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96.西門にて

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「フンッ!」

 ドゴォッと家の壁を壊す男。
 ただただ、破壊しているようだ。

「誰か、俺と戦う骨のあるやつは居ないのかぁ!?」

 意味のわからないことを叫びながら街を壊している。ただの戦闘狂なんだろうか。

「俺を待ってたのかァ!? 相手してやるぜぇ!」

「あなたを待ってたわけじゃないわよ?」

 勢いよくやって来たのはかつてテツと共に戦い、師と仰ぐショウだ。
 冷静につっこんでいるのはレイ。

「私に回復は任せて? 思う存分暴れてきていいわよ?」

「おぉぉぉお! レイさんが優しい! 幸せだァ! 行くぜオラァ! ビルドアップ!」

 ダンッと地面を蹴って駆ける。
 凄まじいスピードで肉薄し。

「フンッ!」

 ズドンッと男の腹に拳を突き刺す。
 しかし、男はビクともしない。

「ふんっ。この程度か?」

「ぐっ!」

 ショウの拳からは血が流れている。
 殴った方がダメージを受けるとは何事か。
 殴ったところを見てみると岩のようになっている。

「俺は、身体を岩に出来る! 誰にも負けん!」

 胸を張ってそう宣言する男。
 確かに男の身体はかなり硬そうな岩で構成されている。

「ショウ! 戻って!」

 レイに促されて戻る。
 回復魔法をかけてもらい。
 拳を回復させた。

「大丈夫!? あんな岩の体殴ったらショウの拳が悲鳴を上げるわよ!?」

「レイさん、大丈夫だ。俺は、こんな時のために今まで修行してたんだから……」

「そうなの!?」

 そう。
 ショウは魔王討伐の際に龍の鱗を殴って負傷し、そのせいで足でまといのような感じになってしまった。

 それをずっと悔いていたショウは、それを克服するべく修行をしていたのだ。
 その成果を今、発揮する。

「ふぅぅぅぅ。ハッ!」

 身体から湯気のようなものが上がり、空気が張り詰めていく。一緒にビルドアップもしているようだ。

「ほぉぉ? そんなので、この岩の俺の身体をどうにかできると思っているのか!?」

「できる!」

 再び肉薄する。
 が、今度は読まれていたため、岩の拳が待ち構えていた。

 ガンッと腕に岩の拳が突き刺さる。
 踏ん張って受け止める。
 腕は何ともないようだ。

「ショウ!?」

「大丈夫だ! 問題ない!」

「何が問題ないのだ!?」

 再び岩の拳を振り下ろしてくる。
 最小限の頭を動きだけで避ける。

「発勁!」

ドパァンッ

 破裂するような音と共に岩の身体に亀裂を入れる。内部から破壊できるのが発勁の強み。これは外側がいくら固くても関係ない。

「ぐっ! しかし! まだまだ! 俺は、こんなんじゃ、くたばらんぞ!」

 そう言うと少し引いて身体を揺さぶった。
 すると、先程のヒビが修復された。

「俺は、身体も修復できる! 無敵なのだ! はっはっはっ!」

「はっ! おもしれぇ。そんなに回復できるのが嬉しいか? 俺は、回復出来なくていい! 何故なら、レイさんに回復してもらえるからだ! このボッチ野郎が!」

「な、なんだとぉぉぉ! ボッチ関係ないだろう!」

 変な言いがかりをつけたショウだったが、それに乗って文句を言ってしまう男。

「もう、終わりにする! 潰れろ!」

 そう言い放つと身体を大きくして丸まった。
 そして、ショウの方に転がってくるではないか。

 後ろにはレイがいる為、避けることは出来ない。何とか岩を受け止めて踏ん張る。

「ショウ! 私の事は良いから! 避けて!」

「俺は、死んでも避けねぇ! レイさんは誰にも傷付けさせねぇぇぇぇ!」

 ゴウッと身体から気が溢れる。
 修行していたところではこれを闘気と呼んでいたそうだ。

 闘気を纏ったショウはどれ程強いのか。
 これからそれが証明される。

「はははっ! 受け止めたか! だが! まだあまい! オラァァァァ」

 自らを更に回転させて突進してきた。
 それを受け止める。
 そして、腕を円に回し始めた。

「ショウ? 何を?」

「みててください! 俺の修行の成果を!」

 手をグルグルと回していたが、だんだんと岩の回転する方向が変わっていく。縦回転から横回転へと変わる。

 そのまま宙に浮かせて見せた。
 それを空に投げ。

 空に向かって岩が昇っていく。
 そして、重力で落ちてきた。

 この勢いで岩を割ろうというのだろうか。
 そう思ったが、違ったようだ。

「闘気プラス! ビルドアップ! からの……」

 地しゃがんで力を溜めたかと思うと凄まじい勢いで跳躍した。

 ドンッという音と共に空に向かって飛び上がる。そして、もうすぐ岩と衝突する。

 ショウは両手を身体より後方に引いた。

 衝突する。

「ハァァァァァァァァァ! 千勁《せんけい》!」

 凄まじい速さで放たれた掌底は早すぎて視界に捉えることが出来ない。岩全体を掌底が覆っているという錯覚に陥るほどに。

ドバァァァァァァァンッッッ

 大きな岩は木っ端微塵に砕け散った。
 そして、砂となり風に吹かれて何処かへ旅立って行った。

 着地したショウの元へとレイがやって来る。
 ガバッと抱きついた。

「レイさん? ど、どうされました!?」

 カチコチになったショウはレイに問い質す。

「死んじゃうかと思った……」

「大丈夫って言っただろう!?」

「そうだけど……強くなったね。ショウ。エライエライ」

 ショウの頭をヨシヨシと撫でる。
 蕩けるように力を無くしたショウはフニャフニャと地面に倒れた。

 締まらない終わりだが。

 残る六芒星は一人。
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