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28.先行き不安

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 何事もなく街を出て馬車に乗っていた。

 この街道の道のりはなんだか凸凹していて乗り心地が悪い。尻が痛くなるわ。あっ、俺尻なかったわ。骨だから。

「凄いガタガタの道ですわね?」

「そうだねぇ。なんかお尻がジンジンするよぉ」

 ミリアがお尻を擦りながら口をへの字にしている。ダンテさんが悪い訳でもなし、道が悪いだけだから仕方がないよな。

 しばらくの間揺れに耐えながら座っていると、突如として急に車内に衝撃が走り、無常力空間のように身体が浮いた。
 ドガンッという音と共に車体が地面に着地した。

「みなさま、すみません! 車輪が壊れてしまったようです!」

 なんてこった。
 車輪を直する術は俺にはないぞ?
 そう思いながら馬車をおりて車輪を確認する。

 すると、進行方向の右後ろ側の車輪が割れてしまっていた。

 そりゃ、そうだ。こんなガタガタ道通ってたらそうなるわ。

「ホントですわね。割れてますわ。ダンテ、どうするつもりなのかしら?」

 鋭い目付きでダンテさんに問いかけるリンスさん。だけど、これは別にダンテさんのせいではないし仕方ないのでは? 俺はそう思っていたんだが、リンスさんの考えは違うようで。

 よく聞くとガタガタの道の場合は凄ーくゆっくり走るか、もしくは街道を外れて走るのが通常の対応らしい。でも、ダンテさんがそれを知らない訳では無いだろうし。

「も、申し訳ありません! 実は、視察の期間の終わりが迫ってましてそれで焦っておりました……。こんな事になってしまい、申し訳ありません!」

 そういう事なのか。
 視察の期間が決まってたんだ。でも、そもそもワイバーンに襲われて護衛も居なくなったし予定が遅れてしまったんだよな。

「はぁ。ダンテ、私がお父様にはちゃんと理由を話すと言ったではありませんこと?」

「はっ! ですが、これで遅れてはその後の予定にもズレが出るわけでして」

「全く! だから、お父様にはギチギチに予定を立てないように言ったのですわ! こうなったのは、お父様の責任でもありますわ! 帰ったら文句を言ってやります!」

「は、はぁ。申し訳ありません」

 俯いてしまったダンテさん。

 そんなに落ち込まないでくれ。
 みんなで楽しく歩いていこうじゃないか。
 次の街まではあとどれくらい何だ?

「ダンテさん、ナイルがそんなに落ち込まないでって励ましてますよ? あと、どれくらいで王都に着くんですか?」

「ミリア様、ナイル様、お気遣い有難う御座います。次の街までは馬車で三日程です。その後馬車で五日ほど行った所が王都です」

「そっかぁ。あれ? 視察の期間って後どれくらいの日数残ってるんですか?」

「それが……一週間、七日でございまして……。今朝、時間が無いことに気づく始末。誠に申し訳ありません」

「あー。だから焦ってたんですね?」

「はいぃ」

 その話を聞いていると、横で目を瞑り腕を組んで聞いていたリンスさんが目を見開いた。

「ダンテともあろう者が、ミスをするなんて相当今の状況がいっぱいいっぱいだということですわ。元々イレギュラーがあったんです。予定通りに行くわけありませんわ。ワタクシが責任を取ります。まず、皆で生きて王都に帰りましょう」

 凛とした声が響き渡り、空気が引き締まった。素晴らしい人なんだな。リンスさんという人は。一緒にいた期間は短いが、できる人なんだということがわかった。

「お嬢様。ご立派になられて」

 ハンカチで涙を拭きながら感慨に耽っているダンテさん。

 一先ずやることは、周囲の警戒。ここから先は左右が森で囲まれている場所になる。視界が悪い。ということは、襲撃に備えなければならない。

 そうなると、この凸凹道ももしかしたら何者かの罠ではないかと思えてくる。もしそうであるなら、この状況はまずい。

 ミリア、一緒に警戒するように。
 それと、リンスさんとベリーさんは馬車の右側に。俺の前を歩く方が守りやすい。

「わかったわ。リンスさんとベリーさんは右側へ。馬車の横に並んでください」

 ミリアのその言い方は俺の考えがしっかりと分かっているんだなと感心してしまった。ミリアも成長しているんだな……グスン。

「それで、私がリンスさん達の右に陣取り、盾になるわけでしょ?」

 そうだ。よく分かったな。けど、俺は別にミリアを見捨てるわけじゃないぞ?

「分かってるよ。左側からの攻撃は馬車で物理的に防いで、右側の攻撃をナイルが捌くんでしょ?でも、心配だから私をこの位置に配置する。そうする事で、万が一ナイルが捌けなかった場合、私が盾になる」

 よく出来ました。
 ミリアには悪いがその通りだ。
 自分のスキルで【硬化】もとったらどうだ?
 攻撃が通りにくくなる。

「えへへぇ。なんか最近ナイルの戦い方を見てて学んだんだ。いつも安全を考えながら立ち回ってるなって」

 そうだ。正確に言うと、次に動きやすい位置取りをしながら戦っているんだ。正面ばかりに敵がいる訳ではない。だから、視界が確保しやすい位置取りをしているんだ。

「なるほど、なるほどー!じゃあさ、今がその位置取りを使う時だね?」

 ミリアが一人だけ馬車の右側を見ながら呟いた。

 はぁ。もしかして、ホントに誰かの仕業か?
 先が思いやられるな。

 少し遠いが目の前にはゴブリン、人型の豚のオーク、人型の鬼のオーガが群れを形成して集まっていた。

 こりゃ気合いれないとな。
 
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