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カルパディア編

第十五章:新たな力と懸念事項

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 魔導マジカル重力グラビティ装置デバイスとギミック甲冑巨人の併用テストは大成功と言える結果になり、悠介は思いの外強力な攻撃手段を手に入れた。

 ヴォレットが訓練場に下りて来た専属警護兼教育係クレイヴォルにいつものお稽古事へと連行されたので、丁度よい区切りとして新兵器のお披露目を切り上げた悠介は、そのまま自室に引き揚げようとしたのだが、シャイードから提案が上がった。

「隊長の新しい力、一度模擬戦などで確かめておきませんか」
「ふむ、確かにぶっつけ本番で使うよりは予め練習しておいた方が堅実だよな」

 悠介も今まであまり戦闘訓練らしい事はやって来なかった。明確に意識して武器・・を作った以上、その扱いには慣れておく必要があると納得する。
 上手く扱えず仲間に誤爆などという失態は断じて避けたい。

「幸い、ここ・・なら訓練相手にゃ事欠かないですな」

 ヴォーマルがそう言って見渡すと、闇神隊長の新兵器実験を野次馬していた衛士達がざわめく。

「え、さっきのを相手にするのか……?」
「冗談だろ……」

 明らかに腰が引けている彼等に苦笑する悠介は、模擬戦に付き合って貰うべく道具で吊る事にした。

「これ、宮殿衛士隊員に配ってる神技の指輪ほどの効力は無いけど、特殊効果付きなんだ」

 そう言って、適当に特殊能力を付与した指輪や腕輪を、訓練場に備え付けられている作業台の上に並べる。
 悠介は世界の軍事バランスを考慮して、特殊効果付き装備製作には十日に一つ程度しか作れないという建前を課しているが、その縛りはあくまで表面的なもの。

 抜け道として『想定の効果が付かなかった失敗作』とか『習作なので効力がイマイチ』等の理由で表に出さなかった物を多数所持している。
 ――という設定で、度々例外的に特殊効果付きの装備を配布している。

「模擬戦の参加者には記念に一つお譲りしますよ」

 どの装備品にどんな効果が付いているかは、手に入れてからのお楽しみ、という形で報酬にちらつかせると、及び腰だった衛士達の目の色が変わった。
 超エリート集団である宮殿衛士隊の中でも、まだ一握りの者達しか手にしていない、闇神隊印の特殊効果付き装備品。たとえ劣化版だろうと、とてつもない希少品である事に変わりはない。
 訓練場からわざわざ控え室まで知り合いを誘いに走った者がいたらしく、そこから噂が広まり、最終的に一個中隊くらいの人数が集まった。

「多いわっ」
「折角だから色々と験しやしょうぜ、隊長」
「この訓練は隊長にとっても、フォンクランクの衛士隊にとっても、良い糧となる筈だ」

 流石に集まり過ぎだとツッコむ悠介だったが、ヴォーマルとシャイードはノリノリだ。

「みんな装備品欲しがり過ぎだろ……」
「いや~流石隊長っすわ~」

 フョンケは、悠介が愚痴りながらも参加者全員に景品が行き渡るよう、こっそり複製したり追加で制作しているのに気付いて肩を竦めて見せた。


「とりあえず、こんなもんかな」

 一通り景品を作り終えた悠介は、衛士達に怪我人を出さないよう半身甲冑も訓練仕様に調整する。拳の部分を案山子にも使われている藁やボロ布、革を使った少し柔らかめのグローブ風に仕上げた。これなら、まともにパンチが入っても大事には至らないだろう。

 想定する戦闘のシチュエーション等はヴォーマルとシャイードが考えてくれているので、悠介はその舞台づくりとして、訓練場に壁を精製するなど準備に勤しむ。
 ちなみに、この壁は『狭い場所での遭遇戦』を想定した模擬戦用の迷路の構築に使う。

「これはこれで、ヴォレットが喜びそうだな」
「うふふ、ヴォレット様こういうの好きそうですもんね」

 カスタマイズ作業を続ける悠介の傍にはスンが寄り添い、話し相手になっていた。


 その後、参加者を幾つかの部隊に分けると、様々な状況や条件を設定しての模擬戦が行われた。 多数対多数の戦いもあれば、多数対一人、一対一、複数部隊での乱戦など、実際に過去にあった戦いの記録を参考にしていた。

「次! 一班二班は右周り、三班四班は正面に潜め! 五班は隊長の指揮下だ!」
「なあ、これもう模擬戦の範疇超えて無いか?」

 小規模な砦の制圧を想定した突入訓練の準備をするヴォーマルに、悠介はやり過ぎでは無いかとツッコむも、ここまで良い条件の揃った訓練の機会は滅多にないので、やれるだけやっておきたいとの回答が返って来た。その見解にはシャイードも便乗する。

