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84.ムルガ王国到着

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「あれがムルガ王国だ!」

 シーダが指さした先には、山を切り開かれた街並みが整然と並んでいた。
 この山を切り開くのにどれだけの労力と金がかかったんだろうか。

 一個の大きな山が切り開かれて街ができている。王都は頂上。
 その周りに街が広がり。
 山の麓まで街がある。

「そういえばシーダはルーイ村ってわかるか?」

「わかるよ。こっちとは反対の側なんだけどね。そこに探し人がいるの?」

「あぁ。ルリーの出身はそこらしいから」

「そうなんだね。王都から一週間くらいで着くんじゃないかな。ここから王都までも一週間位だけど」

「そうか。場所がわかるのは有難い」

「是非、この王国を堪能していって欲しい」

 シーダは自慢げに話す。
 こんな綺麗な国だったら自慢したくもなるよな。
 ソフィア姫も鼻が高いようだ。

「ここから登っていくんだろう?」

「そうだね。緩やかに登っていくんだ。最初はキツくはないと思うんだけどね。段々急になっていくから……」

「王都の辺りはキツイんだな」

「そうなんだ。行けば平らなんだけどね。だから、この国の人達は足腰が強いんだ」

「なるほど。暁組のトレーニングには丁度いいかもな」

 そう言ってチラッとみるとフルルがゲンナリした顔をしている。
 これから挑まなければいけない坂道を思い、心が参っているのだろう。

 ダンとウィンはなんてことは無い。
 と言った感じの顔をしているが。
 実際のところ、疲労が溜まってきてからの緩やかな坂道はかなりキツいと思われる。

 俺が前世で山篭りをした時も最初は元気なものだった。
 それが段々と動くのが億劫になってくるのだ。
 下るも登るも体力が必要だからだ。

 登る時もきついのだが。
 案外降りる時の方がキツかったりもする。

「じゃあ、行こうか」

 シーダが先頭になって街並みを歩いていく。
 フィアはというと顔をフードで隠している。
 攫われたとは知られていないため、外から戻ったことをバレてはいけないからだ。

 街では食料を調達する。
 料理が独特だった。
 山だから? 芋料理が多い。

 芋の煮物、芋の子汁、芋焼き。
 芋焼きに至ってはフライドポテトの揚げてないやつみたいなのだった。

「わー! なんかほくほくして美味しいです!」

 アリーが食べているのは蒸し芋で、バターを乗せて芋バターになっている。
 ここではバターがあった。

 アズリー共和国にはバターは見たことがなかったが。
 理由は何となくわかる。
 上を眺めると見えるのだ。

 牛のような生き物が。
 鳴き声は「ダー」だったからちょっと違うのだろう。

「うん。やっぱり我が国のバターが格別ですな!」

 シーダと一緒にいた騎士がバターを褒めちぎっている。
 まぁ、こんだけ美味かったらな。
 自慢だろう。

「ザック。はしゃぐなよ? 久々の自国で嬉しいのは分かるけどよぉ」

「へい。すんません」

 笑いながら平謝りしている。
 シーダも本気で怒っている訳では無いから。

 腹ごしらえをしながら歩いていく。
 一個、二個と集落をすぎていく。

 外は日が落ち始めた。
 ムルガ王国は山の上にあるので日があるがわは日が長いのだ。
 だが、反対側はすぐに暗くなってしまう。

 今いるのは日がすぐに見えなくなる側だった。
 日が暮れてしまう。
 シーダが宿をとってくれた。

「いらっしゃい! あら? 騎士団長さんがどうしたんだい!?」

「ちょっと国外に遠征に行ってきた帰りなんですよ。今日、空いてますか?」

「空いてるけど、何人だい? 結構な大所帯じゃないか」

「そうですねぇ。十人ですね」

「家にはそんなに個室はないんだけどいいかい?」

「大丈夫ですよ。何人部屋になりますか?」

「三、三、二、二かねぇ」

「じゃあ、俺達は三でちょうどいいな」

「俺もダンとウィンと三人部屋でいいぞ」

「それなら、ルリーちゃんは私とね?」

「フルルちゃん。私と寝ましょ?」

 部屋が決まった。
 なかなかいつも通りに泊まれてよかった。

 シーダが何でここにしたのか。
 それは、晩飯が美味いかららしい。
 確かに入口横に食堂があった。

「おばちゃん! エールを六……」

「私も飲みたいです!」

 アリーが手を挙げた。
 アリーは……大丈夫か?

「七……」

「わたくしも!」

 フードを被りながらも飲む気満々のフィア。
 飲んだくれてフードめくるなよ?
 大変なことになるんだからな。

「八で!」

「あいよ!」

 少し待つとすぐに持ってきた。

「よっしゃ! かんぱーい!」

「「「乾杯!」」」

 久しぶりのエールに喉が喜んでいる。
 ゴクッゴクッと喉を通っていく感触。
 そして、喉が熱くなる。

「カァーーー! うまい!」

 俺が言うより先にシーダがいい飲みっぷりで声を上げた。

「アァーー。美味いな」

 俺も思わず吐息が漏れる。
 エールはいつぶりだろうか。
 酔わないにしても美味いものは美味いのだ。

 食事はポトフのようなもの。
 そして、肉と芋を炒めたもの。
 タレが……美味すぎた。

 甘辛で食欲を掻き立てる香り。
 米をかきこみたかったが、米ではなくパンだった。
 それでも満足のうまさ。

 満腹でベッドに寝っ転がって疲れを癒すのであった。

 次の日は疲れがみんな取れたかのように元気に宿を出た。

 だから、人に監視されていようとは知る由もなかった。
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