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17.ゴブリン狩り 暁の場合

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「よっしゃ、じゃあ次はお前ら狩って見ろ!」

「「「はい!」」」

「自分のやり方で良いんだからな?」

 俺の真似をしようとしていると思っているのだろうか。ジンさんが暁に注意を促している。
 心配することも無さそうだがな。

「分かってますって!」

 奥に進むと層を越える可能性がある為、横に移動する。
 次なる標的を探して進む。

 ゴブリンは繁殖力が強い為、ちょっと進むと居るのだ。
 前世のGを思い出す。
 思い出すと虫唾が走る。

 前を歩いていた暁が止まった。
 視線の先には三体のゴブリンが木の実を取っている。
 完全に油断している。

 三人は草むらに身を隠すと石を投げた。
 コンッと一体のゴブリンに当たる。
 一体がこっちに寄ってくる。

「おぉ。上手いぞ」

 ジンさんが思わず声を上げる。
 たしかに上手い。

 ここぞというタイミングでダンがショートソードで切り掛る。
 そして、袈裟斬りで切り伏せる。
 同時のタイミングでフルルが魔法を放った。

 緑色の風の刃がゴブリンの残りの二体へと向かって放たれる。
 ダンとウィンの二人が駆け出す。
 ウィンが、盾を持ってゴブリンへと迫っていく。

「いいぞいいぞ! 慎重に!」

 ジンさんが興奮している。
 思いの外上手くできていることに興奮しているのだろう。
 自分が目をかけているパーティだ。
 上手くできていたら褒めてあげたくなるだろう。

 魔法で一体のゴブリンが負傷している。
 負傷してないもう一体が棍棒で攻撃を仕掛けてきた。
 それを受けている間に負傷している個体をダンが切り伏せる。

 すると、ゴブリンが逃げようとしだした。
 側まで来ていたフルルが魔法で負傷させてトドメを刺す。

 うん。やっぱり経験が足りないな。
 途中までは良かった。
 だが、詰めの所が良くなかったな。
 でも、それも経験がないと分からないだろう。

「ふぅ。まぁ、怪我は無かったから良しとするかねぇ」

 ジンさんは甘いみたいだ。
 コチラをチラリと様子を見てくる。
 俺の顔を見て言いたいことが分かったのだろう。

「言うなよぉ。分かってらぁ」

 思わず笑みをこぼしてしまう。
 あんなにぶっきらぼうなジンさんなのに、目をかけている子達のことになるとこうなるんだな。
 新たな発見だった。

「笑ったなぁ? ったく。分かっちゃいるんだけどよぉ。どうしても可愛がっちまう」

「それもいいんじゃないですか? それがジンさんだ」

「ケッ! あまちゃんみたいで嫌なんだよ!」

 それはしょうがないのでは?
 ジンさんの性分だろうからな。
 贔屓目に見てしまうんだろうな。

 暁の元に向かう。

 すると、興奮している様子だった。

「なんか、今までになく、作戦がハマってなかったか!?」

「そうっすね! 良い感じでしたよね!?」

「うん……いい感じに……できた」

 三人は満足しているようだ。
 それでいい気もするが、やはり上に行こうとしたらもっとシビアにやっていかなければならないと思う。
 言うか言わないかはジンさんに任せよう。

「よーし。反省会するぞぉ」

「えっ!? 反省するとこなんてないですよ!」

 少し、むすくれている。
 まぁ、そうなるよな。
 自分達の中では上手くいっていたんだから。

 でも、そこで満足してたら、そこから上には行けないんだよ。
 より向上心をもって挑まないと。
 
 チームで敵に挑んだ場合は、作戦決行後の反省会は何がダメで、何をすればもっと良く出来たのかという事を話し合ってより良くしていくものだと思う。

「敢えて言う、お前らはこれで満足して欲しくないからだ」

「何か反省点がありました?」

 ダンがむすくれたまま聞いてくる。

 俺が前世でそんな態度をとったとしたら、殺されていることだろう、
 あの時はイエスしか許されなかったからな。
 こんなに考えてくれる人が居ることを有難く思わないと。

「最後の二体の時、なんで負傷した方を先に始末した?」

 少し考えているが、すぐに答えを出す。

「倒しやすいと思ったからです」

 そう。それが良くなかったんだ。

「それだ! それが良くない! よーく考えるんだ。人間でもそうだが、負傷した仲間というのは負傷してない者の足枷になるんだ。だから、負傷してない方をまず狙う!」

「足枷?」

「そうだ。仲間を守らなきゃならない。置いては逃げれない。そういう心理が働く。そうするとどうなると思う?」

 手を挙げたのはウィンだ。

「逃げれなくなる?」

 そう。けど、それだけじゃない。

「そう! 分かるじゃねぇか! けど、それだけじゃねぇ、動きが鈍るんだ。何故だと思う?」

 しばらく考えるが分からないようだ。
 沈黙している。

「テツ」

 こっちを向いて答えを促してきた。
 コクリと頷いて口を開いた。

「負傷した仲間を背負うと心理的に不利だと思ってしまう。という事と、仲間を攻撃されるか自分が攻撃されるか。二択になるんだ。そうすると迷いが生じる」

 そこで手を挙げたのはダンだ。

「なぜ、迷うんですか? どっちに来ても攻撃すればいい。仲間を攻撃に行ったらその隙に切ればいい」

「そんなに簡単に仲間を切り捨てられるのか? 敵はそれで死ぬかもしれないが、仲間も死ぬかもしれない。自分が救えたかもしれないのに……」

「それは……絶対に嫌です」

「だろ? だから迷うんだ」

 素直でいいチームだ。
 ジンさんが目にかけるのも分かる。

「なるほど。じゃあ、俺達が同じような状況になったらどうしたらいいですか?」

「その時の状況によるな。すぐには答えられない。けど、それだけ難しい状況だということだ。そんな状況でも、一つだけ打開できる要素がある」

「そんな不利な状況で?」

 三人とも嘘だろと言った顔だ。
 一つだけあるだろう打開できる要素。

「強ければいい」

 三人が目を見開いた。

「その危機的状況を打破するくらいの強さ。圧倒的な強さ。それは、状況をも覆す」

 柄にもなく熱くなってしまったな。
 こんなに語るなんて滅多にないことで、少し恥ずかしいな。

「まぁ、テツの言ったことは極論だ。だが、正しい。強い者が生きる。そういう世界でお前達は戦っているんだ。それは覚えておいて欲しい」

「「「はい!」」」

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