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第4章 街中デート
第2話 ハイテンション
しおりを挟む「うわぁ! これが……街!」
私は馬車の中で興奮気味にはしゃいでいた。
だって、生まれて初めて見る街なのだから仕方がないではないか。
もちろん物置部屋にいた時に本で見たことはある。
こっそり憧れたりもしていた。
女の子たちに人気なショッピングとはどんな感じなのか、食べ歩きやレストランなどの料理はどういう物なのか、服なんかは一から作っているところだって見れるところがあるというのは本当なのか、など。
とにかく知的好奇心が抑えられないのだ。
「ふふ、フラリアは街自体が初めてだよな?」
「はい! 人が本当に多いんですね!?」
「これでも王都よりはかなり少ないはずだぞ。公爵領は実験とか呪いのこともあるからあまり人と関わらないで済む辺境よりにあるからな」
「そうなんですか!? てっきり国境を守る為にこの位置なんだと思っていました!」
シルヴェート公爵家の勇猛さはカルム王国で知らぬものはない。
その武勇伝を記した本は建国神話から始まり数多くの著作物に書かれているのだ。
私の過ごしていた物置部屋にも多くの本があったからある程度のことは分かる。
そんな軍事に優れたシルヴェート公爵家の領地が王国の外れにあるのだから、当然国防の役割を担っていると思っていたのだが……違うのだろうか。
「まあシルヴェートの名は国外にも轟いているからな。少なくとも北側からカラム王国に入るには我が領土を通らなくてはいけない。お前の言うように辺境伯的な役割もあるってことだな。とはいえ俺たちがこの場所にいるのはどちらかというと呪いのせいだな」
「呪いの?」
「ああ。王都には多くの貴族がいるからな。どこに目や耳があるか分からない。そんな環境では呪いの研究など出来ないだろう? だから初代の国王はこの場をお与えになったんだ」
確かに由緒正しい公爵家に代々短命の呪いがかかっていると貴族に知れ渡ったら大変なことになるだろう。
ノーレイン伯爵家にいた時も貴族は噂が大好物でスキャンダルを待ち望んでいる生き物だって習った記憶があるくらいなのだから。
「なるほど。大変なんですね~」
「まあお前もそのうち分かるようになるさ。……さて、目的地についたようだな」
馬車から降り立つと初めての空気が肌を刺激する。
立ち並ぶお店の数々と行きかう人々。
その顔は皆活気に満ちていた。
「そら、フラリア手を」
「え?」
すっと差し出される手に戸惑っているとノルヴィス様はふっと微笑んだ。
「あまりはしゃぐとはぐれてしまうぞ? 慣れないうちは手を繋いでおくといい」
「ええ!?」
思いがけない提案に素っ頓狂な声が出てしまった。
手を繋ぐなんて私には難易度が高い。
しかもここは人前だ。
「え、えっと……その」
僅かに後ずさりをした。
その瞬間ノルヴィス様にグイっと手を引かれて彼の胸に収まる。
「っ!?」
「人通りが多いからな。そうやって周りを見ていないと人にぶつかるぞ」
上から降ってくる言葉に振り返ってみると、確かに今しがた私が後ずさろうとしていたところを子供が走りすぎていった。
あのままだったら確実にぶつかってしまっていただろう。
「な? おとなしく手を繋いでいてくれ。……それかこのまま肩を抱いて歩こうか?」
数段落とした声は色気を含んで耳に流し込まれる。
私は真っ赤な顔でにらみつけて彼の手を取った。
私とは全く違う大きな手。
手袋越しなのに節くれだっているのがわかる。
意識してしまうとただでさえ熱かった顔がさらに熱を持ってしまう。
「……慣れるまでですからね」
……ドキドキするけれど、嫌じゃない。おかしな感覚だった。
そう答えると彼はおかしそうに笑う。
「それじゃあ行こうか?」
「はい」
私たちは手を繋いで歩き出した。
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