オネエとヤクザ

ちんすこう

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第三章:ボロアパートとワンピースと“アタシ”

3−21

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 「アキちゃんまでなに言い出すのよ」

 そしてふと気付くと、周りを完全に囲まれていた。
 両サイドはパピ江とモモの二人、一歩引こうにも背中にはキャメロンがいる。
 しまった、ついに捕まってしまった。

 ミフユは、観念したとばかりにこうべを垂れて、みんなに弁解した。

 「……あの子はね、違うのよ。昔のアタシに夢見てるだけなの」

 この間の夜に伊吹本人が話していたように、彼はミフユが長年装ってきた男としての姿を気に入っているだけだ。現に自分がオネエになったら『戻れ』と言ってきた。

 「伊吹ちゃんは、アタシそのものが好きなわけじゃ――」

 「じゃあ、ミフユさんはどうなんですか?」

 鋭い。的確に痛いところを突いてくる。

 (なぜなのアキちゃん……なんで貴女が牙を剥くのアキちゃん、どうしてそんなに使命感に燃える瞳をしているの)

 熱い視線を向けてくる彼女に気圧されながら、ぶつぶつと答えた。

「どうって。
 そりゃ、腐れ縁で付き合い長いし、思い入れはあるけど。だからってどうとも」

 パピ江がニヤケるのを見て、なんとなく嫌な予感が走る。

 「ママがいつになく煮え切らないわ。クロね」

 「クロじゃないわよ! アタシが何かやらかしたみたいじゃない――ていうか皆仕事戻んなさいよ!」

 うんざりしてパパラッチ包囲網を押しのけようとするも、アキにそっとその手を握られた。

 「ミフユさんは、もっと自信を持っていいと思います。ほら、サングラスを外したらかなり格好良いし」

 言われて、まだキャメロンにグラサンを奪われたままだったことを思い出す。
 いい加減返せと迫ろうとしたが、奪われたグラサンはキャメロンの顔にかかっていた。
 それを見るとなんだか一気にくたびれて、今日はもういいかという気分になる。

 グラサンは諦めて、仕方なくアキに向き直る。

 「伊吹ちゃんには関係ないわよ。アタシの顔が美形だろうがジャガイモだろうが、どっちにせよ男なんだから」

 「そうでしょうか?」

 「そうなの。ジョニー・デップ級の顔面で迫ったって、気持ち悪がられるのがオチ」

 「でも」

 と、アキが握る手に力をこめる。

 「師走さん、言葉が強いから頑なに見えるけど、実際はそんなに凝り固まった人じゃないと思います。
 はじめはこの世界のことを何も知らなかったのに、真剣に私の話を聞いて、私のような人間の存在を認めて、相談までのってくださったじゃないですか。
 私みたいのは、本当に駄目な人からはとことん嫌悪されるけど、あの人はそんなことなかった」

 「……まぁ、根は優しいからね。伊吹は」

 でも、と自分を戒め直す。

 「それとアタシを受け入れてくれるかってのは別な話」

 期待してはいけない。
 この界隈、他人に期待したら駄目なのだ。

 それでも、アキは一直線に見つめてくる。

 「私のことは受け入れて女性あつかいまでしてくれるのに、ミフユさんのことは受け入れられないのだとしたら」

 透き通る瞳は、カワウソ系の小動物を彷彿とさせた。
 可愛らしい印象をしていながら、しかしそこには強い光が宿っている。


 「それは、師走さんがミフユさんに向ける思いの大きさがそうさせるんだと私は思います」

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