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しおりを挟む「イエス以外受け付ける気がないなら黙れ」
「畏まりました」
これがレーヴェルひとりの問題なら返事は容易いのにと密かに溜め息を吐く。
「憂う貴方様も美しい」
「やめろ、黙れ」
エスコートしようと腰に回される手を抓り、ケイニードを率いて校舎へ向かう。
同じ学年でも身分ごとに教室は分かれている。王族に連なるケイニードは公爵家などと同じAクラスで、下級貴族家出身のレーヴェルは男爵家などと同じBクラスだ。伯爵家出身者は家の経済状況や本人の成績によって両クラスに振り分けられており、Cクラスは爵位が1代限りの騎士爵家の生徒や平民など卒業後貴族になる予定のない者が集まっている。
いつもならケイニードはBクラスにレーヴェルを送り届けてからAクラスに向かうのだが、何故か今日はそのままBクラス内に入ってきて、レーヴェルの隣に腰を下ろした。教室内にいた生徒達は動揺する。レーヴェルも戸惑い、ケイニードを睨んだ。
「自分の教室に行け」
「ようやく学校側の許可がおりまして今日から私もこのクラスなんです。ふふ、レーヴェル様と同席できる日が来るなど夢のようです」
座席は決まっておらず自由だ。それが当たり前だったので特に不満に思ったことはなかったが、ピトッと隣でくっついてくる男のせいでレーヴェルは初めて不満を抱いた。
「邪魔だ、暑苦しい」
「そう仰らないでください、愛しい人。ちゃんと理由は後で説明しますから」
どうせそんな大層な理由などないのだろう。この時、レーヴェルは事態を楽観視していた。
□□□□□□□□
「昨夜、男子学生寮に侵入者が3人。3人同時にそれぞれ別の箇所から侵入しました。3人のうち誰か1人でも寮生に見つかれば、見つかった者は派手に騒ぎ陽動を担い、他の者が確実に目的を果たす。という、まぁ、計画的な犯行でしたね」
貴族令息令嬢の中には既に事業を手がけている者も珍しくない為、学園には予約制の小会議室のようなものが複数ある。防音設備もしっかりしており、依頼すれば侍従などによる給仕も受けられる。大概そこが利用されるのは比較的まとまった時間が確保出来る昼休憩か放課後で。
当たり前のように昼休憩に小会議室に連れてこられたレーヴェルは、前置きもない本題らしいものを聞かされ、その突拍子のなさに眉根を寄せる。
「昨夜?───気づかなかったな」
「学生寮には貴方様の部屋を中心に警備を配置しています。貴方様の眠りを妨げるなど万死に値しますから」
「……………へぇ」
初耳である。どこからその費用は出ているのか。何故レーヴェルの部屋が中心なのか。気にはなったが、聞いてはいけないような気もする。ケイニードの目が据わっていて怖い。隣合う椅子に座るレーヴェルの肩に腕を回しているあたり、怒りの対象はその侵入者であってレーヴェルではないようだから突っ込んで聞かなければ大丈夫だろうと高を括る。
「連中の狙いは貴方様でした」
「俺?何で?」
身に覚えがない。まさか、ケイニードに懸想する誰かが邪魔な自分を排除しようとしているのだろうかと思い至り、レーヴェルはケイニードを睨んだ。ケイニードは動じない。宥めるようにレーヴェルの額にキスをしてくる。
「シナジーという男を覚えてますか?」
「いや、誰?」
「前世で貴方様が拾った孤児ですよ。貴方様がシナジーという名前を与え、小間使いとして傍においていた奴です」
前世、と言われてもピンと来ない。そもそも前世を覚えている方が異常なのだ。
「お前のこと以外何ひとつ覚えてない」
記憶を遡っても前世での名前すら覚えていない。レーヴェルにとっての前世は目の前の男が全てだ。
「それは、熱烈な愛の告白ですね」
「違う。ただの事実だ」
喜びに顔の筋肉が弛緩しだらしなく笑うケイニードに容赦なく言い放つ。が、それで今さら堪えるようなケイニードではない。
「貴方様が前世でどのようなお立場だったかも覚えておられない、と?」
「わからん。お前が護衛として就く程度の地位なんだろうなっていう予想は着くが」
「前世の貴方様は、千年に一度の神子でした。人間では持ちえない膨大な神聖力を内に秘め、祈りによって奇跡を起こし、当時干ばつに喘ぐ国中に雨を降らせて回ったのです」
御伽噺でしか聞いたことがない。神聖力は本来神しか持ちえぬ力で、大勢が絶望に飲み込まれた時、神が人々を哀れんで遣わせるのが神子だとか。何言ってんだコイツ…とレーヴェルは頭を抱えた。
「それが昨夜の事件とどう繋がるんだよ」
「貴方様からは今も神聖力が漏れ出ています。感知できるのは神官や王族など、国の守護神による洗礼を受けた極一部の者だけですが、どうも神殿に貴方様が神子だと勘づかれたようですね」
「神聖力?俺に?」
手を握って開いてを繰り返してみる。何も感じない。どうやって使うかわからない力があると言われても、使えないなら存在しないのと変わらない。
「シナジーは今の神官長です。彼は貴方様に拾われた時から貴方様に恋焦がれ、人一倍執着しておりました。貴方様が神子の生まれ変わりだと知れば手中に納めようと動くのは想定内です。もちろん、渡しませんけど」
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