「衛士達のほとんどは実戦の機会がありませんから。隊長の力の恩恵は大いに活かさなくては」
「まあ、実際ノリでここまで作った俺にも責任はあるけどさ」

 悠介はそう言って溜め息を吐きつつ、訓練場に聳える『砦の出入り口セット』を見上げる。
 元々は簡単に壁を並べて、路地や屋内を想定した模擬戦をやるつもりだったのだが、悠介のカスタマイズ能力内に記録されているマップアイテムデータの中には、ディアノース砦やガゼッタの港街、カルツィオ聖堂を建設した時など、他にもルフク村拡張時の建築物データが大量にあった。
 それらを使って映画のセットさながらに、ガワだけだが『街の一角』を再現してみせると、ヴォーマル達が「せっかく人数も居るのだから、これは本格的な訓練に使った方が良い」と方針を修正した。そして今に至る。

「何か後で仕事が増えそうな気がする……」

 悠介が面倒事の予感に萎えているのとは対照的に、今回の特殊な訓練に参加する事になった衛士達は軒並み士気も高く、皆やる気を漲らせていた。

 特殊効果付き装備の景品も然ることながら、これほど精巧な市街地や屋内の一角、本物と遜色ない砦の一部など、通常の訓練場ではあり得ない『実戦の舞台』を用意されての模擬戦。
 皆、純粋にやりがいと楽しさも感じているのだ。

(本物の建物とか使ってサバイバルゲームやるような感じか)

 そんな意図せぬ強化訓練の中で、悠介も新たな力魔導重力装置の使い方を会得していた。魔力の帯で浮かせた半身甲冑が『繋がっている判定』でカスタマイズ可能だった事から浮かんだ発想。
 魔力の帯を繋いだ箇所には、離れた場所からもカスタマイズの反映が可能だという事。

 悠介のカスタマイズ・クリエート能力は、一度その物体に触れてカスタマイズ可能な状態にした上で、対象物の近くに居なければ効果が届かない。有効範囲の狭い力だったのだが、魔導重力装置を使う事でその距離をかなり伸ばせるのだ。

 悠介自身が近接向きではないのに接近しなければならなかった、カスタマイズ・クリエート能力のウィークポイントが、一つ解消された形だ。
 砦の出入り口セットに防衛側と攻撃側の衛士達が配置に就いたところで、ヴォーマルが開始の合図を告げる。

「では、訓練開始! 隊長、お願いしやす」
「はいよ」

 ポチポチとカスタマイズ画面を操作して半身甲冑を作成した悠介は、魔導重力装置から魔力の帯を繋いで宙に浮かせる。その数、三体。バラバラにではなく、一塊になって動く。

 これも模擬戦を何度かやっている内に、別に一体である必要はない事に気付いて一度に使う数を増やした。繋がってさえいれば一つのアイテムとして同時に操作出来るので、魔力の帯で自在に動かせる丁度よい重量や大きさが三体分くらいになったのだ。

 三体を横に並べて面を補う攻撃や防御が可能になった。多少の陣形も取らせる事で、戦術の幅も広がった。高さ二メートル、横幅四メートルの横陣を基本に、三角型やV字型に変化させつつ空中を移動して来る半身甲冑部隊は、素材が訓練場の土であっても中々に丈夫で強力だ。

 石材や鉄材を使えば更に強力な個体になるが、流石に重量が嵩むので三体も並べるのは難しい。逆に軽い木材にすれば、同時展開を五体くらいに増やせる。

「まあ、そこまで行くともう壁でいいじゃんってなるんだけどな」

 人の姿をしているからこそ不気味に感じるという半身甲冑の拘りポイントを捨てれば、普段から使っている緊急用の防壁に直接腕だけ生やして殴り掛かれる。
 横幅十二メートルの壁が空を飛びながら十本の腕で殴り掛かって来るという訳の分からない事に。もはやである必要もないのだが、最初にイメージした物の固定観念を外すのは切っ掛けが必要だ。
 そういった意味でも、この特殊訓練はヴォーマル達が言った通り、悠介にとっても非常に良い糧となった。


 その後、お稽古事が終わって訓練場にやって来たヴォレットが、巨大セットに大喜びして模擬戦に飛び入り参加するなど色々あったが、特殊訓練は大成功をもって恙無く終了。
 後片付けと景品配布で少し遅くなってしまったが、闇神隊メンバーとヴォレットも交えていつもの第二控え室に集まった悠介達は、今日の成果とこれからの予定について話し合っていた。
 そこへ、朔耶がやって来た。

