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79.追っ手

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 それぞれで夕食を食べ終えた。
 一通り話も終わった。

「今日は休もう。見張りはいつも通りで」

「はい! じゃあ、俺が最初にしますんで、皆さん休んでください!」

 ダンがそうみんなに声をかける。
 みんなは慣れたものでテントの中で寝に入る。

「ルリーちゃん、私と寝よっか?」

「うん!」

 アリーが、ルリーに話しかける。
 すると、笑顔でコクリと頷いた。

 フルルにはフィアが話しかけていた。

「あの、フルルちゃんと寝ていいかしら?」

「うん……いい……」

 フィアはフルルが気に入ったらしい。
 抱きしめながらテントに行く。
 これは、フルルは抱き枕にされるのだな。

 そう悟った俺にフルルはチラッと視線を送り、コクリの頷いた。
 任せろということだろうか。

 フルルはフルルなりに自分の役割を感じて行動しているのだろう。
 俺達は見張りをしてしっかり守ることが仕事だ。

 夜中。

 異変が起きた。

 俺の見張りが終わったあとだった。

「テツさ……」

 少しの小さな音に俺が気づいた。
 素早く起き上がり、武器を手にする。
 今の声はウィン。

 慌ててテントを出る。
 ウィンが倒れている。
 何者かが剣を突き刺そうとしている所だった。

 ドスッと刺そうとしていたやつの首にナイフを投げて阻止する。

「みんな! 起きろ!」 

 大声を張り上げるが反応がない。
 鼻に異常を知らせる匂いがした。

「またか……お前達のような物は馬鹿の一つ覚えだな」

 俺がそう言うと黒ずくめの者達は俺が起きていることに不思議そうに首を傾げている。
 なぜ起きているか不思議なんだろう。

 前はヒロが居たが。
 まぁ、俺一人でも十分だ。
 むしろ、こんな時は一人の方がいい。

 ざっと見た所、二十はいないくらい。
 笑わせるな。
 こんな数で俺とやろうとは。

「貴様ら! 俺を相手にして生きて帰れると思うな! 襲ったことを! 後悔させてやる!」

 一瞬で体を沈ませて踏み込む。
 目の前には黒ずくめ。
 首に右のナイフを突き刺す。

 左から走ってきた黒いのを左手でナイフを投げて胸に突き刺す。
 口から血を吐いて倒れた。
 刺していた右ナイフを抜き。

 下にベタっと足をつけた。
 そして、回転させながら足を上にあげていく。
 コマのように回り起き上がる。
 
「俺達から取ったものを返してもらおうか……」

「あぁ? 返してもらう? イルワ商会を潰して救い出したんだぞ?…………そういう事か……」

 あの商会はダミー。
 実は組織の保管所として利用されていたということか?
 ほう。しかし、俺から取り戻せるかな?

「どこの組織のものだ?」

 俺がカマをかける。

「お前には関係ない」

 組織であることは確定。

「この国でそんなに動いて大丈夫なのか?」

「…………何故だ?」

「この国には勇者が居るらしいが?」

「……勇者など取るに足らない」

 ほう。ヒロが取るに足らないと。
 それは聞き捨てならないな。
 アイツは強いぞ?

 だが、これでこの国でもない組織だとわかった。ムルガ王国の組織なのだろう。

「お前もだがな?」

「何を言う……?」

「俺がお前達の考えるような策にハマっていない。それで言いたいことが分からんか?」

「……」

「お前達こそ……取るに足らん」

 ダンッと地面を踏み抜いて肉薄する。
 話した奴は後ろにさがったが、他のやつはまだ残っている。

 両手にナイフを固定して広げ。
 コマのように回転する。

 円状に鮮血が飛ぶ。
 一気に五人ほど脱落した。

 カシャンと左右の腰元にある鞘にナイフを収め。そして、刀を構える。
 さっきの速度で逃げられるなら、それ以上の速度で行く。

 身を地面スレスレまで下げて。

「フッ!」

 縮地。
 日本で古来よりある移動法。
 それは、敵には消えて見える。

 刀を抜刀する。
 スパッと斬ったのは盾にされた人であった。

「おい、お前達、俺の前に出て守れ」

 話しているやつの回りの奴には価値がないとそう言っているようだ。
 昔の俺を見ているようだ。

 昔は俺も自分以外の奴には価値がないと、そう思っていたことがあった。
 この組織の中では俺が居ないといけない。
 そう思っていた頃の俺に似ている。

 だが、そういう奴は。

「仲間は捨て駒か?」

「俺以外は生きていても価値がない」

 やはり、昔の俺と同じ。
 そういう輩は。
 弱い。

「はっ! ふっ! しっ!」

 次々と黒ずくめを切り倒していく。
 残るは話していた自分が一番の奴だけ。

 ゆっくりと歩み寄る。

「残るはお前だけだが?」

「お前になど私が負けるわけが無い!」

 剣を突き刺してくる。
 スっと避ける。

 そして、刀を抜き放とうとすると。
 蹴りを放ってきた。
 最後の抵抗だろうか。

 しゃがんで交わして開脚した足で相手の眉間を蹴り飛ばす。
 グラりとした所で、下から斜めに刀を抜刀する。

 真っ二つに別れて倒れた。
 顔にしていた布が捲りあがっている。
 相手は女だったようだ。

 周りにいたのは男か?
 自分が一番だと思い上がっているやつは、そのうち殺されるんだ。

 それを俺に教えてくれたのはヒロだ。
 お前達にはヒロが足りなかったようだな。

 死体を離れたところにまとめる。
 そして、火を放った。

 燃え上がる火を見つめながら思う。
 この世界にも俺達がいた組織のようなものがあるようだ。

 ルリーか、はたまたフィアか。
 どちらかが大物のようだ。

 ウィンの元へいき脈をみる。
 生きていた。
 眠らされていただけみたいだ。

 ガイさんまでの道のり、長いかもな。
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