オネエとヤクザ

ちんすこう

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第四章:The Catcher in the "Lie"

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 「あー、暑っ苦しくてやんなるね。
 アタシは鳳凰組の如月よ。如月美冬。よろしく」

 鳳凰組と名前を聞いて、連中がにわかに殺気立つ。

……が。
 先陣を切っていた最年長の男が、血相を変えた。


 「きっ如月?」


 短刀を構えたまま硬直した男に、若いホストが一人興奮気味に話しかける。

 「いきましょうよ三田さん!」

 「い、いや待て」

 「はい? 大丈夫ですって! たしかに遥斗さん『鳳凰組には気をつけろ』って言ってましたけど、こいつ一人だし!
 如月とか聞いたことねえしきっと雑魚ですよ!」

 「下原! お前、ばっ――」

 単身で乗り込んできたそのホストを片手で宙に放り投げて、ミフユは唇に笑みを描いた。

 「師走クン。おたくらのところにいるんでしょ?
 片割れを返してもらいにきた」

 「『鳳凰オオトリ』……!」

 「ん?」

 ぷるぷると震えながら口にした男に、片眉を上げる。

 「あら。その通り名、まだ知ってる奴いたんだあ。アタシも捨てたもんじゃないわね♡」

 突然様子が変わった男に、若い衆がたかって「早くやっちまいましょうよ」と勢いづいているが、男は頑として首を縦に振らない。

 「はっ……はぁあ……!」

 「ちょ、三田さん? どうしたんですか!?」

 「こっここ、こいつはやばい。死ぬ。間違いなく死ぬ。俺、今年娘が生まれたばっかなんだよ……! まだ死にたくねえ……!」

 「三田さん!?」

 男はミフユの名を聞いて、なぜかひどく怖がり始めた。
 鬼でも見たかのように震えられるのは不本意だが、勝手に怯えて気力を削がれてくれるのはありがたい。
 これなら自分の体力ももつかもしれない、と拳を握り締めたところで、

 「スンマセン姐さん、遅れました!」

 店の扉が開いて、狗山たちがどっと中に押し寄せてきた。

 それを見た男は豆腐のように顔を真っ白にして、

 「む、無理……」

 周りのホストたちに支えられながら倒れた。



 (えらく怯えてたけど、アタシ昔あの人に何かしたのかしら……)

 首をひねりながら考え込んでいたミフユに、狗山が駆け寄ってくる。

 「姐さん」

 「狗ちゃん! よく来てくれたわ、助かったぁ」

 狗山は頭を掻きながら「組長との話が長引きまして」と苦笑する。

 「迷惑かけたわね」

 「組長、兄貴がさらわれたって聞いただけで卒倒しそうになってたのに、如月さんが戻ってますって言ったら鳩が豆鉄砲食らったようになっちまいまして」

 組長はいま、還暦をとうに超えて七十近くになっているはずだ。
 心臓に負担をかけただろうことを心の中で詫びつつ、尋ねた。

 「……組長はなんて?」

 何も言わずに逃げてきてしまったが、決して組の人間のことがどうでもよかったわけじゃない。
 狗山は「大丈夫ですよ」と笑った。

 「姐さんの意思を尊重して破門扱いにしたみたいスけど、それを怒ってはいなかったです。
 それよりも『あいつ、無事に生きてたのか』って嬉しそうでした」

 「……そっか」

 「そうですよ。
 事が片付いたら兄貴と二人で顔を出せって仰ってましたんで、そうしてあげてください」

 こみ上げるものがあったが、感傷に浸る時間はない。

 「そうね。そのためには、まず伊吹ちゃんを助けなきゃ」

 ミフユたちの周囲では、鳳凰組の構成員と彩極組の手の者たちが抗争を始めている。
 狗山は店内をざっと見渡して、ミフユに向き直った。

 「兄貴はここにいないんですね。
 この場は俺たちで抑えときますから、姐さんは奥に行ってください」

 「頼める?」

 ありがたい申し出にミフユは手を合わせて感謝する。

 その場を組の人間たちに任せて駆け出したミフユは、引き留めてくる敵を跳ねのけながらバックルームを目指した。

 一番奥のVIP席の隣に付けられた、素っ気ない鉄製のドアが怪しい。
 ノブをひねってみると鍵はかかっていなかったので、そのまま中へと侵入した。


 中に入ってみると、こちらから見て右側に消火栓があり、左手前と奥に一つずつ扉が設置されていた。
 店の敷地面積を考えると奥のほうは外に繋がっているのだろう。

 となれば――


――そこか。


 ミフユは手前の扉の前に立って、肩を上下させた。


 「伊吹!」


 脚を振り上げ、溜めて、勢いよく蹴りつける。

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