終わる。
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※9/10、9/21に加筆しました。
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