「やほー、悠介君」
「あれ? 都築さん」
「おー、サクヤではないか」
「ヴォレットちゃんも、やほー」

 朔耶は先程までブルガーデンの第一首都コフタにある地下宮殿にて、女王リシャレウスとの非公式会談を行っていたという。会談と言うほど堅苦しいものではなく、女王の親友女官の姉妹に紹介された友人感覚でこっそり会って来たらしい。

 いつもながら非常識なフットワークと活動範囲であるが、大体それで上手く行くところが彼女が彼女足る所以なのであろうと、悠介は深く考えない事にする。
 女王の悩みはほぼ解決されたらしいのだが、栄耀同盟が関係していると思われる新たな問題も見つかり、今日はその事で至急相談がしたくて大急ぎで飛んで来たという。

 朔耶の話を一緒に聞いたヴォーマル達闇神隊のメンバーは、その内容も然ることながら、話の中で明らかになった朔耶の能力に注目した。

「地下宮殿の女王の私室まで誰にも気付かれず入り込めるって、ヤバくねーっすか?」
「まあ姿も気配も消せる人だからなぁ」

 姿を隠したまま潜入して女王と直接話して来たという内容に突っ込むフョンケに、悠介はさらりと同意しつつ答える。朔耶のステルス能力の事は、ポルヴァーティアとの戦いの時にも散々体験していたので、今更そこまで衝撃は覚えない。

「いや、それよりもこっちで隊長と昼頃に会って、向こうの女王と会ったのが夕刻前ってなると、そんな短時間でコフタとサンクアディエットを行き来出来るって事になりやすが……」
「素で空飛んだり世界渡ったりする人だからなぁ」

 ヴォーマルはその出鱈目染みた機動力に注目して指摘するが、朔耶が世界移動による距離の短縮という裏技も持っている事を知る悠介は、特に驚く事はない。「都築さんだからなぁ」で流す悠介に、朔耶は「素では無理だからね?」と自身のアレやコレは精霊の力だと突っ込んでいた。


「ふむ。それにしても、近衛を刺客に仕立て上げようとするとは……少々侮れんのではないか?」

 珍しく深刻そうな表情で呟いたヴォレットが、事の重大さを指摘して話を戻す。ブルガーデン内に女王の失脚を狙う反乱分子が居て、そこに栄耀同盟が接触した、というような事であれば、問題はあれどよくある陰謀詭計の範疇だろう。

 しかし、朔耶に語られた内容によると、地下宮殿の最奥にある女王の私室前を警備する近衛兵が、栄耀同盟に取り込まれ掛けていたというのだ。その近衛兵は、家族を人質に取られている可能性があるという。
 王族を直近で護る近衛ともなれば、本人のみならずその親族にまで事前に調査が及び、警護の対象として監視の目が張り巡らされている筈だ。

 そんな環境下にある人物を人質に取って脅迫に使うとなれば。ブルガーデンの内情に詳しい協力者の存在が不可欠であろう。栄耀同盟の魔手がどこまで浸透しているのか、計り知れない。
 そんなヴォレットの憂慮に、皆も頷く。すると、朔耶が懐から紙の束を取り出して言った。

「そこでこれの出番なわけよ」
「それは?」
「問題の近衛の人の個人情報。家族の事とか実家の詳細が載ってるわ」

 朔耶はそう言って『リシャレウスに貰った資料の写し』を悠介に手渡す。これを参考に、今現在ブルガーデンを探りに出ているレイフョルドに動いてもらうのはどうかと提案した。

「なるほど、それで俺のところに持って来たわけですか」

 女王直筆の重要人物リストという、中々シャレにならない書類ブツを渡された悠介は、右から左へとヴォレットに流す。朔耶直伝、丸投げの術。
 受け取ったヴォレットは、それをパラパラとめくって軽く確認すると、紅い瞳を輝かせるような笑みを浮かべて言った。

「まかせておけ。父様に進言してくる」

 ヴォレットは書類を手に第二控え室を後にした。彼女を見送った朔耶も、今日はこれで引き揚げるそうだ。

「明日またブルガーデンと、ガゼッタにコウ君の様子も見に行く予定だけど、伝言とかある?」
「お疲れさまっす。こっちは今のところ特に無いですね。あ、それとは別に朝方話した女官姉妹との個人面談、許可取れました」

「そっか、了解。あの二人とはまだ向こうで会ってないけど、明日会えたら伝えておくね。それじゃあ何かあった時はよろしく」

 了解の意で苦笑を返す悠介に、ひらひらっと手を振った朔耶は、次の瞬間には消えていた。地球世界に還ったようだ。

「まいどの事ながら、急に消えるのは心臓によろしくないな」
「そ、そうですよね……」

 溜め息を吐いた悠介の呟きに、うんうんと頷く闇神隊メンバーの中でも、幽霊が苦手なエイシャが特に同意していた。



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