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33.守った場所

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 街に着いた頃には真っ暗になっていた。

 街に入ると、歓声が上がった。

「「「わぁぁぁぁぁ」」」

「よく戦ってくれた!」

「命の恩人よ!」

「流石はこの街の冒険者だな!」

 口々に冒険者を称える声が聞こえてくる。
 冒険者達はみな一様に誇らしくなった。
 俺達がこの街を守ったんだと。

 まずは、冒険者の墓がある所に運び、それぞれ埋めて札を立てる。
 誰の墓か分かるように。
 そして、皆で祈った。
 この街のために勇敢に戦ってくれて有難う、と。

 街の中に戻ると色んな店が自慢の料理を持って集まっていた。
 俺達にご馳走してくれるんだそう。
 酒も持ち込みどんちゃん騒ぎとなった。

 ジンさんが先陣切って食ったり飲んだりしていた。
 俺は、少し食べると家に戻ることにした。
 俺を待っている。そんな気がしたからだ。

 ガチャッと開けて入る。

「ただいま」

 バッと抱きついてきたのはアリーであった。
 アリーの温もりを感じた。
 心も体も。

「おかえりなさい」

 上目遣いで言われるとドキッとするのだが。
 思わず顔を近づけてしまい。

「んっ! うんっ! おかえりなさい! テツさん!」

 ミリーさんに声を掛けられ、我に返る。
 アリーも少し離れ顔を赤くしている。

「あっ! ごめんなさい!」

「いや、俺こそすまん!」

「周りを……忘れてたな……」

 フルルにまでいじられて恥ずかしくなってしまう。
 俺を見たアリーが慌てる。

「テツさん! 怪我してます!?」

「いや、これは返り血だ。返り血を浴びるなんてまだまだ鍛錬が足りないな」

「怪我は無いんですね。よかった……」

「心配かけたな」

「もう。ホントですよ! 帰ってくるの遅いんですもの!」

「外で宴会みたいになっててな。ご好意を無碍にする訳にもいかず、少し貰ってきたんだ」

「じゃあ、夕飯は……」

「貰うよ。そんなには食べてこなかったんだ」

「そうなんですね! よかった! 今日は疲れたと思うのでお肉ですよ!」

 元気なアリーを見ると幸せな気分なる。
 この笑顔を今日俺は守ることが出来たんだと。
 街の人の笑顔も守ることが出来た。
 命はって戦った意味があったな。

「テツさん! お肉いっぱいあるからいっぱい食べてね! ホントにお疲れ様。よく帰ってきたわね」

 ミリーさんが目をウルウルさせながら料理を出してくれた。ガイさんの事があるから俺の事も万が一があったらと思って心配してくれていたんだろう。

「テツさん……やっぱり強い……けど……心配してた」

 フルルも心配してくれてたようだ。
 俺が前線で戦うということをフルルは分かっていたのだろう。
 俺の実力を認めてくれてはいるが、心配してくれてたんだな。

 こんなに俺の事を心配してくれる人が居るということが凄く幸せだ。
 前世ではずっと一人だった。
 今は、こんなに温かい人達が周りにいてくれるから俺は、この世界で生きていけるんだ。

 フルルの頭を思わず撫でてしまった。
 子供のようでなんとなく撫でたい衝動にかられた。

「ありがとな」

 すると、ちょっと不機嫌な顔をしたアリーがやってきた。

「フルルちゃんだけずるいです」

 自分も撫でて欲しいということだろうか。
 頭を差し出してきた。
 ナデナデしてあげる。

「アリーも心配かけたな。有難う」

 アリーは顔を赤くしながらコクコクと頷いている。ホントに可愛らしい子だな。

 ミリーさんもいいなぁと言っているのが聞こえたかそっちにいってしまうとまたアリーが膨れそうなので聞こえなかった振りをする。

 さっそく料理を食べる。

「いただきます!」

「「「いただきます!」」」

 パクッと一口食べて美味しさが口に広がる。
 あー美味い。味付けが絶妙で好みの味だ。

「美味い」

「そう? よかったわ。テツさん、この街のために命をかけてくれて、本当に有難う。あなたがいなかったら、この街は賊の手に落ちてたかもしれないわ」

 ミリーさんが急に頭を下げ始めた。
 俺は慌てて止める。

「止めてください! たしかに街は守れました。けど俺は、仲間を三人も助けてあげることが出来なかった。何とかできなかったのかと、そればかり考えています」

「それは、欲張り過ぎなんじゃない? 街を守ってくれてホントに助かったわ。仲間も救えたらそれは最高でしょう。でも、それはテツさんだけではどうにもできないことよ? 一人でなんでも出来るわけないんだから」

 それはそうなんだろう。
 俺一人ではこれが限界だった。
 それが現実。
 考え込んでいると。

「こうしたら、どう? その三人のことを胸にこれからは仲間も街も守れるように更に強くなるの! どうかしら?」

 この提案は目からウロコだった。
 そうだ。
 俺が強くなればいいのか。
 簡単な事だった。

 目の前の霧が晴れた気分だった。
 心もスッキリした。
 自分がすべき事が明白になった。

「有難う御座います。そうですね。更に強くなると亡くなった仲間に誓います」

「うん。吹っ切れた顔になったわね。よかった」

 ミリーさんには敵わないな。
 俺が悩んでるのを見透かされていたんだから。

 この家族に危害が及ばなくて本当に良かった。
 俺は、この場所を守った。
 まずは、それを誇ろう。
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