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おまけ

弟2

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僕は長男だった。
父上は身体の弱い僕を疎んじていたから不本意だっただろう。それでもこの国の慣習に従って、家を継ぐための教育を僕に受けさせていた。

どれだけ父上が僕に不満を持っていようと、僕がこの家を継ぐのだ。僕がこの家の歴史を引き継ぎ守るのだ。

その矜持を胸に、厳しい教育に耐えてきた。「兄上を助けたい」そう言って厳しい騎士の訓練に明け暮れる弟の、僕を信じ尊敬する目。それを裏切りたくなくて頑張った。

いずれ二人でこの家を守ろう。

そう誓って。
けれど、そんな努力は報われなかった。
僕は廃嫡されてしまった。弟が、騎士の精鋭である正騎士に任命されたその日に。

「正騎士ともなれば、虚弱なおまえよりも跡取りとして遥かに相応しい」

上機嫌に笑う父上のそんな言葉で。
呆然とする僕の目の前で、弟のリチャードは父上に食ってかかった。そんなつもりで騎士になったのではないと。自分に一家の長は務まらないと。

けれど父上の返事は聞かなくてもわかっていた。自身も昔騎士であった父上は、身体の弱い僕のことが元々嫌いだったから。対外的に示せる理由ができたなら、僕を排除するのは父上の行動としては至極自然なことだった。そして僕は、貴族家の次期当主という立場を失った。

父に廃嫡されて。
弟に家督を奪われて。
僕は絶望し、狂った振りをした。

いや実際、一度狂ったのだろう。当時の記憶がない。
けれど徐々に、思考を取り戻した。
自分が置かれた状況。
弟が置かれた立場。
そういったものを、また考えられるようになった。

けれど僕は、狂った振りを続けた。
どうせ僕が正気だろうがそうでなかろうが、何も変わらない。
僕の努力はすべて無駄だった。
父が望んだのは弟だった。

強い弟。正騎士にまでなった弟。
身体の弱い僕など、必要とされていなかった。…父が最初から態度で示していた通り。

次期当主に選ばれて、弟が苦しんでいることは知っていた。彼は僕を慕ってくれていたから、こんなことになって傷ついているだろうこともわかっていた。

けれど僕は何もしなかった。
何も…したくなかった。
どうせ僕が何をしても無駄、という諦め。
それと…。
これは弟には決して知られたくないのだけれど。

弟を嫉む気持ち。
羨む気持ち。
ほんの少しだけ…憎む気持ち…。

彼と僕の違いは、身体の丈夫さだけだというのに。
同じ母から産まれて。
…僕の方が早く産まれたというのに。

家督も。
父の期待も。
周囲の羨望も。
僕が欲しかったものをすべて手に入れた彼が憎かった。
…彼はそんなもの欲しくなかったとしても。


弟は、僕のことを心の強い人だと言ってくれていたけれど、実はそれは違うのだ。必死にそう振る舞っていただけなのだ。弟の前で格好つけていただけだ。
僕を尊敬の眼差しで見つめてくれる弟の前で、無様な姿を見せたくなくて。
格好いい兄だと思われたくて。
こんな僕を慕ってくれるのが嬉しかったから。
必死に取り繕っていただけだ。
…身体が丈夫で剣の才もある弟を羨みながら。


それでも。
弟への嫉妬に密かに苦しみながらも。
それでも僕だって夢見ていた。
弟が語った未来。
僕の執務を弟が剣で支える。
二人で助け合って生きていく。
そんな未来を。
それを手にできたなら、弟の目に写る通りの心の強い自分になれるような気がしていた。その夢があったから、父に見放されているのはわかっていたけれど努力を続けられた。
けれど、それは本当に夢で終わってしまった…。


結局僕は、必要のない人間だった。…父の描くこの家の未来には、弟さえいればよかった。騎士の家に、身体の弱い僕など最初から必要なかった…。


僕は……どうして生まれてきてしまったのかな?

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